第139話 兄妹

俄然、その兄妹に興味が湧いてきた。

会ってみたいかも。



「そんな彼がお嫌いではないでしょう?何よりも家族を大切にする者を、ソウル様は。」

「ふふ、はい、嫌いではないですね。」



さすがハビスさん。

私の本質を良く見抜いている。



「兄妹の扱いに困った私と懇意にしている奴隷商から相談を受けまして、ソウル様ならば、と思った次第です。」

「なるほど。私なら、その奴隷である妹の全盲を何とか出来るかもしれないと思ったのですね?」

「・・・それもありますが、少しの打算もあるのですよ。」

「打算?」



首を横に傾げる私。



「もっとソウル様と懇意になりたいと言う打算です。」

「ふふ、正直者ですね、ハビスさんは。」



本人を目の前にして、はっきりと打算があると言うハビスさん。

清々しいまでの潔さである。



「嘘偽りを述べるより、本心で語る方がソウル様には良いかと思いまして。」

「良くお分かりで。」



ハビスさんへふわりと微笑む。

人を傷付ける嘘は嫌い。

あちらの世界の私を蔑んだ人たちの様な、人を傷付ける嘘は。



「・・妹を大切にする兄の兄妹、ねぇ。」



私はソーサーからカップを持ち上げ中の紅茶を口に含んだ。

紅茶を飲みながら考える。

後ろに控える皆んなも、私が気に入った子なら購入する事は反対はしないだろう。

ならーー



「ハビスさん、その奴隷の少女はなぜ両親に売られたのですか?」



後は私次第。

その兄妹を欲しいと心から思えるか、だ。

兄妹に興味はある。

が、私が心からその兄妹を愛おしく思い、自分の側に置きたいと感じなければ家族にはなれない。

ハビスさんが目を伏せる。



「・・・役に立たないからです。」

「は?」



役に立たない?

まじまじとハビスさんを見つめる。



「あの、ハビスさん、それはどう言う意味ですか?」

「目が見えなければ家の仕事も手伝えません。逆に、目に見えない娘の事が両親にとっては役に立たない邪魔な存在だった様です。」

「・・例え目が見えなくても、出来る事もあったのでは?」

「しかし、普通の子よりは時間が掛かりますし、目の見えない娘を手元に置くよりも売った方がお金になりますので。両親にとっては、娘を奴隷として売る方が自分達にとって有益だった様ですね。」



一体、親って何なんだろうか。

いらないからと言って、自分の子供を捨てる。

それは許されるの?



「まぁ、そのまま家に残っていたとしても幸せだったとは思えませんが。」

「・・なぜ、ですか?」

「少女に対する両親からの扱いは、酷い様だったと聞いておりますから。」

「酷い扱い?っっ、まさか自分の子供に対して暴力を!?」

「いえ、それはなかった様ですが、兄が気にかけていなかったら、ろくに食事も与えてもらえていたかどうか分かりませんね。」



私には分からない。

そんなに人の命って軽いものなの?

全く私には分からないよ。



「ーー・・ハビスさん、その兄妹に会えますか?」



役に立たない、邪魔な存在だからって簡単に捨てられるものなんだろうか?

実の娘なのに?

本当、家族って何なんだろう。



「もちろんでございます、ソウル様。その兄妹を直ぐにお連れいたしましょう。」



にこやかに頷いたハビスさんは、他の男性に直ぐに兄妹を連れて来るように指示を飛ばす。

その姿をぼんやりと私は眺める。

こうして揺らぐのは、私がまだ弱いから?



「・・ディア、様。」

「ーー・・。」



そっと私の肩に乗る誰かの手。

名前を呼ばれて後ろを振り返り見れば、心配げな表情のコクヨウだった。



「大丈夫、ですか?」

「・・・うん、平気。」



気が付けば、他の皆んなも私に対して心配げな表情を浮かべているじゃないか。

うん、大丈夫。

今の私は1人じゃない。



「ふふ、皆んな、ありがとう。」



ごめんなさい。

それよりも、ありがとうを皆んなに。

よし、少し落ち着いた。

私は大丈夫。

兄妹に向き合える。



「ーー・・失礼いたします。」



その声に部屋の中に入って来たのは3人。

若い男女と中年の男性。



「ソウル様、まずは彼からご紹介いたします。彼は私が懇意にしているミシュタル商会で奴隷を扱っておりますロックスと言います。」

「ご紹介に預かりました奴隷商人のロックスと申します。ソウル様、本日はよろしくお願いいたします。」

「ディアレンシア・ソウルと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。」



ハビスさんの仲介で、まずはロックスさんと挨拶を交わす。



「そして、」



ロックスさんが自分の後ろを向く。



「私の後ろにおりますのが、本日ソウル様にご紹介したい兄妹でございます。」



兄の腕に支えられてその場に立つ妹。

そして、こちらを探る様な眼差しで見る兄をロックスさんは前へと押し出した。



「初めまして、2人とも。私の名前は、ディアレンシア・ソウルです。」



うん、挨拶は大事だよね?

私は2人に向かって、にっこりと微笑んだ。

私の声に兄の腕を握る少女の手に力が入るのが分かる。

・・警戒されているのかな?



「2人とも、ソウル様にきちんとご挨拶なさい。」

「・・兄のオリバーです。」

「い、妹のクロエと申します、ソウル様。」



ロックスさんに促され、2人が自分の名前を私へと告げる。

ふむ、オリバーとクロエ、ね。



「ふふ、オリバー、クロエ、今日はよろしく。2人ともいい名前ね?」

「・・・ありがとう、ございます。」

「お、お褒めに預かり、光栄です。」



うーん、固いなぁ。

2人に嫌われてはいなさそうだけど、オリバーからの強い視線は緩まない。

探られている?



「オリバーとクロエの年はいくつ?」

「・・俺が、18で、妹のクロエが12になります。」

「・・・。」

「そう、」



クロエは兄の隣で俯いて口を噤んでしまった。

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