第157話 衣装決め

国の考えに呆れるしかない。



「私はこの国の防波堤なのかしら?」



口元を歪ませる。



「ディア様、逆に好機なのではありませんか?」

「好機?」

「Sランク冒険者へとなったディア様の存在を強く印象付けられれば、少しは他者への抑制力となるはずです。ディア様や、私達に手出ししようと考える者への牽制ともなります。」

「むぅ、」



た、確かに、一理あるかもしれない。

私の少しの我慢で皆んなへの厄介ごとが減るなら美味しい話なの、か?



「それに、」



ぐっと、アディライが拳を握る。



「私は着飾ったディア様が見たいです!えぇ、心の底から見たいのですわ!」

「はい?」



拳を握り締めて瞳を輝かせるアディライト。

・・何、言ってんの?



「どんなご衣裳も着こなすディア様は、まさに天使。いえ、この世に舞い降りた女神の名に相応しい事でしょう!」



頬を染めてうっとりするアディライト。

恍惚の表情である。



「ちょ、アディライト!?」

「このアディライト、そのお姿を想像するだけで胸が高鳴りますわ。そのお姿を絵にして残してしまいたいですわね。あぁ、しかし、ディア様の素晴らしさを表現出来る画家がいるでしょうか?いっそ、誰かに画家としてスキルを極めさせるのも良いかもしれませんね!今から早急にディア様のための専属の絵師として育てましょう!!」



暴走状態のアディライト。

今にも他の子達の元へ走り出しそう。



「ねぇ、お願い!アディライト少し落ち着こう!?絶対の他の子達も乗り気になって暴走する未来しか見えないから!!」



私への忠誠心MAXの子達だよ!?

アディライトの提案を聞いたら絶対に乗り気になるに決まっている。

あの子達や、目の前のアディライトにとって私に関する事で自粛の文字は無いのだから。



「ダメですか?まぁ、そのディア様の輝きは誰であろうと美しく絵の中で表現する事は不可能でしょうけども!

えぇ、えぇ、ディア様の素晴らしさは絵だけでは表現が出来る事のない至高の存在ですもの。誰にも描く事など不可能なのでしょう。」



・・ダメだ、これ。

アディライト、なんだか最初の方の趣旨からずれてませんか?

顔が引き攣る。



「ディア様、絶対にパーティーへ出ましょう!せめて、そのお姿をこの目に焼き付ける為にも!」



私に迫るアディライト。

・・いや、家で着飾ればいい話では?



「んー、とても気が進まないけど、分かった。我慢して出席する。」



何より、アディライトのお願いだし。

我慢します。



「ありがとうございます、ディア様。で、そのお披露目は、いつなのですか?」

「い、1ヶ月後、だけど、」

「では、パーティーで着るディア様のご衣裳を大急ぎで準備いたします!お任せください!」



その瞳は、とてもやる気に満ちていた。

国王ミハエル様から厄介な手紙をもらった翌日。

なぜか私は忙しい日々を送る事になる。



「・・ねぇ、もう良い?」

「ディア様、まだです!あと少しだけお付き合い下さい!」

「・・・はい。」



アディライトの熱意。

もとい、鬼気迫るアディライトの怖い顔に頷き、このまま付き合いざる得ない。



「はぅ、とても可愛くて綺麗すぎです、ディア様。」



ーーーー膨大な衣装の着せ替えに。

着替える度に絶賛され。

なぜか、見に来た皆んなに恍惚の眼差しを向けられる私。



「・・・穴が開きそう。」



皆んなにとって、私は物珍しい珍獣かい?

まだある膨大な衣装を前に、すでに疲れ果てた私はげっそりとする。



「アディライト、ディア様に釣り合う衣装を僕にも頼みますよ?」

「コクヨウ、このアディライトに全てお任せなさい。きっちりディア様とお似合いにして見せますわ。」

「私の分も頼むよ、アディライト。」

「ふふ、ちゃんと分かっておりますよ、ディオン。」



コクヨウとディオンの2人もこのお披露目と言う名のパーティーにどうしてか乗り気で、悲しい事に私の味方はいないらしい。



「さぁ、ディア様、次の衣装です。」

「ん、」



はい、好きにして。

完全なる諦めモードである。



「ディア様は当日はどのようなご衣裳が良いですか?」

「私が決めて良いの?」

「お好みがあるのでしたら。」

「ふむ、」



当日の衣装、ねぇ。



「・・・アディライト、デザインは好きにして良いから、色は私に決めさせて欲しい。」

「色、ですか?」

「そう、色はーー。」



せっかくなので登場は盛大に。

アディライトに当日に自分が着たい色を告げる。



「・・まぁ、ふふ、」



驚きは一瞬。

直ぐにアディライトが楽しげに笑った。



「よろしいのですか?それですと、とても注目を集めてしまいますよ?」

「悪い意味で、ね。でも、私らしい選択でしょう?」

「えぇ、確かに。」

「なら、その色でお願い出来る?」

「お任せを、ディア様。1ヶ月後のお披露目会までに、ディア様に似合う最高のご衣装を揃えて見せます。」



迷いなく請け負うアディライト。

頼もしい。



「では、ディア様、着替えの続きを。」

「えっ!?」



・・まだ、衣裳替えを続けるの?

顔が引き攣る。



「うふふ、ディア様に似合う最高のご衣装のアイデアがこれで色々と思い浮かびますわ。」



・・・あぁ、はい、まだまだ終わらない、のね。

がっくりと肩を落とす。



「アディライト、出来れば衣装のデザインはシンプルなのにして。」

「まぁ、もったいない。ですが、ディア様の美しさなら、どの様な衣装も霞むと言うものですものね!」

「・・・いや、うん、そうだね。」



目を逸らす。

・・・もう、何も言わない。



「うーん、では、この様なご衣装はどうでしょう?」



さらさらと紙に何かを書くアディライト。

その手に迷いはない。



「ーーーーはい、出来ました。」

「うん?」



書きあがった紙を受け取る。

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