第298話 彼女の生まれた国

あれから2週間。

モルベルト国の迷宮も攻略し終えた私達メンバー。

ロッテマリー達と共に迷宮内に入っていたので、出現するモンスターへの対応策も考えあったので、楽に攻略を終わらせる事が出来た。



「リリス、次の街についての詳しい情報をちょうだい?」



迷宮攻略。

それが終わったなら、次は新しい街への冒険だ。

自分の影に視線を向ける。



「ーーーはい、かしこまりました、ディア様。」



私の影から出てくるリリス。



「ディア様が次に向かわれる街は海に面しており、ルドボレーク国と言います。」

「海に面しているんだから、特産は魚だよね!?」



期待に私の目が輝く。

日本人であった私にはお馴染みのお刺身。

他にも手巻き寿司とか、ちらし寿司とかでも良いかも。



「はい、そうです。ルドボレーク国は漁師が多く、海を守護する海竜を信仰している国でもあるようですよ。」



リリスが頷く。



「やった、海の幸が、ようやく食べられる!!」



陸地では、そうそう海の幸は食べれないので、今回の旅はとても楽しみで仕方がない。

早く海の幸が食べたいなぁ~



「アディライト、ルドボレーク国に着いたら魚料理をよろしくね?」

「・・・。」

「・・・?アディライト、聞いてる?」



ぼんやりとするアディライト。

黙り込んで何も答えないアディライトの目の前で、気を引く為に私は手を振る。



「ーーーっっ、え、!?」



目を瞬かせた後、驚きの声を上げるアディライト。

焦点が私を見る。



「アディライト、ぼんやりとしてたけど、どうかした?」

「・・いえ、ぼんやりとして、申し訳ありません、ディア様。」



アディライトが深く頭を下げた。



「その事は怒っていないけど、何かあるなら話してほしい。」

「・・・。」

「・・私には話せない事?」

「っっ、いえ、決してそういう訳では、」



さ迷う、アディライトの瞳。



「ーーーディア様に話したらどうです、アディライト?」



リリスが口を挟む。



「っっ、リリス、さん、ですが、」

「知らない方が、後でディア様のお心を傷つける事になるやもしれませんよ?」



アディライトとリリスの話を首を傾げて聞く。

・・何の話?



「・・・分かりました、お話しします。」



少しの沈黙の後、ゆっくりとアディライトが話し出した。



「ディア様、今度向かわれるルドボレーク国は私が生まれ育った場所なのです。」



ーーーと。



「・・え、そう、なの?」



首を捻る。

確かに、アディライトの生まれ故郷の事は知らない。

リリスは知ってたのか。



「でも、どうして私に黙っていたの?」

「・・ディア様が知れば、街の者に報復をお考えになるでしょう?」

「うん、もちろん。」



即答。

私のアディライトを傷付けた者達を許す訳がない。



「だから内緒にしていたのです。」

「なんで?」

「私はあの者達へ報復を全く考えていないからです、ディア様。」



困ったようにアディライトは目尻を下げた。



「あの者達が私にした事は、当然の事です。実際に私のせいで被害があったのですから。」

「・・だから許せ、と?」



唇を尖らせる。

それだって、アディライトのせいではないのに。



「ふふ、ディア様が、今の家族が全て分かって下さっているから、あの街の者達への報復など必要無いのです。」



幸せそうに、アディライトが微笑んだ。



「あっ、」

「ん?何、アディライト?」

「あの街の者達がディア様に何かしたら報復は必定ですので、そこはご理解くださいね?」



とても良い笑顔をアディライトは浮かべる。

しかし、目が笑っていない。



「うふふ、私の事ならいざ知らず、ディア様への暴挙は絶対に許しませんわ。必ず、後悔させるのでご安心を。」

「・・・うん、リリス、ルドボレーク国について、話を続けてくれるかな?」



あまりの怖さに、目を逸らす。

現実逃避って、とても素晴らしい言葉だね!

怖いものには近づかない。

そう私は固く心に決めて、満面の笑みのアディライトが醸し出すブラックな雰囲気から目を逸らす。



「あぁ、そろそろルドボレーク国では年に一度の海竜祭が開催されるはずです。」



リリスの話に耳を傾ける。



「海竜祭?」



なに、その面白そうなお祭りは!



「言うなれば、海竜への感謝の舞を披露するお祭りですね。ルドボレーク国は海に面した国なので漁師達が多く住み、昔から海竜への信仰が強いですから。」

「舞?その祭りで誰かが海竜の為に舞うの?」

「左様です、ディア様。」



リリスが頷く。



「毎年、1人の少女が選ばれて、海竜の為の舞を披露するようです。」

「どうやって舞い手は選ばれるの?」

「街の投票によってその年の容姿に優れた者が、舞い手に選ばれるようですね。」

「おぉ、人気投票!」



この世界にも、そんなのがあるのね。

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