第196話 閑話:幸せな夢

オリバーside




目の前の光景に、くらりと目眩がする。

それは体調が悪いからではない。

俺の目の前に無防備に晒された妖艶な女の姿に、魅せられてしまったからだ。



「オリバー?」



透き通る様な声で俺の事を呼ぶ、貴方の声。

愛おしくて。

切なさに胸が苦しい。



「ふふ、オリバー、大好きよ。」

「っっ、」



頭が甘く痺れそうだ。

目の前の妖艶な姿のディア様へ、自分の欲望の赴くままみに手を伸ばす。



「・・良いの、ですか?」



自分の腕の中に抱き寄せたディア様を見上げる。

これは夢か?

俺の欲望が見せた幸せな夢。



「もちろん良いわ、オリバー。貴方に私をあげる。」



なのに、ディア様は美しく妖艶に笑う。

俺の唇に指を這わせて。



「ちゃんとオリバーが私だけを愛し続けてくれるなら、ね?」

「当たり前ですッ!」



反射的に叫ぶ。

ディア様以上に、愛おしい人などいない。

選んだのだ。

俺はディア様の事を。



「貴方の事が堪らなく好きです。」

「ん、」

「心から愛してます、ディア様。」

「ーー私も。」



2人の唇が重なった。

ベットの上へ2人一緒に縺れる。

目の前の美しく着飾った扇情的なディア様の姿は、まさに俺へのプレゼント。



「っっ、あっ、」



白銀の髪が俺の愛撫の度にベットの上に乱れる様は艶かしい。

ーー・・このまま、ディア様から与えられる熱に溺れてしまいそうで、頭が可笑しくなりそうになる。

その身体を俺は何度も抱いた。



「・・しばらく会えなくなって寂しくなる、ね。」



気怠さのまだ残るであろう身体を俺の腕の中で休ませ、抱き締められたままのディア様が呟く。



「え?」

「旅、出たら、さ。」



ディア様と一線を超えたからだろうか?

一層、ディア様への愛情が湧く。



「ディア様、待っているので早く帰って来て下さいね?」

「ん、」



俺の胸元にディア様が擦り寄る。

引き止められない。

寂しいと呟いたディア様が、それを俺に望んでいないから。



「・・、ディア様は旅に出るから、今夜は俺の事を呼んで下さったのですか?」

「そう、オリバーとの事を旅の間も思い出したいから。それに、」



ディア様が俺を見上げる。



「オリバーにも、私が旅に出ていない間も思い出して欲しかったの。」

「ずるい人だ、貴方は。」



その残り香だけを残し、俺の事を置いてディア様は旅立ってしまうなんて。

それでも、ディア様の事が好きだ。

好きで、愛おしくて堪らない。



「ふふふ、良いの、それで。それに、オリバーに会えなくて寂しくなったら、直ぐにここへ帰って来るから。」

「へ?」

「オリバーに会いに、ね?」



帰って来る?

ディア様が、ここへ直ぐに?



「私がオリバーと少しの間でも良い子に離れてると思う?」

「・・ディア様。」

「離れないよ、ずっと、永遠に。」



ディア様の強い執着。

それは俺の事を雁字搦めにして絡め取る。



「だから逃げる事は諦めて?」

「諦める?」



俺がディア様から逃げ出す?

ようやく愛おしい存在を、この腕の中に手に入れたのに?



「ーー上等ですよ。」



不敵に笑う。

俺は自分自身の意思で愛おしいディア様に囚われる事に決めたのだから。



「あっ、私の事をディアって呼び捨てにして?」



コクヨウとディオンの2人も私の事を時々そう呼ぶよと微笑むディア様に。



『私の幸せは自分で見つけます。だから兄さん、もう私の事は気にしなくて良いの。』



守ると決めた妹。

いつの間にか、こんなにも強い目で俺の事を見る様になった。



『なら、新たにクロエに誓う。』



新たな誓いを交わそう。



『俺は必ず幸せになる。ディア様の事だけを愛し続けるよ、クロエ。』



これはまだ、ディア様と想いを交わす前の事。

クロエに誓った。

例えディア様の心をもらえなくとも、ずっと愛し続けると。



『ふふ、頑張ってね、兄さん?私も兄さんの恋を応援しているから!』



晴れやかな顔でクロエが笑った。



『あぁ、頑張るよ。』



でも、この気持ちは報われない恋。

思うだけの愛。



『オリバー、もう良いんだよ?』



初めてだったんだ。



『貴方はずっとクロエの事を守ってきたけど、なら、オリバーは?オリバーの事は一体、誰が守るの?』



誰かに自分の弱音を吐いても、こうして甘えても良いのだと言ってくれた人は。



『もう、オリバーも甘えて良いの。』



この日、決めた。



『もう、私がいるから1人で頑張らなくて良いよ。』



ディア様の事だけを愛そうと。



『ふふ、お兄ちゃん、今日まで良く頑張りました。』



俺の弱さを、甘えさせてくれる様に包み込んでくれディア様、貴方の事を。

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