第203話 言葉もない

が、場の空気を読まない者はいる者で。

満面の笑顔のディオンの弟。



「さすがは精霊王様達です!この私の優秀さを見抜いて、会いに来て下さったのでしょう!?」



全員が固まった。

誰しも不可解な事を聞くと頭も身体もフリーズしてしまうらしい。

しばし無言の時が流れる。



「ちょっ、」



本気で何言ってんの!?

あの顔は精霊王である皆んなが自分の為に来たのだと、全く疑っていない様子。

本当、頭が痛い。



「・・・あの、ディオン。」

「・・何も言わないで下さい、ディア様。」

「まぁ、うん、ごめん。」



死んだような目のディオンに謝る。

そんなディオンに対して、同情の眼差しを向ける他の皆んな。

私達皆んなの気持ちは一致した。



「バカね。」

「バカなの?」

「バカじゃない?」

「バカでしょ。」



ーーディオンの弟くんは、バカなんだと。

ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームの順に私達の気持ちを代弁する麗しの四大精霊王達。

その瞳は冷たい。



「なっ、いくら精霊王様達と言えど、この私を愚弄するのは止めていただきたい!不敬ですよ!?」



精霊王達に対するディオンの弟のバカな発言で、一瞬にして固まるその場の空気。

その父親さえ、自分の息子のあまりのおバカ発言に諌める言葉も何1つ出ないようで、顔を青ざめさせて凍り付いたままである。



「まぁ、」

「ほう?」

「へえ?」

「ふーん、」



精霊王である皆んなの瞳に残忍な光が孕む。

暴風吹き荒れる里内。

ディオンの弟くん、周囲を見よう?

貴方の同郷の皆さんが、一様に死にそうな顔をしているから!



「・・これ、」

「・・・はぁ、終わり、ましたね。」



溜め息を吐くディオン。

精霊達の恩恵を受けているのに、ディオンの弟くんは、その王達を怒らせてどうするの?

ディオンの弟くん、ご愁傷様。



「うふふ、ムググ、息子にとても面白い教育を施しているようね?」

「お、お許しを、ウンディーネ様!皆様方!」



怒りに微笑むウンディーネに、ディオンの父親が平伏する。

そには恥も外聞もない。

あるのは、自分達の崇める存在である精霊王の皆んなへ必死な謝罪の心だけ。



「成長したのね、ディオンのお父様。」



私は1人で感動中。

この短時間でディオンのお父様、とっても立派になって!



「ディア様、あれは成長と言うより、自己保身にすぎませんよ?」

「あら、自己保身でも良いじゃない?」



呆れているディオンに笑う。

例えそれが自己保身だとしても、自分の息子がヤバイ事を言ったと分かるなら。



「だって、ほら、」



指差す先。



「父上、なぜ謝っているのですか?」



精霊王の皆んなへ平伏する父親の姿に、キョトンとするディオンの弟くんがいた。



「何1つ自分の仕出かした愚かさを分かっていないバカがいる事だし、ね?」



ディオンが自分の顔を手で覆う。



「・・すみません、ディア様、もう、あの者に対して私は何の言葉も出ません。」

「ディオン、どんまい!」



元気出して?

こうなる予想は、してたんだしさ。

落ち込むな?



「っっ、馬鹿者、マスクル、良いからお前は何も言わずに黙っていろ!」

「なっ、父親、どうしてですか!?」

「黙れと言うのが分からぬのか、マスクル!?」



ディオンの父親が吠える。

その気持ちも分からなくはない。

今は黙ってて欲しいよね?



「まぁ、ムググ様、ご自分の息子に対して、あんまりのお言葉ですわ。そんなふうに怒鳴るなどマスクルが可哀想ではないですか。」



父親に嗜められて不機嫌なディオンの弟に歩み寄る、1人の妖精族の女性。



「貴方と私の息子が精霊様、しかも王たる方々に祝福していただけるのですよ?そんなマスクルの何がムググ様は不服なのですか?」

「・・・エンリケ、お前も、か。」



項垂れるディオンの父親。

どうやら彼女はディオンの弟、マスクルくんの母親らしい。



「親子揃って、ですか。」

「あらあら、救い様のない方々ですね。」

「「バカは治らないの!」」



コクヨウ、アディライト、フィリア、フィリオの順にディオンの父親の妻と息子への感想を述べる。

うん、私も同意見だ。

このやりとりを見ていると、ディオンの父親が素晴らしく感じるから、あら不思議。



「・・なんで、あの者が精霊王様達に祝福してもらえると思っているのか不思議です。」



ディオンは怒りの表情。

信仰心は薄いとは言え、ディオンは精霊王達に対して敬意がない訳ではないからね。



「あれと少しでも血が繋がっていると思うと、不快にしかなりませんね。」



ディオンが吐き捨てた。

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