第231話 フルーツタルト

王様の気持ちも分からなくはないけど、すでに私には夫がいるのだ。

今さら、王子妃になる事は出来ない。



「仕方ないのでは?ディア様のお力は、国にとって無視出来ないのでしょうし。」

「・・・コクヨウ、だから、私に王様の言う通りに王子と政略結婚しろと?」

「いいえ?」



釣り上がる、コクヨウの口元。



「愚かな事を考えられないほど、力を見せてやれば良いのですよ。」

「力を?」

「そうです、例えばーー」



コクヨウの提案に、目を見開いた。



「いかがですか?」

「うん、良いかも。」



少しの危険は伴うが、王様への牽制になるかもしれない。



「ふふ、そうと決まったら、さっそくユリーファと話し合わなきゃ。」



招待された王城でのお茶会は、3日後。



「あちらの屋敷へ移動する子達と一緒に、ユリーファに会いに行きますか。」



この屋敷の人手が減るのは痛いが、そこは致し方ない。

皆んなに頑張ってもらおう。



「このお茶会が終わったら、また旅に出ようかなぁ。」



もう少し、まったりしたかったけど。



「ディア様、モルベルト国の情報を最優先で集めます。」

「フィリアも手伝う!」

「フィリオも!」

「アディライト、それに、フィリアとフィリオもお願いね?」

「「「はい!」」」



3人が頷く。

ーーさて、3日後のお茶会に向けて動きますか!

色々な準備を済ませ、ついに憂鬱なお茶会の当日を迎えた。

王城から私達の迎えに馬車が来てくれたので、それに乗り、いざ、決戦の場へ。

気分は、戦ですな。



「ーーーソウル様御一同、ご到着でございます。」



私達の到着を従僕げ告げる。

決戦の場は、花々が咲き乱れる庭園。

従僕がここまで案内してくれた私達を、王族一家が出迎えた。



「ようこそ、ソウル嬢。」

「お待ちしてましたわ、ディアさん。」

「お久しぶりです、ディアレンシア嬢。」

「本日もお美しい。」

「ディアレンシア嬢とお茶を飲めるなど、僕達は幸せですね。」

「私も本日を楽しみにしておりました。」



立ち上がる王家一家。

・・私に向けられる王子達の眼差しが熱いのは、気のせいかい?



「・・陛下、王妃陛下、王子殿下、王女殿下、本日はお招き、ありがとうございます。」

「「「「「お招き、ありがとうございます。」」」」」



私達は王族の皆さんへ一礼する。



「なんの、ソウル嬢と友好を深められるなら、この上ない事だ。」

「まぁ、もったいないお言葉ですわ。」

「はは、そうか?」

「うふふ、そうです。」



微笑み合う私達。

笑顔と言う名の、化かし合い。



「ーー陛下、本日はソウル様より、お土産を頂いております。」



ピリつく空気の中、古参と思われる女官が声を上げる。



「土産?」

「はい、陛下。お茶に合う、美味しそうなタルトでございます。」

「そうか、ソウル嬢、他の者も本日は寛いでくれ。」

「・・恐れ入ります、陛下。」



一礼し、用意されているイスに腰掛ける私達。

色々と準備はして来たけれど、帰りたい気持ちで一杯です。



「こちらが、ソウル様から頂いた、フルーツのタルトでございます。」



女官がテーブルの上のにタルトが並ぶ。



「このフルーツタルトは、こちらのアディライトが作りました。皆様のお口に合えば、幸いです。」

「ほう、」

「まぁ、」



王家の皆様は、フルーツタルトに釘付け。

この世界では、一種類のフルーツしか、タルトに使われていない。

だがしかし、日本のタルトは多種類のフルーツが惜しげも無く使われているのだ。



「フルーツによって酸味があるので、甘い物が苦手な方も食べられるかと。」



甘いものが苦手な人っているからね。



「ディアレンシアさん、素晴らしいタルトだわ。」

「お褒めに預かり、光栄です、王妃様。ですが、そのお言葉は、ぜひアディライトへお願いいたします。」

「えぇ、そうね、アディライト、素晴らしいタルトをありがとう。」

「お気に召していただき、ありがとうございます、王妃様。」



王妃様にタルトの出来を褒められ、恐縮するアディライト。

私は、鼻が高いよ。



「お母様、さっそく、美味しそうにタルトをいただきたいです。」

「まぁ、ミンティシア、はしたない、と、言いたい所ですが、そうですね、せっかく頂いたタルトですもの、お茶会を始めましょう。」



配られる、お茶。

私の分のお茶をアディライトが淹れたそうにしていたが、今回は我慢。

王宮のお茶と、アディライト作のタルトで、和やかな雰囲気が庭園に流れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る