第169話 悪意への反撃

本気で懲りていないみたいだ。

もう少しアスラとユエとで、カーシュ公で遊んであげるべきだったかも知れない。

惜しい事をした。



「ふふ、さっきから黙りこくってどうしたの?」

「きっと何も反論ができなくて言葉を失ったのね。下賤の人間は可哀想に。」

「あら、そうなの?まぁ、少しは賢くなれたのだから良かったわね?」

「そうですね、ミフタリア様と私に泣いて感謝なさい?」



上がる嘲笑。

あの、笑っているところ悪いんだけどお2人さん?



「ディア様へ何と言う暴言。」

「消しましょう。」

「存在自体、害悪ですね。」



私にしか聞こえないぐらいの声で呟き、静かに怒っている子達がいるから少しは自粛しよう?

3人の怒りが爆発したら貴方達は無事ではないんだよ?

冗談抜きで。



「それにしても、男を侍らせるなど下品な事。きっと男に媚を売るしか脳がないのね。」

「下賤なお前にはお似合いだわ。」



空気も周囲の状況も読めない2人のアホさ加減に呆れるしかない私。

3人の怒りのボルテージがますます上がるのを肌でひしひしと感じる。

この2人、貴族に向いてないわ。

私が心から呆れている間も止まらぬ2人の乱心と言う名の喜劇。



「っっ、」

「ひっ!」

「・・もう終わりだ」



一部の正式な私の正体を知る人達は生きた心地のしない様な表情で固まっている。

中には絶望の表情を浮かべる人もちらほら。

哀れなり。



「でも、下賤の身であるお前でも理解ができたでしょう?分ったなら、この場に相応しくないお前は、ちゃんとミフタリア様へ頭を下げてから帰りなさい?」

「ふふ、帰るなら、その妖精族の事は置いていってね?私の愛玩物にしてあげるから。」

「あら、ミフタリア様はその妖精族の事が気に入りましたの?」

「えぇ、とっても綺麗なんだもの。私のそばに置いて、毎日でも、鑑賞したいわ。」



ディオンへうっとりとした目を向けるミフタリア。

欲の熱が孕む。



「ふふ、この私がお前の事を大事にしてあげる。光栄に思いなさい?」



笑うミフタリアへ冷ややかな目を向けるディオン。

そして、私も。

ほう?

私のディオンを置いて行けと。



「あらあら、とても面白い事をおっしゃいますね?」



何ふざけた事を言っているの?

私の目の温度が下がる。



「そんなにも彼の事を欲しますか?うふふ、高貴な貴方も彼に心奪われてしまったのですね?そうですよね、はそれだけ素敵な人ですもの。」



さっきからミフタリアのディオンへ向ける瞳の中に劣情の光があったので、私のものと牽制。

バカには、きちんと教えてあげないとね?

貴族の一員、しかも王族であれば自分の感情を周囲へ簡単に悟られる様に隠すのが上手いはずなのに、目の前の王女様はそれすら出来ないらしいから。

初めての恋に舞い上がっているのだろうか?



「ねぇ、ミフタリア様は貴方の事を欲しいそうよ?どうする?私の側から離れてミフタリア様の元へ行く?」

「いいえ、お断りします。私が心から側にいたいのも、欲するのもただ1人、貴方様だけですので。」



視界にも入れたくないと言わんばかりにミフタリアから顔を逸らすディオン。

ミフタリアへ冷ややかな眼差しを向けていたディオンは、蕩けるような甘い表情を私に向ける。

ミフタリアに視線さえ向ける事もしなくなったディオンは、見せつける様に握る私の手に口付けを落とした。



「だそうですよ、ミフタリア様?残念ですが貴方は彼に選ばれなかったようですね?」



思い知れ。

ディオンは絶対に手に入らないのだと。



「っっ、お前ッ!」



屈辱に染まるミフタリアの顔。

恋しいディオンに選ばれた私に対する憎悪を隠そうともしない。



「あら、うふふ、ご覧の通り、彼は貴方の元へ行きたくないと申しております。本人の意思なのですから、お諦めくださいとしか申せませんわ。」



渡す訳ないでしょう?

私が大事なディオンの事を貴方なんかに。

選ばれるのは私。

当然の選択でしょう?



「この子は私の所有物ですの。例え誰であろうとも渡すつもりはありません。」

「無礼な!お前の様な下賤な人間は私の言う事を聞けば良いのよ!」

「この私やミフタリア様に対しての、その物言い、絶対に許しません!不敬罪でお前の事を捕らえてあげるから!」

「そうよ、もう少し態度を弁えなさい!見た目が良いからと天狗になっているのかしら?」

「ふ、ふふ、本当に可笑しな事を仰いますね?弁えるのは私ではなく、貴方達の方なのではありませんか?」



冷たい眼差しを向ける。

ミフタリアがディオンの事を御所望だから置いていけと言う2人の少女は、私の逆鱗に触れた。

なら、私が徹底的にお2人の事を踏み潰してあげましょう。



「っっ、何ですって!?」

「ぶ、無礼なッ!」

「そうよ!ミフタリア様に対して不敬よ?」

「不敬?」



笑っていない瞳で首を傾げる。



「私にはお2人の方が不敬であると思いますよ?」

「何ですって?」

「私達が不敬?」



困惑する2人に笑みを浮かべる。



「だって、私をこの場に呼んだのは、この国の国王陛下ですもの。その王の許しもなく招待した者を勝手に帰すなんて不敬では?」



言うなれば、私はこの場の主役の1人です。

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