第167話 魔族の色
うん、アディライトはとても良い仕事をしてくれた。
今日の私の衣装も希望通りの色だし、コクヨウとディオンの2人は、それに合わせて作られている。
「コクヨウ、辛くなったら直ぐに言ってね?今日は無理してまでいる事ないんだから。」
「ありがとうございます、ディア様。しかし、周囲の声など全く気になりませんので大丈夫ですよ。」
「んー、そう?でも、コクヨウへの暴言とかあったら、私の方がキレちゃいそうかも。」
その為の衣装なんだけど。
私の意思表示。
ありのままのコクヨウを、私は大事にしていると周囲に知らしめるのだ。
「ふふ、今日のお披露目でSランク冒険者になった私達に何か言ってくるかしら?」
暴言?
それとも嫌味?
「まぁ、その瞬間に私の敵になるけどね。」
冷たく微笑む。
周囲からのコクヨウを貶める発言は、この私への宣戦布告に他ならない。
私の手を握るコクヨウの手に力が入る。
「僕の為に怒ってくださり、ありがとうございます、ディア様。」
「周囲からコクヨウへ暴言を言われて、私が怒るのは当たり前の事よ。他の皆んなへの暴言だって私は許さないわ。」
皆んなは私の大事な家族なのだ。
「今日のお披露目パーティーで王様が私を他国への抑制力として利用するのなら、こちらも同じ事をしても良いわよね?」
今回のお披露目パーティーを利用して、私の大事な家族への暴言が何を呼び起こすのか周知させるのだ。
私の恐ろしさを身に刻めば良い。
誰も大事な私の家族達へ何も手出しできないぐらいに。
「この場にいない魔族であるフィリアとフィリオの存在が知れ渡る前に皆んなに釘を刺さないと。」
普段は魔道具『幻影の指輪』で偽装している。
が、いつかはフィリアとフィリオの2人が魔族である事は知れ渡るだろう。
「恐怖は何よりも身に染みるもの。」
何事もなく今日のお披露目パーティーが終われば良いけれど、どうなる事やら。
一抹の不安を抱えながら、コクヨウとディオンの2人のエスコートでお城の入り口へたどり着く。
入口で招待状を確認してもらう。
「ーーー・・招待状の確認が出来ました。では、会場の方へ、ご案内させていただきます。」
私の衣装に驚いたのは一瞬。
直ぐ様、しっかりと招待状の確認を済ませて、私達を城の中へと通してくれる。
うむ、城のセキュリティーはしっかりしているようだ。
まぁ、私達の力であれば簡単に城の中へ侵入が出来てしまうのだが。
「こちらが今宵のパーティーの会場でございます。お客様、どうぞ今宵はお楽しみ下さい。」
一礼し、私達から離れる案内人。
さて、
「コクヨウ、ディオン、今宵の戦場となる会場の中へ入りますか。」
「はい、ディア様。」
「何処までも、お供します。」
決戦の始まりだ。
扉に控えていた人の手によって、私達の目の前の扉がゆっくりと開かれる。
笑顔の仮面を貼り付け、コクヨウとディオンの2人に手を引かれ、会場内へと足を踏み入れた。
「まぁ、見て、あの方の衣装の色を。」
「なんて不吉な色。」
「あの色を纏うなんて全く正気だとは思えんな。」
私達に。
いや、私の衣装に突き刺さる無数の視線。
囁かれる私の衣装への批難。
「ふふ、この衣装で上手くコクヨウから私へ皆んなの意識を向けられたかな?」
「・・僕は嬉しくありません。ディア様への暴言を聞くより自分へ言われた方がマシでした。」
憮然とコクヨウが呟く。
「あら、馬車の中では、あんなに褒めてくれたのに?」
コクヨウを揶揄う。
「その衣装は凄く似合っていて嬉しいですが、ディア様への暴言は許せる事ではありません。」
気にする事はないんだよ、コクヨウ?
これは私がした事。
「この様な場所へあんな色を纏うとは、一体、何を考えているんだ?」
「全く、あんな色の衣装なんて信じられませんわ。」
驚愕、軽蔑、嘲笑、畏怖。
さざ波が広がる。
「ーー・・魔族と同じ、黒を纏うなんて。」
小さな呟きに私は微笑んだ。
会場中の注目を集める私の漆黒の衣装。
今日の私の漆黒の衣装は所々にパールが散りばめられ、襟元や手首にレースで可愛らさを表している。
アディライト渾身の力作。
「ふふ、まずは掴みはオッケーかな?」
口角が上がる。
皆様、私の思惑通りの反応をしてくれて、本当にありがとう。
しかし笑えてくる。
こうまで、私の漆黒の衣装に対して想像通りの反応をしてくれるとは。
「本当に漆黒、黒は皆んなから敬遠されているのね?」
「きっとディア様だけですよ?世界中で、その色を衣装にする方は。」
「皆んな普通は敬遠しますからね。自分達と戦っていた憎い魔族を連想させる漆黒の衣装など。」
「でも、その色はディア様らしいです。」
「でしょう?」
くすくすと4人で笑い合った。
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