第92話 愛した方が負け

アディライト達が街で買い物を終えて宿へ帰って来たのは夕暮れ近く。

しかも、間の悪い事に丁度私がコクヨウとディオンの2人からアディライトお手製のビスケットを食べさせてもらっていた時だった。

何て間の悪い事だろうか。



「ーー・・まぁ、まぁ、ふふふふ、良いですねお2人とも。今度は私もディア様に食べさせたいですわ。」

「フィリアも、したいです!」

「フィリオも、したい!」



良い笑顔を私に向けるアディライトに、自分もしたいと手を上げるフィリアとフィリオの2人。

嬉しいよ?

でも、一体この私の羞恥心はどうしろと!?



「うぅ、」



あまりの恥ずかしさにクッションに顔を埋める。

このまま、誰にも会わないように地中深くまで埋まってしまいたい気分だ。



「~~~子供でもないのに、誰かに食べさせて貰うなんて!」



いや、嬉しいよ?

誰からもしてもらった事ないから、嬉しいけども。

羞恥心は無くならないのです。

ソファーの上で羞恥心に1人で悶える。



「ーー、と、そろそろディア様の羞恥心も限界みたいなので、ここら辺で苛めるのは止めましょう。」

「っっ、!?」



さらりと言い切るアディライトに、ガバリとクッションに埋めていた顔を上げた。

唖然とアディライトを見つめる。

・・・今、アディライトは私を苛めるって言った、の・・?



「っっ、っっ、あ、アディライト!?」

「はい?」

「うぅ、アディライトは私の事が嫌いなの!?嫌いだから私を苛めるって事!?ねぇ、そうなの!!?」



私、何かアディラトにした?

え、怒らせたの!?



「まぁ、そんなはず無いです。誤解ですわ、ディア様。うふふ、ディア様の事が私は大好きだから苛めてしまうのです。」



アディライトが私の前に膝をつく。



「ディア様がお元気になられたようで、アディライトは嬉しゅうございます。」

「・・・ありがとう。」

「それで、ディア様?」

「うん?」

「コクヨウとディオンの2人はディア様に優しくしてくれましたか?そう、色々、と。」



最後を強調するアディライトの瞳が、きらりと怪しく光る。



「へ?」

「うふふ、これからも3人の邪魔にならぬように私はひっそりと見守らせていただきます。お邪魔になるようでした、今日のようにフィリアとフィリオの2人を連れて私は外出しますからね?」

「っっ、なっ、!?」



バレてる!

色々とアディライトにバレているんですけど!!?

アディライトの言葉に、真っ赤になった私は小さく悲鳴を上げた。

・・・私、恥ずかしくて死にそうです。



「・・・ディア様、そんなに恥ずかしがらなくても良いのでは?」

「そうですよ、ディア様。」

「っっ、無理ッ!」



あまりの羞恥に寝室に引きこもる私。

ただいま、ベッドの中に私は逃げ込んでおります。

コクヨウとディオンの2人がどんなに宥めてくれても、恥ずかしいものは仕方ないの。

しばらく布団の中から出れません。



「しかし、アディライトに隠し事は無理ですよ?ディア様のお世話をしているのは、彼女なんですから。」

「うぅ、そう、だけど。そうなんだけども!」



いたたまれないだよ。

いくらコクヨウの指摘通りだとしても。

恥ずかしいでしょう!?

赤裸々な、そっちの事がバレるのは。



「ディア様、アディライトにバレるのが嫌なら、僕達がディア様のお世話の全てをしましょうか?」

「そうですね、それならアディライトに色々とバレる事もないでしょうし。ディア様、そうしますか?」

「そっちの方が無理!」



即、却下。

コクヨウとディオンのお世話の方が心臓に悪い気がする。

いろんな意味的に。



「ーー・・私達との事が知られる事は、ディア様のご迷惑でしたか?」

「っっ、違ッ!」

「ふふ、やっと顔を出してくれましたね?」



ディオンの声に思わず包まっていたシーツから顔を上げてしまった私。

してやったりのディオンに、不機嫌に頬を膨らませる。



「・・・ディオンの、バカ。」

「嫌いになりますか?」

「ーー・・っっ、嫌い、に、なれないよ。」



大好きなんだもん。

最後の方は小さく口ごもる。



「あの、さ?」

「はい?」

「何んでしょう?」

「2人の事は大好きだけど、そんな私の事を甘やかさなくても良いんじゃない?」

「「無理です。」」



ハモるコクヨウとディオンの2人。



「目の前に好きな女性がいて無関心になんてなれません。」

「私もコクヨウも、これ以上ないほどディア様を溺愛しますよ?」

「そうですね。そうなれば他の人にも僕達の関係はバレるんじゃないですか?」

「遅いか早いかの違いですね。なので、ディア様、色々と諦めてください。」

「・・・。」



爽やかに言い切る2人。

ーーーどうやら、私に逃げ道は残されていないようだ。



「ディア様、諦めも肝心かと。」

「受け入れましょう、ディア様。」

「うぅ、」



がっくりと肩を落とす。

どうやら、これから先もドロドロに甘やかされる模様です。

私の心臓、耐えられるだろうか?



「そろそろ、晩御飯の支度も出来ているはずですから食べましょう?」

「明日も迷宮の攻略がありますからね。しっかりと、ディア様には食事をしてもらわなくては。」

「ーー・・はい。」



コクヨウとディオンの2人に手を引かれ、私の短い籠城は幕を下ろした。

ーーー愛した方が負けなんです。

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