第190話 譲れない願い

私の事は誰に何を言われても構わない。

でも、皆んなの事はダメだ。

絶対に許せい。



「アディライト、私はそろそろ休むわ。貴方も、第2妃の事なんか忘れて捨ておきなさい。」

「はい、ディア様。お休みなさいませ。」



頭を下げるアディライトの声を背に、私は寝室へ歩みを進めた。

ドアを開け、寝室の中へ。



「お待ちしておりました、ディア様。」

「今日一日、ディア様、お疲れ様でした。」



笑顔で大きなベットに座るコクヨウとディオンの2人が私の事を出迎える。



「ふふ、お待たせ2人とも。」



ーー・・だから、私は貴方に会いたいのですよ?

ディオンのお父様達?

だって貴方は、私の大事なディオンの事を蔑ろにして傷付けた人なんだから。

うっそりと笑う。



「来るのが遅かったですね?何かありましたか?」



ディオンが首を傾げる。



「ふふ、どうでも良い事で、少しね?くだらない王宮からの手紙を読んでいたの。」



掻い摘んで報告。

第2妃の件になると、コクヨウとディオン2人の顔が般若と変わった。



「ふふふ、ディア様と王妃様が結託?」

「自分が娘の育て方がなっていなかったと言うのに、それをよりもよって人のせいにするとは。」



2人の口元に浮かぶ冷笑。



「2人とも、アディライトにも言ったけど、第2妃の事は捨ておきなさい。」

「・・はい、ディア様。」

「・・そう、ディア様が言われるなら。」



渋々、2人が頷く。



「もう、そんな顔をしないの、2人とも。第2妃の事よりも、今は旅に出るほうが大事だもの。」



口角が上がる。



「ようやく、ディオンの生まれた故郷へ行けるのよ?どうでも良い第2妃の事なんて気にしないの。」



ディオンの一族が住むのはルーベルン国の隣、森の中に作られた妖精とエルフ達だけの里。

結界に守られ、同族達しか入る事の許されない場所にある。

ディオンの生まれ故郷だ。



「やっと、きちんとご挨拶が出来るのよ?ディオンのお父様方に。」



会える日が楽しみで仕方がないの。

待ち遠しい。



「ディオンのお父様達には、どうやって私と楽しく遊んでもらいましょうか?ねぇ、ディオン?」



隣のディオンに微笑む。



「・・・私は、あの者達にディア様の事を見て欲しくありません。」

「どうして?私の事をディオンのお父様や一族の皆んなへ、自分の妻だと自慢してくれないの?」



自分の親や同族達に私を見せる事に消極的なディオンに対して首を傾げる。



「きちんとディオンの妻として、私の事をお父様達に紹介して欲しいわ。」



甘える様に、ディオンに可愛くおねだり。



「っっ、そ、れは、」

「私は皆さんに、とってもお会いしたいの。ディオンの妻としてね?」



ねぇ、ディオン?

私、知っているのよ?



「お願い、良いでしょう?」



ディオンが、私のおねだりにとっても弱いって事は。



「ね、ディオン?」

「っっ、仕方、ありませんね。」

「ふふ、ありがとう。」



ほら、ね?

満面の笑みを浮かべ、ディオンの身体に抱きつく。



「ディオン、大好き。」

「・・、私も、です、ディア。」



最愛のディオンの腕の中で、私はうっとりと目を閉じる。

ディオンを傷付けた人達は、私の敵。

ーーそうでしょう?



「ふふ、本当、会う日が楽しみね?」



遊びましょう、私と。

ディオンの父親と一族に会える日を待ち侘びながら、旅の間に必要な食料などをアディライト達と買い揃えたりして、数日が経った。



「そろそろ、良いかな?」



最終確認。

食料も、水も、大量にある。

これなら、いつでも旅に出られるだろう。



「旅行、楽しみだね?」



私とコクヨウとディオンしかいない寝室で、うきうきした顔を向ける。



「ディア様は、そんなに旅が楽しみなのですか?」

「コクヨウ、私、旅行って初めてなの!」



幼い頃は、あの父が私と旅行へ行く訳もなく、児童相談所に保護されてから小学校、中学校の学校行事である修学旅行へ殻にこもっていたから不参加。

だから、初めての旅行が楽しみで仕方ない。



「・・・初めてのディア様の旅行が、私の生まれ里、ですか。」

「もう、ディオン?まだ不満なの?」



くすくすと笑い、憮然とするディオンの肩に凭れる。

むすりとするディオンは、相当、自分の生まれた里に私の事を連れて行きたくないようだ。

もう、本当に頑固なディオンなんだから。



「・・・ディア様のお願いですからね、仕方ないと諦めます。」

「ふふ、」



分かってるんだよ?

ディオンが私を厄介ごとにに関わらせたくないって言う気持ちは。

誰よりも私はディオンに大切にされているから。



「ディオン、私は大丈夫だから。」



でも、ごめんね?

そんなディオンの気持ちを分かっていても、私は彼等の事を許せないの。

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