第110話 愚者

この世界で間違いなくトップレベルであるだろう。

そんな皆んなの事を私は誇らしく思う。

喜んでいたリリスの顔が引き締まる。



「ーー・・ディア様、少しお話がございます。」

「話?」

「はい、実は私の配下の者が迷宮最奥から戻りません。」

「ーーーっっ、・・そう、なら、なおの事、迷宮の最奥へ行かなきゃね。」



リリスの配下と言えど、その子達も私のものだ。

その子達を傷付けた者がいるなら、私が直接出向いて心からのお礼をしなきゃね?



「この私の可愛い子達を傷付けた代償は払ってもらうわ。」



くすりと、私は笑みを零す。



「明日、迷宮の最奥へ行って叩き潰すよ。」



私の敵を。

その為にじっくりと今日までレベルを上げ続けた私達。

と言うか、私以外?

経験値は皆んなで共有しているからレベルは上がるけど、暇なのだ。



「まぁ、私はご褒美にアディライトお手製の美味しいデザートが食べられるから文句は無いけどね。」



目の前の扉を見据えて微笑む。

迷宮45階層



「ーー・・さて、この迷宮の最後のボス部屋へ行きますか。」



目指すは、この迷宮の最奥部。

この扉の先。

ゆっくりと、私達は目の前の扉を開けた。



「ここが、最後の部屋。」



私はつぶさに部屋の中に視線を走らせる。

そこは、今まで以上に広い場所で、最奥にある大きな“魔石”を守るように配置されたオブジェなど装飾も金色に光り輝いていた。

未だ、ボスモンスターが現れる気配はない。



「ーー・・ほう、ただの人間達ががこの場合へたどり着いたか。」



私達を出迎える、冷淡な声。

ゆらりと、闇が揺れる。



「しかも、人間の他に妖精族と、何故か我が同族もいるのか。くく、なんとも不思議な組み合わせだ。」

「ーーー・・。」



我が同族?

愉快そうな声に、私は目を細める。



「・・覗き見なんて悪趣味ですね?隠れていないで私達の前に姿を表したらいかがですか?」



この場所へ入った瞬間から、誰かに見られている気がしていた。

それは、この声の主人あろう。

人間、妖精族、そして、自分の同族と冷淡な声は言う。

その言葉の意味とはーーー。



「まさか、こんな迷宮内で場所でフィリアとフィリオの2人と同じ魔族に会うとは思いませんでしたよ。」

「豪胆な小娘だ。この私が魔族と分かって意見するとは。ふむ、まぁ、良いだろう。」



次の瞬間。

闇の中から、それは姿を表した。



「「「「っっ、なっ、魔族?」」」」



私以外の皆んなが息を飲む。

迷宮内の淡い光でも分かる、相手の黒い髪の毛と瞳。

相手が魔族と言う証。



「うむ、私は崇高なる魔王様にお仕えする者の1人、ベルゼと言う。卑小な小娘、そしてそれに仕える者共よ、我が名を冥土の土産に覚えておくが良いぞ。」



魔族、ベルゼが嘲笑を浮かべた。



「・・ベルゼ、1つ聞きたい事があるの。」

「ん、聞きたい事?」

「此処に、何匹かの蜘蛛が来なかった?」

「蜘蛛?」



ベルゼが口元へ手を当てる。



「あぁ、確か邪魔な蜘蛛達が此処へ来たな。」

「その子達は?」

「全て殺したさ。いても邪魔なだけの存在なのだから当たり前だろう?」

「・・そう。」



当然の事のように語るベルゼに目を伏せる。

人間を見下す傲慢さ。

そして、何よりも自分の方が劣っていると考えない浅はかさに私の口元に笑みが浮かぶ。



「ふふ、」

「・・小娘、何が可笑しい?」

「だって、冥土へ行くのは私じゃなく貴方の方なんだもの。」

「何だと!?」



ざわりと、闇が騒めく。

きっと、ベルゼの魔力に反応してだろう。

それを見ても私にとって目の前のベルゼに恐怖心が芽生えない。

ここまで話していてベルゼの事を魔族の中でも小者であり、煽りやすい存在としか認識していなかった。



「小娘、私を愚弄するか!?」

「貴方を愚弄?ふふ、違うわ、それが事実なんだもの。だってーー」



私の足から、手から、身体から、急速に冷気が流れ出る。

ゆっくりとベルゼへと向かう冷気。

その身体を搦めとる。



「ーー・・貴方よりも、卑小と呼ぶ私の方が強いもの。」



口角を上げた。

私から流れ出た冷気は、ベルゼの足を、身体をその場に固める。



「ぐっ、これは、」

「ふふ、貴方の事を簡単には逃さないよ。」



すかさずベルゼが魔法で氷を溶かそうとするが、そうはさせない。

ベルゼへと向けた魔力を、私はさらに強めていく。



「ベルゼ、貴方は愚者ね。」



嘲笑う。

お前は、侮っていた私よりも下の存在なのだと。



「ーーーっっ、何だと!?」



憤るベルゼに微笑む。



「だって、貴方は私との力量さえ理解出来ないんだもの。教えてあげる、ベルゼ。」



ベルゼからの謝罪と反省の言葉などいらない。

もらっても意味がないから。

失った命は、永遠に私の元へと戻らないもの。



「貴方は私をただの人間だと考え、自分の力を慢心した。それが貴方の敗因の1つ目。」



一歩、ベルゼへと足を進める私。

一気に距離を詰めないのは、自分の過ちをベルゼへゆっくりと分からせる為。

簡単には終わらせない。



「貴方の2つ目の敗因は、私の可愛い子達を傷付けた事よ。例えリリスの配下でも、私の大事な子達を傷付け死に至らしめた貴方は万死に値する。」



私の怒りに触発されて、この場の冷気がさらに下がった。

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