第195話 閑話:女子達の悲鳴
アディライトside
声を大きくして叫びたい。
私の敬愛し、崇拝するディア様は、とてつもなく可愛いと。
「皆さん、分かっていますね?」
「「「はいっ、!」」」
重々しく問い掛ける私に、一様に良い返事を返す皆んな。
・・そう、ディア様を除く、この屋敷にいる女子達だ。
「今宵、ディア様の最高のご衣装をご用意しますよ。」
大切なディア様の大一番。
なら、私達は最高のご衣装をご用意し、ディア様を輝かせるのが務め。
「あぁ、ディア様の妖艶な姿を見られるなんて、ロッテマリーはとても幸せ者です!」
うっとりする、ロッテマリー。
ディア様の信者の1人。
「そんなディア様を私が愛でたい!ずっと鑑賞していたいのに!」
悔しげなのは、ルルーシェル。
こちらもディア様の信者の1人である。
「私も見たいです!」
「もちろん、私も!」
いや、ディア様の元で暮らす全員が信者であり、彼女を崇拝していると言っても可笑しくないだろう。
この場に集う全員、その目に宿すのは、ディア様への敬愛と、崇拝なのだから。
かく言う私も。
「ルルーシェル、確かに麗しいディア様のお姿を愛で、じっくりと鑑賞したいところですが、」
が、そんな事をディア様は喜ばない。
なら、どうするか。
「私達が着飾らせたディア様の事を、今宵は思う存分にオリバーに愛していただきましょう。」
ディア様が喜ぶ事をする。
それが私達、ディア様に仕える優秀な侍女の勤め。
「ーーその通りです、アディライト。」
その声に背筋が伸びる。
私達、侍女を、いや、この屋敷を束ねる影の采配者。
「お越しでしたか、リリスさん。」
リリスさんである。
ディア様に一番長く仕え、私達、侍女を管理する有能な従魔。
「当然の事です、アディライト。ディア様の事で、この私が出向かないはずがないでしょう?」
当たり前の事と言い切るリリスさん。
一番、ディア様への敬愛と崇拝が最も高いは、リリスさんなのかもしれない。
「私達、侍女の仕事はディア様の身の回りのお世話だけではなく、そのお心を満たす事も重要なのです。」
私達はリリスさんによって、初めにディア様の素晴らしさを徹底的に教え込まれる。
慈悲深く、お優しいディア様の人柄は、接していれば分かる事。
「全てはディア様の為に事に当たりなさい。」
「「「全ては、ディア様の為に!」」」
皆の気持ちは同じ。
全ては敬愛し、崇拝するディア様の為に。
全員がリリスさんへ重々しく頷いた。
「あっ、」
最後に声を上げたのは、オリバーの妹であるクロエである。
ディア様に目を治していただいてから、クロエも私達同様に完璧な信者となった者の1人。
皆んなの視線が向く。
「クロエ、どうしましたか?」
問い掛けた私にクロエは、それは良い笑顔を浮かべた。
「兄がご寵愛をいただくので、今日から私はディア様の妹となります。」
「・・・それが?」
「ディア様は、私のお姉様となるのですよね?」
「「「っっ、!?」」」
その場がどよめく。
ディア様が、お姉様、ですって!?
「ディア様、私にお姉様と呼ばせて下さるでしょうか?」
「「「なんて、羨ましい!」」」
全員の気持ちが揃う。
リリスさんも血相を変えている。
あの麗しのディア様を、クロエはお姉様呼びすると言うの!?
なんて羨ましい!
「ーー・・少し、いえ、じっくりと、私はこれからクロエとは話し合わなければならないようですね。」
クロエへと近付くリリスさん。
浮かべた笑顔が怖い。
「でも、リリスさん。考えてみてください。」
「何をです?」
「私からお姉様呼びされて、照れるディア様の姿を見たくないですか?」
「!?」
「恥ずかしげに頬を染めるディア様、とっても可愛いでしょうね?」
リリスさんの足が止まる。
くっ、強敵。
ディア様に何よりも弱いリリスさんに、その手を使うなんて。
「ーークロエ。」
「はい、リリスさん。」
「ディア様に確認なさい。お許しいただけたのなら、私は何も言いません。」
「ありがとうございます。」
リリスさんは認めるに決まってる。
ずるい、クロエ。
私もディア様の事をお姉様ってお呼びしたいのに!
いや、むしろ言われたい?
「さぁ、時間がないのですから、急ピッチで進めますよ?」
「「「はいっっ、!」」」
リリスさんが手を叩く。
クロエを除くこの場にいる全員、心の中で血の涙を流して頷いた。
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