第279話 褒賞の土地

ゲルマン王の突飛な申し出に、目を瞬かせる。



「・・・えっと、私が、ですか?」

「左様だ。其方の様な優秀な者を一冒険者にしておくのは惜しいからな。どうだ?私に仕えてくれるなら、其方が申す言い値を払おう。」

「ありがたきお言葉ですが、どうかご容赦下さいませ。」



にこりと微笑む。

その途端、騒がしくなる周囲。

無礼?

ふっ、なんとでも言え。



「なぜ断る?」

「私は、今の生活に満足しております。それに、どなたかにお仕えすれば、冒険が出来なくなりますので。」



冗談じゃない。

私は自由のまま、好きに生きるんだから。



「そうか、誠に残念だ。」



溜息を吐き、ゲルマン王は周囲を見回す。



「皆の者、聞いたな?ソウル嬢は一冒険者でいたいそうだ。故に、無理な勧誘は控える様に。」



あら?

ゲルマン王、策士ね。



「感謝いたしますわ、陛下。」



周りを牽制してくれて。

ゲルマン王へ、満面の笑みを向ける」。



「ふっ、魔族を倒せる其方と、私は絶対に敵対したくないからな。」

「ふふ、敵にならなければ大丈夫ですよ、陛下。」



私の敵になるなら容赦はしないけど。

お互い微笑み合う。



「これにて、今日の会見は以上である。ソウル嬢達よ、退出するが良い。」

「「「はっ、」」」



一礼して、会見の間から下がる。

そのまま会見の間から無事に退出した私達は、宰相から報奨金を貰い、家へと帰って来られた。

精神的に疲れたが。

終わってみれば、まあまあの結果ではないだろうか?

ゲスナンの事は残念だが。



「ディア様、この国でやる事は終わりですか?」



コクヨウが問う。



「そう、ね。後はこの国の拠点をどんな風にするかだけ決めて、一旦、ルーベルンの屋敷へ帰りましょう。」



やる事はやった。

この国の拠点となる家の相談を済ませて、皆んなのいる屋敷に帰りたいわ。

ゲスナンの事は、国の管轄。



「間接的とはいえ、私がゲスナンを破滅へ向かわせる事ができたので、私は満足です。」



ルミアもゲスナンの事は納得済み。

ちゃんとした罰を受ける事になるのだろう。



「ふふ、報奨金もたくさん出たし、拠点を豪華にしたいわね。」



貰える土地にもよるが。

どんな土地を貰えるのか、とても楽しみだ。

出来るだけ、広い土地が欲しい所。



「うーん、土地が決まるまで、ルーベルンの屋敷に行ってようかな?」



やる事ないし。

強いて言えば、ルミアの武器作りの手伝い?

貰える土地が決まったら、ルミア経由で知らせてもらえば良いんだし。



「まぁ、それは良いご決断ですわ。」



私の呟きに、良い笑顔で同意するアディライト。



「煩わしい貴族達が、ディア様のご負担となる前に避難するのが一番良い事ですもの。」

「だよね。」



あの場にいた貴族達の目。

打算と欲望。

魔族を倒せる私の事を自分の手駒としようとする、ねっとりとした視線。

思い出しただけで、ゾッとする。



「ディア様、お命じ頂ければ、この私が全員を黙らせますが?」

「・・ディオン、物騒だから。」



顔が引き攣る。

私が『うん』と言えば、ディオンは絶対にやりかねない。



「バカな事はしないでね?ディオン。」

「・・・それを、ディア様がお望みならば。」



渋々と頷くディオン。

その顔は、本当に不本意そうだが。

うん、いつも通りだわ。



「後は、ハルマンさんの所以外の奴隷商に行って、新しい家族を迎えるのも良いかもしれないわね。」



家族の数が新しく増えるのは嬉しいもの。

屋敷の内装の構想を練りつつ、奴隷商巡りも良いかも。



「ディア様にお仕えする者が増える事は、何よりの急務ですからね。」



私の安全第一だと、コクヨウが頷く。

本当、ブレないわね。



「とりあえず、明日以降は休みを入れつつ、奴隷商巡りと行きましょうか。」

「「「「「はい、ディア様。」」」」」



全員が頷く。

どんな出会いが待っているか、楽しみだわ。

期待に胸を弾ませる。



「ソウル嬢、こちらが陛下から貴方へ褒賞で下賜される土地の権利書となります。」



ーーー私はまだ知らない。

後日、この国の王様から渡される土地が、貴族階級の住むエリアの、とても広い所だとは。

改めてお城に呼ばれた私は、この国の宰相様だと名乗った男性の人族に見せられた褒賞される土地の権利書を見て、目を見張った。



「・・あの、宰相様?」

「はい?」

「この様な立派な土地を、私が頂いてもよろしいのでしょうか?」



顔が引き攣る。

・・これ、他の貴族達に妬まれない?



「ご心配なく。この国でソウル嬢を害そうなどと考える者は、ほとんどおりません。」

「・・私の力を恐れて、ですか?」

「さようです。」



頷く宰相。



「魔族を一瞬で屠れる貴方を、怒らせるなど愚策ですから。」

「はっきりと言われるのですね。」

「ソウル嬢は、その方が好まれるでしょう?」



宰相が微笑む。

ふむ、分かっているじゃないか。

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