第119話 褒賞と要求
ミハエル様の前にその身で守ろうとした騎士達が立ちはだかるのを横目に、私はアスラとユエ2人の隣の床に膝をつく。
「ご紹介申し上げます、国王陛下。私の従魔である、フェンリルのアスラと九尾のユエと申します。」
その背を撫でる。
ふぁ、2人とも今日も最高の毛並みだね。
頬が緩みそうになる。
「ご覧の通り私は災害級Sランクのフェンリルと九尾を従魔としております。その私が策を練らずとも国を簡単に滅ぼす事が出来る、と、お分りいただけるのではないでしょうか?」
「・・あぁ、確かに其方が策を弄さなくても国1つ落とす事は造作ないな。」
「ですから、私が魔族の手先であるとか、国王陛下へ擦り寄ろうとしたなどと言いが掛かりも、とても不愉快です。それとも、」
私はおっとりと首を傾げた。
「実際に目の前で国1つ落とさせねば、フェンリルと九尾の力を、皆様はご理解いただけないのでしょうか?」
訳:これ以上、私に対して変な言い掛かりを続けるなら本当に国を滅ぼして理解させるよ?
である。
本気で私に濡れ衣を着せるつもりなら、報復として国を滅ぼして皆んなを連れて他国へ出奔するから。
「ねぇ、カーシュ公?」
視線に向けるのは、元凶の親玉らしきカーシュ公。
私だって、怒ってる。
こんな茶番に付き合わされてさ。
元凶の意味であるカーシュ公は、どう落とし前つけるつもりなのかしら?
「ひっっ!?」
「あらあら、カーシュ公の顔色がよくないですね?具合でも悪いのでしょうか?」
私に視線を向けられて腰を抜かすカーシュ公。
だらだらと脂汗を流していても、貴方の事は簡単には許さないよ?
優しさのあと半分は、何でできてるか知ってる?
「ふふふ、ご安心下さいませ、カーシュ公。私は回復魔法も扱えますので、例えこの場で何があっても大丈夫ですから。」
「ふむ、我もディアの憂さ晴らしに付き合おうか?なんなら、ひと暴れしても構わぬ。」
「僭越ながら、アスラ同様、私も我が主人を愚弄する者達へ憤っております。えぇ、心底、不愉快ですね。」
はい、悪意です。
半端ないアスラとユエ2人からの威圧感は、ガリガリとカーシュ公の精神力を削っている事だろう。
その顔は、青を通り越して真っ白だ。
良い気味である。
「まぁ、ダメよアスラとユエ。私を魔王の手先と言うのなら、ひと暴れではなく城の1つや2つでも落とさないと皆様に笑われてしまうわよ。」
ノリノリで元凶様達を追い詰める私達。
止める?
許す?
はい、ありえません。
「街中を火の海にしてこそ、魔族の手先と呼ばれるに相応しいわ。私達なら実際に出来る事だしね?」
満面の笑みを浮かべる。
「その時は、誰が最初の犠牲者になるのでしょう?」
現実を見ろ?
本気で私が国を狙っているのなら、もう貴方達の命はないんだぞ?
「うふふ、カーシュ公も気になりませんか?」
とことん、追い詰めますよ?
元凶様達。
「ひぃっっ、!!」
ご指名のカーシュ公は身体を震わせて私から離れたいのか、その場から後ずさる。
・・その反応、失礼じゃないですか?
カーシュ公に対して半目になる私を、国王ミハエル様の声が諌めた。
「ソウル嬢、其方の憤りは十分に理解したから、どうか怒りを鎮めてくれないか?」
「国王陛下の御心のままに。」
軽く頭を下げる。
私は国と敵対したい訳じゃないしね。
自分の前から護衛の騎士達を下がらせた国王ミハエル様が、玉座から立ち上がる。
「皆もご覧の通り、ソウル嬢への疑いは一切の根拠のない言い掛である。皆の中に王たる私の決定に不服の者はおるか?」
国王ミハエル様の問いに上がらない否定の声。
否定できないよね?
だって、ここで否定すれ私を疑っていると言うようなもので、アスラとユエ2人が激怒。
国の崩壊なのである。
誰もが国の、自分の命の為に口を噤みますよ。
「否定がないなら、この論議はこれで終わりだ。ソウル嬢には、魔族討伐の褒賞として国から白金貨500枚を出そう。」
ふぇ、5億円!?
あまりお金に困っていないのに、また増えてしまったよ。
まぁ、お金はあっても困らないし?
貰っても良いかな?
それだけ魔族が脅威だって事だね。
「それとギルド長よ、ソウル嬢のギルドランクを上げる手配を進めよ。」
「畏まりました。迷宮攻略達成の件もあるので、ソウル様は間違いなくSランクが相応しいかと。」
「ソウル嬢のパーティメンバーのランクはどうなる?」
「同様にSランクへ上げます。」
当事者である私達をそっちのけで、ルカリオさんちと国王ミハエル様の間で進むギルドランク上げの話。
私達のランク上げは政治的な関係ですかね?
まぁ、Sランクへ上がるのは嬉しい事なんだけどさ。
「ソウル嬢よ、他に欲しい物はあるか?叶えられる範囲内のものなら、それも褒賞として贈ろう。」
欲しい物?
「恐れながら、国王陛下。それはもの以外でもよろしいのでしょうか?」
「うむ、余が叶えられるものであればな。何か望みの物があるのか?」
「はい、この国で拠点とする大きな家が欲しいと前々から思っておりまして、私が持っても差し障りのない土地の権利書を此度の魔族討伐の褒賞として頂戴したく存じます。」
期待の眼差しを国王ミハエル様へと向けた。
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