第320話 ひれ伏す者達
突然の私の暴露攻撃。
私の後ろからは、小さな悲鳴がちらほら。
『・・ほう、王家がこの様な横暴な命令をしたとはな?しかも断れば、罵りもする、と?」
「はい、続きの記録もございますので、ご確認を。」
とても良い笑顔で、私はずっと頭につけていた記憶の魔道具である髪飾りをカイザーへ差し出す。
『喜びなさい、そなたは王の側室となり、王家の為に貢献なさいな。』
自分の魔力を流し、再生される先ほどのやり取りの続きを全てカイザーへ聞かせる。
はい、暴露終了。
「私達では権力に勝てなく、王家からの命令に困っておりますの。お断りしても、罵られるだけで。」
助けてね?
この街の守護者、海竜様?
海竜ほど、この国で人達を断罪する最適な存在はいないもの。
私は1人、ほくそ笑む。
『ーーー我が乙女達への無礼、そなた等は何と考える?』
ひたりと、海竜の視線が私の後ろへ向く。
「「「ひっ、!」」」
顔を青ざめさせ、身体を震わす貴族様達。
言い訳ぐらいしたら?
「何でも、王家は原初の乙女の血筋なのだとか。」
喜べ。
ちゃんと私が全部話すから。
「だから、私達の様な下賤な存在とは自分達は違うそうですよ?」
ゆっくりと、後ろを振り返る。
「ですよね?元王女殿下、ロザリア様?」
私が見つめるのは1人。
王の姉で元王女殿下でもある、原初の乙女の血を受け継ぐロザリア様である。
「だから、アディライトは、そんな王の側室になれる事は光栄なお話なんですよね?本人は望んでなんかいないのに。」
「ーーーっっ、ち、違っ、私は、」
目を泳がせる、元王女。
必至に言い訳を考えているのかな?
「あら、今更言い訳ですか?ふふふ、今までの貴女様のお言葉は、全てこの魔道具に記録してありますが?」
「・・・。」
絶望に真っ青になった元王女が言葉を失う。
うん、自分が悪い。
全て自分の身から出た錆び、自業自得と言うものだ。
『ふむ、あの娘の血を引くからと、そうも傲慢な心根を持つ様になるとは、何とも嘆かわしい。』
海竜からも、元王女達へ冷たい視線が向けられる。
『我が乙女は、決して、その血で決まるのではない。その心根の優しさと、その娘が我を強く案じ、心から自国の民を守りたいと思う気持ちに応えて、乙女として認めるのだ。』
厳しくなる、海竜の声。
『あの娘の血を引くからと言って、我がそなた等を優遇する事はこの先、未来永劫ないと心得よ!」
その乙女の事は大事。
だが、その子孫の事は自分は知らないよ。
って所かしら?
『そして、我が乙女の主人、ディアレンシア・ソウルは、大事な友である。』
「「「友っっ、!?」」」
驚く元王女達。
はい、今や海竜の友であり、敬う存在となったディアレンシア・ソウルです。
加護を与えてくれている精霊王達の存在を私が周囲へ隠しているので、今は友として海竜は接してくれているんだけどね。
「ふふふふ、皆さん、アディライトの王への側室としてのお話、まだ続けますか?」
海竜の前で聞くよ?
私は満面の笑みで首を傾げた。
「そ、その話は、何かの間違いだったわ!ほ、褒賞の話を早くしなくては、ねぇ、陛下!?」
頬を痙攣らせ、元王女は陛下に視線を向ける。
「大業をしたのですし、彼女達には褒賞金を与えてはいかがです?」
「あ、あぁ、そうしよう。」
元王女の提案にこくこくと、王は頷く。
何とも頼りない王である。
自分の姉に、王でありながら頭が上がらない様だ。
「褒賞金の金額は、この国の宰相と話し合って決めると良いわ。宰相、任せたわよ!?」
「はひっ、!?」
無情にも元王女から言われ、この国の宰相であろう男が目を剥く。
そのまま、その場に倒れてしまいそうな顔色である。
うん、その気持ちは分かるよ。
全てを丸投げされたんだから、倒れたくもなるよね?
「頼みましたよ、宰相!で、では、海竜様、私はこれで失礼致しますわ!」
そそくさと、元凶である元王女が逃走。
お見事である。
だが、これで終わりと思うなかれ。
この声や、私達のやり取りは街中の人達に魔法で全て筒抜けなので、この先も王族や貴族へは厳しい目が向けられる事だろう。
「ありがとうございました、海竜様。」
頭を下げる私。
その横で、アディライト達も私と同じ様に頭を下げる。
『良い、大事な友の為だからな。』
優しい声色へ戻った海竜が、ゆっくりと空へと登って行く。
『達者でな、我が友と乙女達よ』
そのまま、私達に背を向けて海竜は海の方へと帰って行った。
「ーーーさて、褒賞の事、じっくりと話し合いましょうか?」
後ろを振り返る。
一体、どんな誠意を見せてくれるのかな?
「「「っっ、!!」」」
怯える王と貴族達に、私はにっこりと微笑んだ。
結果は、上々。
海竜の威光にひれ伏した者達との話し合いの結果、多額の報奨金と、この国の静かな場所にある大きな土地を私達は手に入れた。
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