第283話 アレン王子のお願いと求愛

目を見開く。

一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。



「・・アレン王子、今何と?」

「僕を、殺して下さい。」



が、無情にも、アレン王子は同じ事を言った。

顔が引き攣る。



「・・・貴方、王族。」



ーー何ですけど?

遠い目になった私は、絶対に悪くないと思う。

待て、どうしてこうなった?

微妙な空気と化す室内。



「「「「「・・・・」」」」」



私以外の皆んなも、無言でアレン王子を注視しているばかり。

沈黙が流れる室内。

周りからの助けは一切ない模様。

カオスである。

ど、どうするの、この空気!



「お、おほん、」



咳を一回。

・・よ、よし。



「アレン王子、急に殺して下さいとは、一体、どう言う事でしょう?きちんと説明、いただけますか?」



気を取り直し、説明をお願いします。



「・・はい。」



こくりと素直に頷くアレン王子。



「と、取り敢えず、アレン王子、お席にお座り下さいな。」



王族の貴方が目の前に跪くのは心臓に悪いから。

アレン王子へ着席を進める。



「はい。」



これにも素直に頷くアレン王子。

反抗の様子はない。



「で、アレン王子、説明をお願い出来ますか?」

「・・ずっと、考えていたのです。以前、ソウル嬢に言われた事を。」

「私が言った事?」



何の事だ?



「全てを捨てれない者を、ご自分のお側に迎え入れる事はない、と言う言葉です。」

「あぁ、」



確かに言ったね。

王子達の好意を、きっぱりと断る時に。



「で、それが、どうしてアレン王子を、私が殺す事に繋がるのですか?」



意味が分からん。



「本当に僕を殺して欲しい訳では無いのです。」

「・・どう言う事でしょう?」

「僕を死んだ事にして、ソウル嬢のお側に置いて欲しいのです。王族の身分を捨てた僕を。」

「っっ、そ、れは、」



眼目を見張る。

王族の身分を捨てて、私の側にいる為にアレン王子は一般人として暮らすと言うのか。



「・・ご家族は、その事を知っているのですか?」

「いいえ、知りません。」

「・・だから、内密に来れれたのですね。」



溜息を吐く。

陛下達に知られたら、絶対にアレン王子がここへ来る事は止められるだろう。

いや、あの王なら逆に喜ぶかも知れない。

ーーさて、どうしたものか。



「アレン王子、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」



アレン王子の瞳を真っ直ぐに見つめる。

偽りを見逃さないように。



「何でしょう?」



首を傾げる、アレン王子。



「私の側に置く者達は、皆、冒険者をしております。」

「はい、知ってます。」

「では、王族であるアレン王子も、その身分を捨てた後、他の子達と同様に冒険者として暮らして頂くことになりますよ?」



耐えられるのだろうか?

長年を王族の一員として宮殿で生きてきたアレン王子に、辛い冒険者としての生活が。



「構いません。」



私の懸念にも、アレン王子は迷いを見せない。



「私は、家族や王族としての責務よりも、ソウル嬢、貴方を選びます。」

「・・なぜ、そうまでして、私なのですか?」



幸福な道があるのに。

その未来を捨てて、アレン王子は私を選ぶと言うのか。



「ーーー・・好き、だから。」

「え?」

「何を捨てても、犠牲にしても貴方といたいと、そう思ってしまったから。」

「・・アレン王子。」



ーーーあぁ、心が満たされる。

どうして、こんなにも私は貪欲なのだろうか?



「僕は、この国の王族の一員です。その事実は、何があろうとも変えられません。」



アレン王子の目が伏せられる。



「・・・僕は、いずれ国の為の結婚を結ぶ事を決められています。」



国の為の結婚。

その血を、自身を外交の為に役立てる。

王族の役割。



「それが、第三王子である僕に求められている役割です。その為に、王族と言う立場を得ているのですから、僕はその役割を果たさねばならないのでしょう。」



苦笑する、アレン王子。



「ですが、僕は貴方に出会ってしまった。」



苦痛に歪む、アレン王子の顔。



「今更、貴方以外の他の人を妻になど迎えられない。例え、貴方の夫の1人になるのだとしても。」



向けられる、熱を孕んだ瞳。

伝えて来る。



「王族としての役目を果たせない僕は死ぬべきなのです。」



ーーー私が欲しいのだと。



「バカな子ね。」



こんな私なんかに、捕まって。

可哀想な子。

目の前のアレン王子に微笑む。



「ーーー良いわ、いらっしゃい、私の。」



手を差し出した。



「っっ、良いの、ですか・・・?」



震える、アレンの声。



「ふふ、どうして驚くの?最初に自分で言い出した事でしょう?」

「・・だって、断れるかと。」

「断らないわよ。」



どうして、アレンの強い覚悟を断れると言うの?

こんなにも、愛おしいのに。

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