第230話 職人の国


寿命が縮まるような話に少し疲れながらも、先に精霊樹の葉や木の販売も済ませてから奴隷達の購入をハビスさんに進めてもらう。

と言っても、めぼしい子は前回の時に買ってしまったので、私が気に入った奴隷は少なかった。

誠に残念である。



「ーー結局、新しい子は6人、か。」



他の色んな奴隷商を見て回ったが、私が今回購入した奴隷は6人。

あの里の屋敷を維持させるのは、なんとも心もとない。

自室で溜め息を吐き出す。



「では、ディア様、奴隷が増えるまでルーベルンの迷宮攻略を終えた者達をあの里の屋敷へ向かわせてはいかがでしょう?」

「うん?何で?」



アディライトの提案に首を傾げる。



「今いる者達は家事、冒険者としても、全てにおいて優秀です。少人数でも、あの里の屋敷を維持できるのでは?」

「少人数で?」

「そうです。足りない人手は随時、新しい奴隷が増えてから送れば良いのではないですか?」

「ふむ。」



仮の応急処置って訳ね。



「それに、ルーベルン国の迷宮も攻略したのですから、他の所の迷宮も攻略させてはどうでしょう?」

「確かに、他の国の迷宮も攻略させるべき、か。」



レベルは高い方がいいもんね。

今の所、アディライトの意見を採用するほか、ないかな?

致し方あるまい。



「はぁ、新しい奴隷が増えるのも、少し時間がかかりそうね。」



ハビスさんは自分の所に新しい奴隷が入ったら、私に優先で教えてくれるらしいし。

私はハビスさんの良いお客だしね。

しかも、私は貴重な精霊樹の葉や木を売ってくれる人間。

最優先で人材を確保してくれる事だろう。

連絡待ちかな?



「うーん、後は私自身が新しい国へ行くって手もあるか。」



3つ目の国へ。

新しい国で、奴隷の購入も視野に入れる。



「確か、次はドワーフが多く住む、工業が盛んな国、モルベルト国だったかな?」



職人の国、モルベルト。

武器、防具の優秀な作り手がモルベルト国には多く住んでいるのだとか。

職人の殆どがドワーフと言う国。



「モルベルト国には、鉄の取れる鉱山がたくさんあるんだっけ?」

「はい、ディア様。職人の国以外に鉱山都市、モルベルト国とも呼ばれておりますわ。」



私の問いに首肯する、アディライト。



「ーーそう、言えば、」

「うん?何、アディライト?」

「確か、モルベルト国で最高の職人を決める大会が、この時期だったと思います。」

「大会?」



なに、それ、面白そう。



「アディライト、その大会を私、見たい!」

「かしこまりました、ディア様。大会についての情報をリリスさんに集めてもらいますね。」

「お願い、アディライト。」



楽しみ。

私の武器も、その大会に出せるのかな?



「ーー失礼します、ディア様。」



ノックの後、ロッテマリーが私の自室へと入って来る。



「ロッテマリー、どうかした?」

「ディア様、王宮よりお手紙が届いております。」



はい?

目を瞬かせる。



「手紙?」

「はい、ディア様。」



恭しく、ロッテマリーが手に持っている手紙を私へと差し出す。

渋々、ロッテマリーから王宮より届いた手紙を受け取り、その中身を読んだ私は、顔を顰める事になる。



『王城でのお茶会へのお誘い。』



そんな呼び出しに。

一般市民を王城のお茶会へ呼び出すとは、これいかに。



「はぁ、それにしても、王様達も良く私がこの屋敷に戻って来た事が分かったよね?」

「冒険者ギルド経由で、ディア様が戻られた事を知られたのでは?」



冷たい目で吐き捨てる、ディオン。

お怒りの様子。



「・・うん、それ、あり得るわ。私が直接、ギルドで素材とか売ったし。」



当然、私の帰還をギルド長なら知っている。

ギルド長、何て余計な事を。



「・・・これ、拒否権あるのかしら?」



テーブルの上の、お茶会へのお誘いのお手紙を指で弾く。

・・何故、お茶会?

王族の方達と、私は仲良くなった気は微塵もないんだけど。



「ディア様、王妃様がお呼びなのでは?」

「へ?王妃様?」

「王妃様は、ディア様の考案された商品の愛好者ですから可能性はあるかと。」

「なるほど。」



アディライトの意見に納得する。

お茶会とは名ばかりに、王妃様が私が考案した商品について聞きたい事でもあるのかな?

この国の王様と王妃様が仲が良いのは周知の事実。

愛する妻のおねだりに王様が快諾しての、今回のお茶会になったのだろうか?



「うぅ、でも、だからって王城へ行くのは、なぁ。」



気が進まない。



「ディア様、お断りしますか?」

「うーん。」



アディライトに問われ、唸る。

悩むところだ。

手紙の誘いを受ければ気苦労しそうだし、かと言って断れば角が立つ。



「・・あぁ、本当に面倒。」



王族の皆さんは、別に嫌いではない。

が、私の事を王様が王太子以外の王子の妻になる事を進めたい様子が不快なんだよね。



「私には、コクヨウやディオン、オリバーがいるのに。」



唇を尖らせた。

他の人なんか、いらなにのに。

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