第8章〜外交編〜

第224話 意外な行動力

屑達の断罪が終わった後。

ユリーファの采配で私達は借りている元長の屋敷とは別の離れに通され、アディライトが淹れてくれた紅茶で一息つく。



「・・このお茶、美味しいです。アディライト様の淹れ方が良いのでしょうか?」

「まぁ、お口に合ったようで、良うございました。ユリーファ様、よろしければお菓子も召し上がり下さいませ。」



表情は変わらないが、アディライトが淹れた紅茶をユリーファは気に入った様子。

褒められた事が嬉しかったのか、お菓子を進めるアディライト。

ほのぼのする会話である。



「ディア様、あれらを地下牢とはいえ離れに暮らさせるのは不安です。」



渋い顔をするディオン。



「ーーそれは、ユリーファの身がって事?」

「はい、そうです。」



神妙に頷くディオンの背後から、その首に腕が回る。



「ディオンちゃん、ユリーファの身の安全は私達が守るわ。」

「ディオンちゃんの妹の事だもの、私達に任せなさい?」

「あれらを、ユリーファに近づかせたりしないから。」

「うっかり、私達があれらに攻撃しないかが不安よね?」



くすくすと笑う精霊王達。

実に楽しげだ。



「ふふ、ですってよ、ディオン?」

「・・ディア様。」

「これ以上ない、心強い護衛よね?」



カップを口元に運ぶ。

妹に構いまくりのディオンに妬いたりしたけれど、抜かりはない。



「全て、ディア様の掌の上、ですか。」

「あら、不満?」



カップをソーサーの上に置く。



「いいえ、ディア様に何と感謝すれば良いのか、悩んでいます。」

「わ、私も、ディアレンシア様には、感謝しても足りません。」

「・・2人とも、真面目、ね。」



私の為にした事なのに。



「・・何か、私にディアレンシア様にお返しできる事が有れば良いのですが。」



肩を落とすユリーファ。



「なにか、ね。」



ふむ、なら、あれを頼もうか。



「ねぇ、ユリーファ、1つ貴方にお願いが有るんだけど。」

「お願い?何でしょう?」

「この里にある迷宮を私達に攻略させてくれない?」



私のユリーファへのお願い事。

ーーこの里の中にある、迷宮、ダンジョンである。



「・・迷宮、ですか?」

「えぇ、ダメ?」

「いえ、構いません。」

「本当?ユリーファ、ありがとう。」



よし、許可ゲット。



「ですが、ディアレンシア様、それだけでよろしいのですか?」

「うーん、じゃあ、この里の湖の所に家を建てても良い?」



綺麗な湖だったんだよね。



「家?」

「そう、私達の別荘?拠点、かな?」



綺麗な湖のそばに立つ家。

うん、良い。



「まぁ、拠点!はい、構いません。」



身を乗り出すユリーファ。

・・あれ、思ってたより食いつきが良い?



「っっ、こうしては、いられません!さっそく、ノーム様達にお力を貸していただき、すぐさま家の建設に取り掛からなければ!」

「ちょ、ユリーファ!?」

「ディアレンシア様、楽しみにお待ちくださいませ!必ずやお気に召すお住まいをお作りいただきますので!」

「・・う、うん、楽しみにしてる。」



なぜ、そこまで張り切る?

あまりのユリーファの行動力に、私は顔を引攣らせるしかない。

私は、精霊の力を過信していた。

痛感したのは、数日後。



「ーー・・ねぇ、ユリーファ?」

「はい?」

「ちょっと聞きたいんだけど。」

「何でしょう?」

「3日前まで、ここ、何もなかったよね?」



可笑しいな。

何もなかったはずの場所に、立派な屋敷が建ってるんだけど?

思わず遠い目になる。



「それが、ノーム様達が寝ずに張り切って、あっという間にディアレンシア様に家を作り上げてしまいました。」

「・・寝ずに?」

「何でも、ディアレンシア様の為の家と聞いて、頑張ってしまったらしいです。」



・・何だ、それ。

唖然と言葉を失う。



「っっ、ちょ、イーア!!」

「呼んだ?」



呼び掛けにらふわりと私の隣に降り立つ、地の精霊王、イーア。



「どうしたの、ディアちゃん?」

「どうしたの、じゃないよ!寝ずに家を、しかも、こんな大きな屋敷を建てるなんて、皆んなどれだけ張り切ったの!?」

「あら、私達、精霊に寝食の概念はないから心配いらないのよ?」

「ぐっ、だからって、」

「・・もしかして、ディアちゃん、喜んでくれてない?」

「うっ、」



しょんぼりするイーアと、ノームの精霊達を、これ以上、私は責められない。

くっ、狡い。



「・・はぁ、作ってしまったものは、仕方ない。」



諦めも肝心だ。

・・そう、それがどんなに普通とかけ離れていたとしても。

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