第328話 女神からの招待

されるがまま、2人に頭を撫でられる私。

頭を撫でてくれる2人の優しい手の動きに、アレンの腕の中で私の瞳が細まった。



「ディアちゃん、今日は貴方にお願いがあって来たの。」

「私達のお願いを聞いてくれる?」

「2人が私にお願い・・?」



目を瞬かせる。



「そう、ディアちゃんには私達の母神、ニュクス様に会って欲しいのよ。」

「ニュクス様が、貴方を待っているの。」



母神様の名前が出た事に驚く。

私に会いたい?

この世界の生きてる者の全ての母であり、多くの人の信仰の対象であるべき方、ニュクス様が?



「・・・どうして、ニュクス様が私に?」



困惑しかない。

この世界に私が転移した事と、ニュクス様は何か関係があるのだろうか?



「ディアちゃんが困惑するのも無理もないわ。」

「母神たるニュクス様には、誰であろうと直接は会えないものね。」

「例外は、聖女への信託だけだし。」

「そそ、聖女への信託も声だけ届ける事が多いいのよね。」



2人が肩を竦ます。



「では、どうやって私はニュクス様に会うの?」

「夢の中で、よ。」

「私達は、それを夢渡と呼んでいるわ。」



夢渡。

現実の様な夢の中でニュクス様に会うって事・・?



「私はただ寝れば良いの?」

「えぇ、そうよ。」

「後は私達がニュクス様の元へディアちゃんを誘うわ。」



頷く2人。

この世界の絶対の女神、ニュクス様。

その方に会いに行く。

唾を飲む。



「困惑するのも当然だけど、これもディアちゃんの為なの。」

「ディアちゃんを傷付ける事はないと約束するから、ニュクス様へ会ってくれないかしら?」



縋る様な眼差しを2人から向けられる。



「ーーー分かった、ニュクス様に会いに行く。」



理由は分からない。

でも、私はニュクス様に会わなくてはいけないのだろう。

そんな予感がした。



「でも、私1人では行けない。」



懸念を吐露する。

行かないのではない。

行けないのだ。

今だって、1人でいる事で不安定になってしまうから。

そんな不安定な中で、私1人でニュクス様の元へ行くのは無理に近い。



「分かった、何人か一緒に連れていくわ。」

「ディアちゃんの事が優先だから、任せておいて!」



私の懸念を請け負ってくれる2人。

それならばと頷けば、2人の皆んなへの根回しは早いもので。



「じゃあ、準備は良いわね?」



自室の大きなベットに私、コクヨウ、ディオンとオリバー、アレンの5人で寝転ぶ私達をカティアが見渡す。

少しベットの上が狭くなるが、何とかいけそうだ。

私以外のニュクス様の元へ行く他の4人の人選もカティアとライアが決めたから、このベットの多少の狭さも仕方ないと諦めしかない。



「ディア様、屋敷と皆んなの安全は、このアディライトがお守りするのでご安心を。」

「ありがとう、アディライト。」



泣きそうなアディライトに微笑み、リリスとロッテマリー、ルルーシェルへと視線を向ける。



「アディライトのフォローを、お願いね?」

「はい、ディア様。」

「っっ、ロッテマリーは、ディア様のお目覚めを、このお屋敷でお待ちしております。」

「ルルーシェルも、頑張ります!」



涙を目尻に溜めて拳を握るルルーシェルの姿に小さく笑う。



「ルルーシェル、これが最後のお別れじゃないんだよ?帰ってくるから泣かないで?」

「っっ、はい、お待ちしております。」



頷くルルーシェルから、カティアとライアの2人へ視線を向ける。



「では、眠りなさい。」



カティアの声を最後に、私の意識はぷつりと途切れていく。

湖の底へ、ゆっくり落ちていく感覚。

心地良さに微睡む。



「ーーー・・ディアちゃん達、そろそろ目を開けて?」

「もう着いたわよ?」



カティアとライアの2人の声に、目を開ける。

私は目を開けた先の光景に驚く。



「草原・・・?」



見渡す限り、草原が広がる風景。

私の頬を風が撫ぜる。



「ニュクス様は、あの水辺の東屋にいるわ。」

「行きましょう?」



2人が指差す先にある東屋。

どうやら、あの東屋に私の事を呼ぶニュクス様がいるらしい。

緊張に手を握る。



「ーーーそう緊張しなくても大丈夫です、ディア様。」



私の顔を覗き込むコクヨウ。



「そうです、ディア様のお側には、私達がいるのですから。」



ディオンが微笑む。



「どこまでも、俺達は一緒です。」



オリバーは頷く。



「皆んながいれば、怖いものなんかありませんでしょう?」



緊張する私の手をアレンが握った。

身体の力が抜ける。



「うん、ありがとう、皆んな。」



自然と私の頬が綻んでいく。

行こう。

ニュクス様の元へ。

カティアとライトの後に続き、私達はニュクス様が待つと言う東屋の方へと足を進めた。



「ーーー・・待っていたわ、私の愛おし子。」



東屋にいたのは、1人の美女。

ゆったりと椅子に腰掛ける美女は、慈愛の眼差しを向けて私達の事を東屋の中へと招き入れた。

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