第316話 正しい謝罪の仕方

どう?

私のアディライトは凄いでしょう?



「素晴らしい舞だったわ、アディライト。なのに、貴方の事を『厄災の魔女』なんて蔑むなんて酷いわよね?」



ちらりと視線を向けるのは、宿に武器を手に乱入して来た街の人。

その顔は青ざめている。



「サフィアさんの嘘の言葉に唆されて、アディライトの襲撃を企むなんて、私、怖いわ。」



よく聞け?

この街の人達が、海竜を鎮めたアディライトに対して何をしたのかを。



「アディライト、もうルーベルン国の屋敷へ帰りましょうか?こんな物騒な街にいたら、またいつ街の人達に襲撃されるか分からないものね?」



歓喜から一点。

自分達が仕出かした事の重大さに気が付いた街の人達が、顔を青ざめさせた。



「っっ、アディライト、この街の事を恨まないよな?」

「誤解だったのよ、分かるでしょう?」



弁明。

醜い言い訳を並べ出す街の人達。



「ーーーっっ、全て、俺達を騙したサフィアが悪いんだ!」



終いには、責任を他人に擦りつけ始める始末。

おい、こら。



「誰が悪いとか言う、その前に、皆さん、アディライトへの謝罪は?」



ふざけるなよ?

人の宿にまで無遠慮に乱入して来て、謝罪の一つもないの?

まず初めに、ごめんなさいでしょう?



「貴方はサフィアに唆されたと言いますが、実際に行動に移したのはご自身達でしょう?なら、貴方達もアディライトへ心からの謝罪ぐらいするべきなのでは?」



誠意を見せろ?

此方は被害者なんだぞ?



「皆さん、アディライトへ言う事があるのではないですか?」



住人達へ視線を向ける。



「良くも海竜様を鎮めてくれた私の大切なアディライトの事を『厄災の魔女』などと呼んで貶めて下さいましたね?」



忘れてないよ?

と言わんばかりに、微笑みを深めた。



「しかも、武器を持って宿まで押しかける暴挙まで仕出かしていらっしゃる。」



アディライトに何か仕出かす事間違いなしだったもの。

暴力か。

はたまた、処刑になった可能性もある。



「皆さんからアディライトに対して謝罪はありませんの?」



笑顔のまま、首を傾げる。



「それとも、アディライトから海竜様へお願いして、鉄槌を下される方をお望みですか?」



暗に海竜を盾に、住人達を脅す。

自業自得である。



「っっ、すまなかった、アディライト。」

「貴方の事を『厄災の魔女』と呼んで貶めた事を心から謝る!」

「どうか、俺達の事を許してくれ!」



次々に謝り始める住人達。

は?

私の目が細まる。



「え?アディライトの謝罪はそれだけ?」



だが、そんな事で住人達を簡単に私が許す訳がない。

不思議そうな表情を私は作る。



「それが謝罪なのですか?へー、貴方達の誠意ある謝罪は、そんなものなんですね。」



言ったよね?

アディライトへ心からの謝罪をしろって。



「この街を救った英雄でもあるアディライトへの謝罪何ですよ?ふふ、額を地面に擦り付けてでも許しを乞うのが誠意ある謝罪なのでは?」



所謂、土下座。

これこそ、正しい誠意ある謝罪でしょう?

住人達の全員の顔が凍った。

固まる住人達。

何を、そんなに驚いているのか。



「何もしていないのに、急に私達が泊まる宿へ武器を手に押しかけて?貴方達の謝罪はそれだけなんですか?」



ごめんなさいで済むのは、小さい子供だけだ。

彼らがした事は、立派な犯罪。

サフィアの時とは違い、私は貴方達の事を許すなんて一言も言ってないからね?

 


「皆さん、アディライトに悪いと思っているんですよね?」



良い大人が見本を見せろ?



「心からの誠意を見せて下さい。皆さん、今、この場で。」



どう?

断罪される側に立つ気分は?



「心からの謝罪として、皆さん、アディライトへ土下座してくださいな。」



満面の笑みを浮かべた。



「それとも、海竜様の怒りを鎮めて、この街を救ったアディライトは敬う人間ではないと言います?」



あら、大変。



「そう皆様が言うなら、自分の事を鎮めてくれた海竜様は、何と言うでしょうか?」



嵐の再来かしら?



「ふむ、我も乙女を貶められて憤りを感じているな。」



住人達への謝罪要求に、海竜様が参戦。

ナイスなアシストです。



「と、海竜様も言っておりますが?」



この機に追撃。

無礼な襲撃者達に情けなどなく、容赦なく徹底的に住人達を追い詰めていく。



「「「すみませんでした!」」」



屈する街の人達。

アディライトへと、サフィアを除く全員が地面に額を付けて土下座した。



「っっ、申し訳ありませんでした!」

「どうか、お許し下さい!!」



海竜様のご威光が効いたのか、全員が一斉にアディライトへ土下座の謝罪を始める。

また怒らせたくないもんね、海竜様を。

皆さん、とても素直な事だ。



「最初から、そうやって誠心誠意性の謝罪をしてくださればよかったんですよ。」



いい大人が、情けない。

謝罪の仕方さえ、忘れてしまったのかしらね?



「っっ、申し訳ありませんでした!」

「どうか、お許し下さい!!」



繰り返し何度も頭を地面に擦り付け、必死にアディライへ謝り続ける住人達。

大人も子供も関係なく、アディライトへ許しを請う為に平伏している。

サフィアだけが、蒼白な表情で座り込んでいたが。

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