第184話 茶番劇
王宮の薔薇を眺める。
・・・その時を静かに待ちながら。
「ーー見つけた。」
その声に、ゆっくりと後ろを振り返った。
「まぁ、カーシュ公ではありませんか。ご機嫌麗しゅう。」
丁寧に頭を下げる。
まだ、ダメ。
ーーーー自分の緩む頬をカーシュ公へ見せてはいけないのだから。
「っっ、何が、ご機嫌麗しゅうだ、この悪魔が!」
唾を吐き捨てるカーシュ公。
その姿は醜悪だ。
「カーシュ公、いかがなさったのですか?本日は機嫌がよろしくない様ですね?」
おっとり微笑む。
「お前の、っっ、貴様のせいで、」
カーシュ公の手元で、太陽を反射してきらりと光るもの。
「あらあら、物騒な物をお持ちですね。」
小型のナイフだった。
「それをどこで手に入れたのかは知りませんが、ここは王宮内ですよ?カーシュ公ともあろう方が、王宮内で不用意に武器を持つなどいけませんわ。」
「うるさい、黙れ!」
あらら、せっかく人が忠告してあげたのに聞く耳持たないのね。
「お前さえ、貴様さえいなければ、」
「いなければ、何ですか?」
「全て私の計画通りに上手くいくのだ!だから、」
カーシュ公が、じりじりと私に躙り寄る。
「・・・私を害す、と?」
「はっ、害悪の根源を倒すだけだ。」
「害悪の根源を、ね。」
カーシュ公にとって、すっかり私は悪役なのね。
困ったものだ。
「おっと、お前を倒す前に従魔の2匹を私に渡してもらおうか。」
「・・・なぜ?」
目が細まる。
「くくっ、分からぬのか?あの従魔さえいれば、私がこの国の王位を継ぐも、この世界の覇者になる事も思いのままだ!」
「はぁ、呆れた。」
自分の実力で王位を継ぐために頑張りもせず?
勝手な思い込みで私を害悪扱い?
溜息を吐き出す。
「ほとほと呆れ果てました。とことんバカなのね、貴方。」
救いようのないバカだ。
「っっ、な、何だと!?この私がバカ!?」
「まさか怒ったんですか?ただ私は事実を言っただけですけど?」
もう敬語も良いよね?
目の前のおバカさんな男は、どう見ても完全な犯罪者なのだから。
敬う必要性を感じないもの。
「さて、まずは貴方の手に持つその物騒な物を無効化しなくちゃ、ね?」
魔力を放つ。
私が放った魔法が、カーシュ公の武器を持つ手を凍らせる。
「なっ、て、手が!?」
「ふふ、これで物騒な物も使えないでしょう?例えその手が使い物にならなくても自衛の為の魔法の行使だから私が咎められる事もないわ。」
「っっ、」
カーシュ公の顔に怯えの色が走った。
私から距離を取る為か、一歩、二歩と後ろに下がるカーシュ公の足。
「あら、何をそんなに怯えているのです?」
ゆりゆると上がる口角。
「貴方が欲した従魔達が私に従う理由を考える頭もないカーシュ公さん?」
人は自分の都合の良い事だけを信じる。
不都合な事は見ないふり。
「ただの小娘と私の事を侮ったから、こんな目に合うんですよ?」
脅威Sランクのモンスターが私の従魔となった事を少しでも考えれば、普通は侮ったりしない。
距離を置くか、利用するか。
「手を出した相手が悪かったですね?恨むなら、無知でアホだった自分にしてください。」
「ひっ、く、来るな!」
「あらあら、酷い言われようです事。先程までの威勢の良さはどこへ行ったのやら。」
呆れてしまう。
そっちから先に来たって言うのに。
「まぁ、貴方の意見など必要ないですし、せっかく私に会いに来て下さったのだから、仲良くしましょう?」
その為の茶番。
この場に私は、その為にいる。
「ーーーー・・カーシュ公、絶対に逃がしませんよ?」
楽しく遊びましょう?
後ずさるカーシュ公の足元へ私は魔力を放った。
私の魔法で氷漬けになるカーシュ公の両足。
これで簡単には逃げられまい。
「ふふ、さて、さっそく楽しい遊びを始めましょうか?」
「っっ、き、貴様!一体、この私に何をするつもりだ!?」
「何をする?そんなの決まっているでしょう?」
何を喚いているのか。
カーシュ公へ冷めた目を向ける。
「貴方は冒険者の私に対して武器を向けたのですよ?」
しかも、この王宮内で。
「れっきとした犯罪者の貴方を始末しても、誰も私を非難しないでしょう?」
証拠は歴然。
その手に持つ武器が証拠だ。
「っっ、こ、これ、は、そう、私がお前に身の危険を感じたから手にしているのだ!私は悪くない!」
「・・・へぇ?」
面白い事を言うじゃん。
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