第173話 王ミハエルの怒り

他人の所有する奴隷を奪う行為は犯罪。

しかも、王女自ら犯罪行為を犯そうとした事は国にとって何より重大事件。

私の報告に王ミハエル様の顔色が変わる。



「何だと!?」

「っっ、あっ、し、知らなかったのです、お父様!あの者が奴隷だと知っていたらあの様な発言は致しませんでした!」

「そうです、王様!あの者が奴隷だと知らなかった故の過ちなのです。」



必死に縋り付く2人。

ふむ、ディオンが私の奴隷と知らなかったら何を言っても良いと?

置いて行け発言も許されるの?



「そのお2人の良い様ですと、彼が私の奴隷でなければ自分の所有物としていたと解釈ができますが?あらあら、まさか王女様と高位貴族の御令嬢の考え方は、そうなのですか?」



相手が拒否しても身分をひけらかし、強引に自分の所有物にするのかしら?

皆さん聞いた?

王女達の好みの見た目の良い男性は注意せよ!

気に入られたら最後、どんなに嫌でも強引に結婚を求められかも知れないもの。



「我が国でも奴隷に対する法は変わっておらぬ。そして、自分の意思ある者に対しての2人の考え方は王女として、高位貴族の令嬢としての自覚に欠けておる!」



縋り付く2人を王ミハエル様が睨め付ける。

実の娘達より私を取りますか。

その判断は一国の王としての英断です。

庇える要素ないもんね?



「そうなのですね、安心いたしました。もしも奴隷を奪う事が当たり前だと言われた時は、この国から家族を連れて他国へ行こうかと思いましたから。」

「!?」



王ミハエル様が息を呑む。

逆に他国の要人らしき人達は瞳が輝く。

もしかしたら自国にSランク冒険者の私を引き込めるかも知れないチャンスだもんね?



「お前達は私の開いた大切なSランク冒険者となったソウル嬢のお披露目パーティーで、このような醜態を晒すとは。」



うん、王様ご心痛お察しします。

だよね?

人目のある場所で、しかも大事な他国からの賓客を招いたパーティーで王女が率先してお客様に絡んで奴隷を寄越せとか無いわ。

この国の品位を疑われてしまう。

ドン引き案件である。



「ソウル嬢、2人に変わり私が謝罪する。私の娘と姪が迷惑をかけ、不快な思いをさせて誠に申し訳なかった。」



私に頭を下げる王ミハエル様に一部の貴族と賓客として呼ばれた人達が目を見開く。

一国の王が、ただの冒険者でしかない者に頭を下げるなど、私を優先し重きを置いていると周囲へ知らしめる所業だ。

でもね?

私の力を、従魔を知る人なら王ミハエル様の対応に驚くことはないのだ。



「私から2人には王として、きちんと厳罰を与える。」



あら、王様ったら策士。

沢山の目が集まる場所で、しかも王自ら謝罪をされ、2人へ罰を与えると明言されてしまえば私が許さない訳にはいかないじゃないか。

私の返事は1つ。



「・・・謝罪、お受けいたしますわ。」



と言うしかない。

ぐぬぬ、折角の私の獲物が取られてしまった。

む、無念。

もっと私がコクヨウに暴言を吐き、ディオンを私から奪おうとした2人で遊びたかったのに。



「「っっ、」」



王ミハエル様に切り捨てられた実の娘と姪は、はらはらと涙を流して呆然と立ち竦む。

当然の報いである。

罰を軽くする様に進言なんかしません。

自業自得。

日頃の行いに対しての罰が返ってきただけだもの。



「ミフタリア、そなたはしばらく宮殿内の自室で謹慎を命じる。そして、公爵令嬢ミミリア嬢は宮殿に来る事をしばらくの間は禁止し、自宅での謹慎を言い渡す。」



謹慎?

軽い罰だね?



(ディア様、2人にまだ婚約者がいない事を考えますと、十分な罰になるかと。)



不満に思えば、リリスからの補足情報が。

え、婚約者いないの?

一国の王女と、その血縁者の公爵令嬢なら幼い頃に婚約が結ばれそうだけど。



(性格に問題ありな2人ですから王も自分の娘をどこかのご子息の婚約者に勧められなかった様です。誰もそんな2人の婚約者にしたいと思う親も、勇気ある殿方もいないかと。)



的確なリリスの指摘。

確かに2人の性格を実際に体験した今なら、その線が濃厚だと思える。



「しかし、婚約者のいない2人に罰として謹慎と宮殿への立ち入り禁止、ね。パーティーで婚約者探しもままならないわ。」



王ミハエル様、今頃が婚約者を探す時期のご令嬢である2人へ、その罰ですか。

結婚相手との出会いの場を潰すなんて、王ミハエル様もえげつない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る