第300話 コクヨウの不安

こうして私の心を動かせるのは、家族である皆だけ。

邪魔な他の人達はいらない。

大事な人達だけが、私の側にいてくれればいいの。

そんな世界に、私は捕らわれていたい。



「コクヨウ、例え貴方の手が血に染まろうとも構わないわ。どんなコクヨウでも、愛してるの。」



ほら。

私の言葉に、コクヨウが嬉しそうに微笑んでくれる。

薄っぺらい愛なんかいらない。

人は平気で、愛を捨ててしまうから。



「ーーー・・ディア、貴方の事が欲しい。」

「ん、私も。」



頷けば、コクヨウに抱き上げられる私の身体。

キスを何度も繰り返しながら、そのままコクヨウによって寝室のベットへと運ばれる。

優しくベットへ置かれ、沈む私の身体。



「ディア・・?」

「う、ん?」



覆い被さるコクヨウを見上げる。



「好きです。」

「うん。」

「誰よりも、なによりも愛してます、貴方の事を。」



ゆっくりと脱がされる服。



「ーーー・・このまま、貴方と1つになれたら良いのに。」



剥き出しの私の肩にコクヨウが口付ける。

私達の愛は歪で、普通ではない。

でも、良いでしょう?



「そうすれば、不安も孤独も、ディアと全て分かち合えるのだから。」



それが、私達の愛し方。

この可笑しいと非難される狂気こそ、何よりも私達が求める愛なのだ。



「ふふ、そんなの困るわよ、コクヨウ。」

「困る?」



コクヨウが私の顔を覗き込む。



「だって、コクヨウとこうして抱き合えなくなるでしょう?」



そんなの嫌だ。

私に覆い被さるコクヨウの髪を梳く。



「私はコクヨウと、こうして抱き合うのが好き。」



目尻に。



「コクヨウに、名前を呼ばれるのも嬉しい。」



頬に。



「その瞳に私の事だけを見てほしいと思ってる。」



唇に口付ける。



「コクヨウ、私は貴方の全てが愛おしいの。」



悪女と呼ばれても構わない。

誰か一人を一番に選べない私は、全員の事を手に入れる。



「だから、そんな事を言わないで?」

「は、い、」



頷くコクヨウと手を繋ぐ。

重なる私達の手。



「ーーー・・もっと強く、コクヨウ、深く私を抱いて。」



出会えた奇跡。

この出会いを、運命と思いたい。



「コクヨウ、貴方が不安にならなくなるぐらいに。」



不安にさせている自覚はある。

今回は自分から敵を煽り、悪意を向けようとしているのだから。

私に過保護なコクヨウが不安にならない訳がない。



「・・ディアは、」

「うん?」

「どこまで僕を貴方に惚れさせるつもりですか?」



上がる私の口角。

どこまで?

そんな事、最初から決まっているでしょう?



「ーーー骨の髄までよ。」



どこまでも貪欲に。

私は貴方達からの愛を求めるの。



「昨日は、2人でお楽しみだった様ですね?」



コクヨウと抱き合い眠った翌日。

朝一で私の寝室へ来て不機嫌な表情を浮かべたディオンが、コクヨウに不満そうな眼差しを向ける。

当然、私達は裸な訳で。



「コクヨウ、1人だけずるいのでは?」



コクヨウとの昨日のあれこれが、ディオンにモロバレ状態。

別に隠している訳じゃないんだけどね?

恥ずかしいのである。



「・・あの、ディオン?」



身体をシーツで隠し、恐る恐るディオンの名前を呼ぶ。



「ディア様、何です?」

「ごめんね?」



しゅんと、肩を落とす。

ディオンからしたら、自分だけ除け者にされた気分だよね?

反省である。



「ディオン、済まなかった。」



コクヨウもディオンへと素直に頭を下げる。



「はぁ、ディア様、私もコクヨウと同じ様に愛してくださらないとダメですよ?オリバーだって、アレンだって悲しみますからね?」

「はい、ごめんなさい。」



ちゃんと反省します。

2度と、ディオン達の事を蔑ろにしません。



「で、一体、昨日はコクヨウに何があったのですか?」

「「え?」」



コクヨウと2人、目を瞬かせる。

何で知っているの?



「はぁ、分かりますよ、私でもそれぐらい。」



ディオンが呆れの表情を浮かべる。



「ディア様が、私に何も言わずにコクヨウとだけ寝室に籠られれば。」



正論すぎて言葉が出ない。



「で、昨日はコクヨウに何が?」

「えっと、私が少しコクヨウの事を不安にさせた?」



で、合ってるよね?

ディオンの眉がピクリと動く。



「ディア様?」

「は、はい?」



・・・何、だろうか?

がらりとディオンの雰囲気が変わったような気がするのは、私だけ?



「コクヨウが不安になるなんて、一体、今度は何を企んでいるんですか?」

「へ?何も企んでないよ?」

「・・本当に?」

「うん、本当。」



ディオンに疑いの目を向けられる。

え、何で?

何故か信じてもらえない私。

疑いの目をディオンから向けられたまま。



「ディア様、昨日から色々と企んでいるでしょう?」



苦笑いのコクヨウ。



「へ?」

「サフィアの事です。」



サフィア?

はて、と、私は首を横に傾げた。

サフィアに対する企み?

もしかしてーー



「んー、企むと言うか、あちらから何か仕掛けてくれないかとは思ってるだけだよ?」

「・・・ディア様、それが企みと言うのです。」



ディオンが、その顔を険しくさせた。

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