第319話 話す価値もない王族

王室の側室として嫁げと言う褒賞という名の脅迫を跳ね除けるアディライトにきつい眼差しを向ける王の姉。

なんて理不尽な事だろうか。

王室に嫁げる事が幸せ?



「・・ふ、ふふ、なんとも笑わせてくれる。」



私はゆらりと立ち上がる。



「アディライト、帰りましょう。この様な者達と貴方が話す必要などないわ。」



この瞬間、この国の王族の事を私は見限った。

許されざる愚行。

この私からアディライトを奪おうとしたのだから。



「なっ、この無礼者!たかが冒険者風情が王の姉たる私に対して無礼であろう!?」

「は?人の奴隷を奪おうとする犯罪者に礼儀云々を言われたくなんか有りませんが?」



冷たい眼差しを王の姉へ向ける。

どこに自分に対して犯罪を犯そうとしている人に敬意を持って接する人間がいるんだ?

少しは考えろ?



「っっ、だから、我々王室が其方の奴隷を言い値で買い取ろうと言うのだ!光栄と思いなさい。」

「お断りいたします。」



即答。

考える必要も無く、返事は拒否一択である。



「な、何ですって!?」

「アディライトは私の大事な家族です。貴方方に大切な家族であるアディライトをお譲りする事は未来永劫ございません。」

「このっっ、」



顔を真っ赤にしてわなわな震える王の姉。

屈辱を感じている様子。



「と言いますか、まず最初にアディライトの主人たる私に話を通すのが礼儀では?誠心誠意の話し合いはどうなったのです?」



淡々と指摘。

王族として発言するなら、きちんと礼儀と根回しが必要でしょう?

元皇女としても失格だと思う。

まぁ、私としては王の姉は人間としても、クズだと思うけど。



「あぁ、この国の王族の誠意とは、この様なものなのですね?貴方様の言動や振る舞いにも納得しました。」



こき下ろし、嘲笑う。



「ですが、先ほども申した通り、アディライトをお譲りするお話はお断りいたしますわ。では、これで私達は失礼いたします。」



慇懃に頭を下げ、背を向ける。

私の背に続く、皆んな。



「っっ、衛兵、その無礼者を引っ捕らえよ!」

「姉上!?」



捕縛の命令を出す王の姉。

王は驚きの声を上げるが、困惑するだけで自分の姉を抑えることも出来ないのか私達を捕縛しようとする動き出す兵達を止める事はない。

その姿に王として頼りなく感じてしまう。



「ーーーディア様、どうか僕達に無礼者を屠る許可を。」

「えぇ、塵も残さず私達がゴミを殲滅いたします。」

「どちらが身の程を弁えていないのか、このアディライトが教えてあげますわ。」

「「抹殺!」」



無表情で兵達に絶対零度の眼差しを向ける皆んな。

怒り心頭の様子。



「その必要はないわ。彼らを断罪するに相応しい方がいるもの。」



この国は海竜を信仰する。

その為、王城は高台に造られ、この会見の間も海を見渡せる様に大きな窓ガラスとなっていた。



「うふふ、その傲慢さを反省してくださいね?」



一気に窓へ辿り着く。

兵達は私の事を止める事はできない。



「ねぇ、海竜様。貴方の乙女を理不尽に奪われそうになっているのだけど、どうすれば良いかしら?」



微笑み、窓を開け放つ。

その瞬間、竜の咆哮が響き渡った。



「「「なっ、」」」



ビリビリと周囲を威圧する様な怒りの咆哮に驚愕に顔を青ざめさせる王族や貴族、兵達。



「あらあら、どうやら皆さんは海竜様の怒りに触れてしまった様ですね?」



大変、と楽しげに微笑む。



「っっ、そんな、一体、どうして!?」

「どうして?元王女殿下はお忘れの様ですが、アディライトは海竜様を鎮めた乙女ですよ?」

「あっ、」

「うふふ、その乙女に対して不当に王室に輿入れを強要し、それを断ったら権力で脅す。あら、大変、海竜様のお怒りになるのも当然ですよね?」

「っっ、」



言葉を失う王の姉。

にこやかに微笑む私の後ろに海竜様が降臨した。



『ーーー久しいな我が乙女よ。』



頭の中に流れる海竜の声。



「お久しぶりでございます、海竜様。」

『うむ、我が乙女も、其方の主人も息災の様で安心した。して、何やら我が乙女に対して不遜な要求をしている様だな?』



恭しく頭を下げたアディライトへ優しい声をかけ、王族や貴族、兵達へは厳しい声で問いかける。



『いつから、其方達は我が乙女を自由にする権利を得た?誰の許可があっての事だ?』

「っっ、お、恐れながら、海竜様。何やら誤解がある様ですわ。」

『誤解?ふむ、其方は先代王の娘だったな。その誤解について、申してみよ。』

「はい、海竜様の乙女には、先日の功に対してに労いのお言葉を授ける為に本日は呼んだのです。」



ぎこちなく王の姉が取り繕う様に微笑む。



「ですから、海竜様の乙女へ無礼な行いはしておりません。」

『・・と申しておるが?我が乙女の主人よ。』



海竜様からの問いかけに私は満面の笑みを浮かべた。



「誤解、ですか、なるほど。では、それが本当かどうか海竜様に証拠の音声を聞いていただきご判断していただきましょう。」

「「「は?」」」



ポカンとしだす一同に、私は魔道具を発動。



『陛下、その様な下賤の者に謝る事はありませんよ。』



おい、労いの言葉はどうした?

これが労わる人間に対しての言葉なの?



「うふふ、可笑しいですね。この魔道具の音声を聞くに、先日の功に対してに労いのお言葉を授ける為に本日は呼んだだけだと言うには無理があるのでは?」

「っっ、そ、それは、・・」

「あらあら、海竜様に嘘はいけないのではありませんか?ねぇ、元王女殿下?」



許す訳ないでしょう?

私からアディライトを奪おうとした貴方や、この場にいる人達の事を。

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