第11章〜勇者編〜

第331話 閑話:ある少年の墜落と栄光

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恵まれた環境に、面白いぐらいに忠順な周囲の人間達。

今まで、この人生に俺は不満がなかった。

他の人間より恵まれた人生だったと言っても良いだろう。



『日坂弥生』



強いて1つだけ不満があるとすれば、この根暗なクラスメイトの女の事だけ。

この女、なんで生きてんの?

そう思うくらい、生気のない表情と瞳の女に苛立ち、ある日、面白い事を考えた。



「この女で俺が遊んでやれば良いんだ。」



その日から始まった遊び。

最初は驚き、俺達の遊びに困惑に瞳を揺らしていた女も、いつの間にか、また表情を失っていた。



『お前、生きてる価値なんてないよ。』



いつの日か、そう結論付けて遊んでいた女に対して一切の興味を失っていた俺。

それでも、俺が始めた遊びは終わらない。



「なんで、学校に来てんの?」

「根暗!」

「キモいんだよ、お前!」



広がる遊びの輪。

そのまま放置した遊びの輪が、後に俺の首を絞める事になる。



「ーーーっっ、自殺・・?」



あの女が死んだ。

どうやら、自ら学校の屋上から飛び降りたらしい。

俺は顔を青ざめさせた。



「凪、彼女が自殺したのは、お前が主導した虐めが原因なんだろう?」



親父の目が俺の事を責める。

こんな不祥事を起こし、自分の顔に泥を塗った俺の事を。

どうやら、あの女は遺書を残していたらしい。

克明に自分がされた全てを書いたノートを、何を考えたのか直接、教育委員会に送り付けて。



「チッ、」



親父から謹慎を言い渡され、部屋に軟禁された俺は舌打ちを打つ。

余計な事をしてくれた、と。

あの女に対して、苛立ちが湧き上がる。



『ーーーこの少女の自殺の原因は、どうやら虐めが原因のようで、ーーー』

「っっ、くそっ!」



連日賑わう、テレビのワイドショー。

こぞって今回の出来事を面白可笑しく報道するニュース番組に苛立ち、俺は見ていたテレビの電源を消すとリモコンを投げつける。

静まり返る、自室の部屋の中。



「・・一体、俺が何をしたって言うんだよ?」



だだ、遊んだだけ。

俺の嘘を信じた施設の奴も、一緒に遊びに加担したクラスメイト達だって同罪じゃないか。

なのにーー。



「相馬凪、彼があの子の虐めを主導してたんだって!」

「ひどいよね?」

「虐めとか、あり得ないんだけど!」

「その虐めが自殺の原因なんでしょう?」

「そうなら、相馬凪って最低な男じゃん。」



誰もが俺の事を責める。

自分達だって、あの遊びに加わっていたのに、だ。

俺だけが悪いのか?



「なんで、人殺しが学校に来てんの?」

「自殺にまで追い込んだ癖にね。」

「本当、最低。」



あの女が死んだせいで、俺に向けられる学校の奴等の視線が変わっていった。

蔑むように、俺へと軽蔑の目を向ける。



「相馬君が始めたんだよ?」

「私達は、相馬君と一緒に少しだけ笑っただけだし!」

「凪が原因だろ?」



クラスメイトの奴等もそうだ。

自分の保身の為に、誰も彼もが俺だけが悪いのだと言う。

理不尽さに、頭がどうにかなりそうだ。

これも全部。



「ーーー日坂弥生。」



あの女のせい。



「っっ、な、んだよ、これ!?」



そんな時だった。

俺やクラスメイト達の足元に、ファンタジーとかで描かれるような魔法陣が光り輝いたのは。

眩い光に、目を閉じる。



「良くぞ我らの呼びかけに応えて、この世界へ来てくださった、異世界の勇者よ。」



目を開けた俺の視界は一変していた。

気が付けば、俺を含めたクラスメイトと担任の教師は異世界にいると言う夢の様な展開。



「・・どこだ、ここは?」



周囲を見渡す。

が、俺が知る建物や人ではない。



「まさか、ここは本当に異世界、なのか?」



唾を飲む。



「なんと、ほとんどの者が髪や瞳の色が黒色とは!」



最初に歓迎の声をあげた白い髭を生やし、王冠を被ったおじさんが不快げに眉を寄せる。



「お父様、そう言わず、まずは彼等の中に本当に勇者様がいらっしゃるかどうか確認してみてはどうですか?」

「うむ、そうだな。」



お父様と呼ぶ、俺達と同い年ぐらいの高そうなドレスを着た女に言われ、おじさんは頷く。

確認される、俺達のステータス。

他人のステータスを見るのは、この聖皇国パルドフェルドの神官の中の極一部の人間だけが可能らしい。

他国には内密らしいが。



「・・俺達が喋ったら、どうするんだ?」



危機感がないのか?



「おぉ、貴方様が、勇者様なのですね!」



俺のステータスを見て、涙を流しそうなくらいに瞳を潤ませて興奮しだす神官。

周りの視線が俺達へと集まる。

俺が勇者?



「勇者殿、貴殿の降臨を心より歓迎しますぞ!」



この国の皇王と名乗ったおじさんが不愉快そうだった顔から満面の笑みに変わる。

勇者の称号を得た俺は、この国で確固たる地位を確立した。



「勇者様、どうぞ、我等をお助けください。」



この俺に、全員がひれ伏す。

勇者。

この国を救う者。



「ーーー分かった、この俺が勇者だ。」



俺は選ばれた。

偽りと言う名の、女神の策略で選ばれた勇者に。

俺がその事実を女神自ら知らされるのは、もう少し後の事だった。

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