第327話 止まったままの時間

嬉しそうに破顔するコクヨウとディオンの2人は、いつ間にか部屋から出て行っていたアディライトをすぐさま呼んで私の食事の用意を頼む。

数分後には、アディライト達によって私の目の料理の皿が並んでいた。

しかも、私が好きなものばかり。



「アディライト、こんなに食べられないよ?」

「ふふ、好きなだけ食べてくだされば良いんです。残れば私達が食べますので。」



当然の様に私の事を誰の膝の上に座らせるかで一悶着あったが、じゃんけんで勝ったオリバーに抱き締められながら大量の料理に困れば、アディライトが微笑む。



「無理だけはダメですよ?」

「ん。」



こくりと頷き、何から食べようかと料理に目を彷徨わせた。



「ディア様、何から食べますか?」

「ハンバーグ。」



コクヨウに問われ、ハンバーグを所望する。

デミソースのハンバーグは私にお気に入りの料理なのだ。



「次は何を良いでしょうか?」

「冷たいお飲み物も数種類ありますよ?」



オリバーの膝の上に座り、コクヨウとディオンの2人から甲斐甲斐しく食事や飲み物が私の口元へと運ばれる。

その優しさを、ただ感受するだけの私。

誰かの側を絶対に離れようとしない私の我儘を、コクヨウ達全員が笑って受け入れてくれる。



「ディア様、美味しいクッキーを見つけましたから、今日はお持ちしました。」

「新しい書籍が手に入ったので受け取ってください。」

「ディア様に似合いそうな色合いの生地で仕立て洋服を着てくださいますか?」



皆んなに甘えている事は分かっていた。

こうやって何だかんだと用事を作り、皆んなが私に自分の顔を見せに来ている事も。

全ては、私を安心させる為。

自分達が私の側にいると教えてくれている。



「ディア様、せっかくですから、この仕立てばかりの洋服に着替えた後にクッキーを食べながらお茶を飲んで、一息つきましょうか?」

「ん、」



微笑むアディライトへ頷き、膝の上に座りながら抱き着いていたアレンの事を私は見上げる。



「・・アレン、もう帰る?」

「よろしければ、僕もディア様とお茶をしたいです。良いですか?」

「ん。」



こくりと頷きほっと息を吐く。

アレンも、まだ私の側にいてくれる。



「可愛らしく着飾ったディア様の事を、この部屋で待っていますね?」

「うん、分かった。」



アレンの腕の中から私は抜け出す。

アディライトと手を繋ぎ向かうのは、自室。



「まぁ、とてもお似合いで可愛らしいですわ、ディア様!」

「まさにディア様の為にあるような洋服です!」

「美しい!」



着替えた私をアディライト達が絶賛する。

照れ臭い。

アディライト達にはにかむ。



「さぁ、可愛らしく着飾ったディア様の事をアレンも首を長くしてお待ちですので、そろそろ戻りましょうか?」



アディライトに手を握られる。

あの日からそうだ。

怯える私を、こうやって皆んなは甘やかす。



「っっ、その服、とってもお似合いです、ディア様!」



破顔するアレンもそう。

自分の家族である父親、この国の王に生存を知られるかも知れない危険を承知で、こうして私に会いに来る。

全ては、私の為。



「このクッキーも美味しいですね?」

「ん、美味しい。」

「ふふ、ディア様も気に入りましたか?」

「うん。」



分かっているの。

皆んなの優しに甘えて、私は居心地の良いぬるま湯の中で見たくないもなものから目を逸らしているだけだって言う事は。



「・・・アレン。」

「何ですか、ディア様?」

「もっと強く、私の事を抱き締めて。」

「喜んで。」



アレンの腕の中で、私は目を閉じた。

私の時は止まったまま。

可笑しいな、あんなにも怖くて絶対の存在だったお父さんの事を捨てて、幸せになるって思っていたのに。

実際は、現実から目を逸らし続けている。



「ーーーディアちゃん、心が濁ってしまったわね。」

「とても辛そうだわ。」



アレンの腕の中で微睡む私の側に、2つの強い神気が降り立った。

その神気に、私は閉じていた目を開ける。



「・・カティア、ライア。」



名前を呼ぶ私の顔を、2人が覗き込む。



「ディアちゃん、大丈夫?」

「ライア、貴方の光の力でディアちゃんの事を回復できない?」



2人が心配そうに目尻を下げる。



「私は大丈夫だよ?」

「もう、そんな顔で大丈夫な訳がないでしょう?」

「今のディアちゃんに大丈夫なんて言われても、全く説得力がないわ。」



目を釣り上げる2人。

怒った様な表情の2人から責められて、しゅんと私は肩を落としてしまう。



「・・ごめんなさい。」

「謝って欲しいわけでもないのよ?」

「私達は、ディアちゃんの事が心配なだけなんだから。」



伸びてきた2人の手は、私の頭を撫でた。

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