第284話 アレンに会いに

普通の人間なら、こうして己の義務を放棄するアレン王子の事を軽蔑するのだろう。

だが、私の胸にこみ上げるのは、愛おしさだった。



「私の為に全てを投げ出す貴方の思い、受け取らない訳がないでしょう?」



何よりも私が求め、欲する気持ち。

私へも深い愛。



「っっ、あぁ、ソウル嬢、まるで夢のようです。」

「夢ではないわ、私のアレン。」



歓喜するアレンに笑う。



「アレン、早く私だけのものになりなさい。」

「はい、ソウル嬢。」

「ディアで良いわ。」

「っっ、はい、ディア様。」



恍惚の表情で、アレンは私の手に擦り寄った。



「アレン?」

「はい、ディア様。」

「ーーー・・私の為に、死んで?」

「喜んで!」



笑顔でアレンが微笑んだ。

一か月後、ある訃報が国から発表される。

ーーーールーベルン国、第3王子アレンが亡くなったと。



「ディア様、お茶です。」

「アディライト、ありがとう。」



アディライトからお茶の入ったカップを受け取る。

そして、茶菓子に今日はクッキー。

国から第3王子アレンの訃報が正式に発表された日から2週間。

私の日常は、全く何も変わらない。



「はぁ、幸せ。」



のんびりしつつ、美味しいお茶とお菓子を味わう。

これを幸せ以外なんと呼べるだろう。



「そう言っていただけるなんて恐縮ですわ、ディア様。」



アディライトも嬉しそうな表情。

彼女達にとって、主人である私の幸せが一番の喜びだからだ。



「アレンの様子は?」



カップを置き、ディオンに問いかける。



「はい、ユリーファの報告によると、ティターニア国でレベル上げに勤しんでいるようです。」

「そう、今日にでもアレンの顔を見に行こうかしら?」



対外的には、死んだ事になっているアレン。

私達がアレンの死を偽装した日から、その顔を見ていない。



「それは、アレンも喜ぶ事でしょう。ディア様、是非そうしてあげて下さい。」



コクヨウも私の提案に賛成のよう。

死んだ事になっているアレンがルーベルン国にいるのはまずいので、しばらくはディオンの故郷であるティターニア国でレベル上げを頑張ってもらっている。

アレンの妹が外交で赴いているが、私の屋敷には結界で覆われているし、精霊達も協力してくれているので、兄妹が会う事もないからね。



「ふふ、アレンはどんな顔をしてくれるかしら?」



驚き。

そして、喜び?



「早くアレンに会いたいわ。」



楽しみで仕方ない。



「ーーーお待ちしておりました、ディア様。」



ティターニア国へ転移で飛んだ私達を出迎えるのは、この国の長であり、ディオンの妹である女王ユリーファ。

恭しく、頭を下げる。



「ユリーファ、頭を上げて?」

「はい、ディア様。」

「ふふ、久しぶりね、ユリーファ。元気にしてた?」



アレンを預けた時以来にユリーファに会う。

基本、私はルーベルン国にいる事が多いからね。



「本日は、アレンに会いに?」

「それもあるけど、」

「けど?」

「ユリーファにも会いに。」

「っっ、ありがとうございます、ディア様。」



歓喜に、ユリーファの顔が輝く。

うむ、可愛い。

ユリーファを愛でつつ、室内でアレンを待つ。

しばらく待てば、アレンが来る。



「ディア様!?」



室内に足を踏み入れ、驚きの声を上げるアレン。



「アレン、驚いた?」

「は、はい、驚きました。」



頷いたアレンは、嬉しそうな表情で私に駆け寄って来る。

その背後に尻尾が見えるのは私だけだろうか?

本当、和むわ。



「ディア様、一体どうされたのですか?」

「ふふ、アレンに会いに。」

「っっ、嬉しいです。」



途端に、歓喜に赤く染まる、アレンの頬。

あらあら、この子も可愛いわね。

眼福です。



「アレン、ここでの生活はどう?」

「とても充実していますね。王宮にいた頃にはなかった自由があって、幸せです。」

「そう、良かった。」

「ですが、」

「うん?」

「・・ディア様になかなか会えないのは辛いです。」



しょんぼりするアレン。

・・やだ、この子、私を悶え殺す気なの?



「ーーユリーファ。」

「はい、ディア様。」

「しばらく、アレンを借りるわ。」

「かしこまりました。どうぞ、ディア様の御心のままに。」

「皆んなも、ゆっくりしてていいわ。」

「「「「かしこまりました。」」」」



頭を下げるユリーファと皆んなの横を、アレンの手を引いて歩き出す。



「ディア様?」

「アレン、ご褒美をあげる。」



不思議そうな表情でついて来るアレンに微笑む。



「ご褒美、ですか?」

「そう、今日一日、アレンを可愛がってあげるわ。」



私の子を愛でるのも主人の大切な務め。

全力で可愛がりましょう。



「っっ、ディア様、大好きです!」

「私も好きよ、アレン。」



頬を染めるアレンを寝室へと連れ込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る