第202話 ディオンの弟
ディオンの父親が私の事を受け入れないと最初から分かっていた。
だからこその一計。
「あの日ディア様から高位精霊を呼び出さないかと言われた時は本当に驚きました。」
楽しげに笑うディオン。
「しかも、私の呼び掛けに応じてくれたのが精霊王だったのは目を疑いましたが。」
「それは私も驚いたわ。」
まさか、ひょっこり精霊王、それも4人共が呼び掛けに応じてくれるとは思わなかった。
有難い誤算である。
「これであの父も、人間だからとディア様に対して見下す様に強気には出られないでしょう。自分が最も信仰する精霊王様がお認めになったのですから。」
「あら、そうかしら?」
そう簡単には変えられないものだ。
自分たちの価値観は。
「ずっと信仰してきた精霊王の皆んなの言葉は受け入れたいけど、人間の私に阿りたくない。今頃そんな葛藤がディオンのお父様の心の中に生まれているでしょうね。」
くすくすと笑う私にディオンの顔が険しくなる。
「・・・まだ何かしでかすと?」
「まだ分からないけど、警戒しておいて損はないでしょう?何事も最後まで用心する事は必要よ。」
手負いの獣は足掻くもの。
油断は大敵よね?
「良いですか?ディオンちゃんは私達の愛おしい子ですが、ディアちゃんは最愛です。」
「「「!?」」」
ウンディーネの宣言にディオンの父親とエルフ達は言葉を失い、顔色を変えた。
「他者を見下すとは情けないわ。」
「いつから、そんなにも心根が腐ったのですか?」
「貴方達が特別などと妄言を吐かず、身の程を知りなさい。」
「全く、心優しかった姫の血を引く者として嘆かわしいと思わないのかしら?」
ディオンの父親とエルフ達は精霊王である彼女達の有り難いお言葉(説教)を半泣きで拝聴している。
実にいい事だ。
「それで、私達は貴方方の里の中へ案内していただけるのでしょうか?ねぇ、里の長であるディオンのお父様?」
ウンディーネ達の有り難いお言葉(説教)がひと段落した所で聞いてみる。
悪意ではなく、私なりの優しさだよ?
「無理なら私達は精霊王の皆さんの有難いお言葉の後に帰りますが。」
意味:返答次第では、精霊王達の有り難いお言葉(説教)が繰り返されます。
それを回避させてあげようと言う、私なりの優しさである。
「・・・里の中へ、ご案内いたします。」
学習したらしい。
無駄な抵抗はせず、ディオンの父親は私達を里の中へ招き入れる事を認めた。
「あら、ありがとうございます。ディオンのお父様。」
私達の完全勝利の瞬間である。
ふっ、ざまぁ、ですなぁ。
哀愁の漂うディオンの父親の案内に従い、いざ、結果の中へ足を踏み入れる。
「家もノームの力を借りたのかな?」
ディオンの生まれた里は、立派な土の家が点在する集落だった。
私が空想し想像していた簡易的な木の上の家ではない模様。
魔法のなせる技と言えるだろう。
「人間!?」
「あれ、忌み児のディオンじゃない?」
「っっ、嘘、精霊様!?」
私達を出迎えたのは阿鼻叫喚の声達。
しまいには、土下座である。
もちろん、ディオンの事を忌み児と呼んだ者の顔は忘れない様に目に焼き付けておく。
「ーーー・・父上、一体これは何事ですか!?」
そんな中、騒ぎを聞きつけたのか私達の元へ走り寄って来るディオンの父親に似た1人の青年。
ふむ、この子がディオンの弟、ね。
「ディオン、弟くんは、お父様似なのね?少しもディオンに似てないわ。」
「そう見たいですね。まぁ、私には一切、弟である彼への興味はありませんが。」
「ふふ、弟なのに?」
「一度も顔も見た事のない者を、自分の弟とは思えませんから。」
弟に対してディオンは何の感慨もない様子。
一度も弟の顔を見た事もないなら、それも仕方がないのかな?
「っっ、なっ、父上、なぜ卑しき人間や魔族などがいるのです!?それに、この方達は精霊様ですよね?」
騒ぐディオンの弟。
不躾な眼差しに精霊王である皆んなも冷ややかな表情になる。
当然、私も。
卑しき人間と魔族?
私の可愛いコクヨウやアディライト、フィリアとフィリオの事よね?
「マスクル、この方達は、精霊王様達だ。」
「精霊王!?」
目を見開くディオンの弟。
他の皆んなの様に精霊王である皆んなの事を崇めるかと思いきや、彼は私達の予想の斜め上をいった。
「私を祝福に来てくれたのですね!」
ーーと。
「「「は?」」」
私達、その場にいた全員が思わず絶句する。
何言ってんの?
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