第308話 悪意の夫自慢

このままだと、私達は悪者。

少し軌道修正するべく、上手く立ち回りますか。



「アディライトの主人として謝罪します、サフィアさん。どうかアディライトの事を許して下さらない?」

「っっ、誰が!?」

「サフィア?」

「っっ、」



私の提案を断ろうとしたサフィアの名前をアディライトが静かに呼ぶ。

効果覿面。

途端に、サフィアが口を噤む。



「まぁまぁ、アディライト。サフィアさんも誤解してしまっただけの事なんだから、そう怒らないの。」



アディライトを宥め、サフィアへ同情の眼差しを向ける。



「それにしても、素敵な婚約者を持つと、サフィアさんも大変なんですものね?」

「え・・?」

「とてもお似合いな2人なのに、婚約者が素敵だと不安も出てきてしまうのは当たり前だわ。自分以外の人と、なんて考えてしまうのも当たり前ですもの、恥じる事は有りません。」



にこやかに微笑む。



「私の夫達も素敵だから、いつも不安で。」



背後にいるコクヨウとディオンの2人に視線を向け、私は顔をサフィアの方へ戻す。



「だから、サフィアさんの不安になるお気持ち、とても分かるの。だから、アディライトに嫉妬してしまったのよね?」

「え、あっ、そうね、」



サフィアの目が、ちらちらとコクヨウとディオンの2人に向く。

蒼白な顔に、血の気が少し戻る。

どうやら、サフィアはコクヨウとディオンの2人に良く思われたい模様。



「ふふ、サフィアさん、そんなに私の夫達は素敵でしょうか?」



ただの夫自慢?

バカを言わないでちょうだい。

これは、伏線。

次なる種を芽吹かせ、大輪の華を咲かせる為の、ね。



「・・えぇ、素敵よ。」



先程からコクヨウとディオンの2人に釘付けのサフィアの瞳。

おい、隣に婚約者いますよ?



「さぁ、サフィアさん、いつまでもそんな風に地面に座っていては身体に悪いわ。立てます?」

「えっ、あぁ、立てるわ。」



私の手を借りなかったけれど、サフィアが立ち上がる。

その隣に寄り添うトム。



「トムさんも、貴方の大切な婚約者にアディライトがひどい事をして、ごめんなさいね?」



目尻を下げ、か弱げな表情でトムを見つめる。



「許して下さる?」

「っっ、は、はい、もちろんです!」



真っ赤に頬を染め、何度も上下に頷くトム。

ちょろくない?

そんな簡単にアディライトの事を許して良いの?

婚約者にあんな事したのにね。



「サフィアさんも、アディライトの事を許して下さるかしら?」



未だにコクヨウとディオンの2人の容姿にぼんやりと見惚れるサフィアへと問う。



「え?えぇ、良い、わ。」



ちらちらとコクヨウとディオンの反応を見ながら頷くサフィア。



「ありがとう、トムさん、サフィアさん。」



破顔する。

2人から言質を取りました!

トム、サフィア、2人とも扱いやすくてありがとう。



「っっ、」

「ーーートム?」



真っ赤になりながら私に見惚れるトムに気付いたサフィアが、顔を険しくして睨む。

あらあら、自分も同じ事をしたのにね?

同類の2人。

まさに、お似合いである。



「ふふ、トムさん、サフィア、アディライトの事を許してくださり、ありがとう。さすが、幼馴染ね?」



こてりと、首を傾げる。



「トムさんなんて、数年ぶりの再会なのに、アディライトの事を忘れずに大勢の中からでも見つけられるぐら大事に思ってくれているんですもの。私、感動しました。」



婚約者より大事なのですね?

貴方の事なんか何とも思っていない、アディライトの事が。



「「っっ、」」



変わる、トムとサフィアの表情。

トムは動揺に、サフィアはアディライトへの怒りに。



「ふふ、サフィアさん、私やアディライトに嫉妬する事はありませんわ。」



言って、トムに視線を向けた後、私はうっとりとコクヨウとディオンの2人を見つめる。



「私、夫達しか全く眼中にありませんから。」



サフィア達へ視線を戻し、鼻で笑う。



「夫以下の存在に心を移す事なんて、するはずないじゃないですか。」



私の夫より、貴方の婚約者は優れています?

そう言葉に棘を滲ませて、私は2人へ美しく微笑んだ。



「「なっ、!?」」



私が言葉に滲ませた意味を理解できたのか、屈辱に染まる2人の顔。

滑稽である。



「あら?まさか、私に自分の婚約者が惚れられるとお思いでしたの?」



せせら笑う。



「あぁ、婚約者よりも美しい女性や男性に目を奪われるのは、男として致し方ない事だと私も思いますけどね?」



実際、サフィアよりアディライトの方が美人。

トムが惚れ込むのも分かる。

私の愛する夫達は、もちろん別だけれども。



「ふふふ、最高の夫達に愛されて、毎日を幸せに過ごしている私が貴方の婚約者を好きになる訳がないでしょう?」



ふわりと微笑み、首を傾げた。

アディライトの魅力に気が付いた事は褒めよう。

だがしかし、私のアディライトに自分が相応しいと思っているの?



「もしも、これはもしもの話ですよ、サフィアさん。貴方の婚約者のトムさんがアディライトの事が好きだとしても、そのお相手には勿体無い女性だと思いませんか?」



私のアディライトよ?

生半可の気持ちのトムに、アディライトは勿体無い女性だもの。

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