第91話 閑話:歪んだ恋心

ディオンside




頭が沸騰するほどの、こんなにも愛おしいと思える存在を初めて知った。

愛おしくて。

この腕に抱き締めたいと思った。



『ーーーー私は、ディア。ねぇ、私の声は聞こえている?』



私を見つめる瞳。

貴方の笑顔。



『ーーー・・待ってて、貴方の希望を取り戻すから。』



あの日から私の心は動き出した。

貴方を見つめ、貴方を思い、貴方を愛する。

それが私の幸せとなった。



『・・・ふっ、ディオン、好き、よ。貴方が、大好き。』



目の前に私を求めるディア様の女の表情。

私の愛撫に甘い吐息を吐き出すディア様の姿に、背中にぞくぞくとした快感が走る。

これほど幸せな事はあるか?

私がディア様に女の表情を、甘い声を出させている。

欠陥品と言われた私が。



『・・・ディア様に言われました。“お願い、私をいらなくなったら、その時は殺して”、と。』



最初、コクヨウに言われた言葉の意味が分からなかった。

殺して?

ディア様の事を私がいらなくなる?



「っっ、そんは事があるはずが無いだろうッ!!」



切なさと。

あまりの怒りで私は身体を震わせた。



「・・な、んで、」



こんなにも貴方しか見えていない私達の気持ちを疑うのですか?

好き過ぎて苦しい。

だけど、この気持ちを捨てたいとは思えなかった。

捨ててしまえれば楽だっただろう。



『・・・そう、だよ。もしも、その与えられた愛を受け入れて失ったら?』



ディア様の様に、この気持ちから目を逸らし蓋をしてしまえば苦しむ事も無かった。



『ーー・・ディオン、私の大切な子。』



母は愛情深い人だった。

片羽しかなかった私の事を、母だけは最後まで愛そうとした人だったから。

・・自分の為だとしても。



『っっ、ごめん、ね、ディオン・・。でも、私は貴方の事を愛しているわ。』



泣きながら愛していると謝るくせに、私に一切触れる事はなかった母。

大切な子?

私は愛してるって?



『ーー・・反吐がでる。』



偽りの愛を囁く母親に、血の涙を流した私の心は次第に死んでいった。

いっそ、母も私の事を憎み、険悪し、父と同じように見捨ててくれたら良かったんだ。

ーーー・・もうこれ以上、何も母親に期待しなくて良い様に。



「っっ、ディア、様。」



何も纏わない、ディア様の身体を掻き抱く。

心を殺し、真っ暗な闇の中を1人彷徨っていた私。



『ーーーー私は、ディア。ねぇ、私の声は聞こえてる?』



あの日、そんな私の事をディア様が見つけ出し暗闇から救い出してくれた。

歪んだ私の心。

貴方の声が私の心を闇の中から掬い上げてくれたんだ。

たった1つの光。



『っっ、あっ、ディオン、を、私に頂戴・・?』



買われて直ぐに気が付いた。

ディア様も私と同じ愛情に飢えた方なんだ、と。

求めて、捨てられて。



『ーー・・もっと、私を愛して?』



愛情に餓えた人。

もし、そんなディア様に愛されたら?

湧き上がる欲求。



「私はこの人に捨てられる事はない。」



歓喜が湧き上がる。

どんな風に愛され、束縛されるのだろう?

ーー・・あぁ、それは。



「なんて素晴らしい愛情なんだろうか。」



うっそりと笑う。

私のこの愛情は、まさに狂愛だ。

そんな事、自分でも痛いほど良く分かっている。

自分は普通では無いのだと。



『ーーーディオン、生まれてきてくれてありがとう。』



だけど、初めてだった。

私の生を心から喜んでくれた人は。



「どうして、そんな人を私は愛さずにいられる?」



誰か教えて欲しい。

この感情を愛と呼ばず、何と名付ければ良いのだろうか?

依存?

ただの執着心?



「・・それでも構わない。」



愛おしいディア様が、こうして私の腕の中にいてくれるのなら。

普通の愛でなくとも構わない。



「・・・ディア、様、愛してます。」



好きよりも強く。

ディア様、歪んだ私のこの心は狂おしいほどに貴方を愛している。

貴方だけを。



『ーーーっっ、ディオン、が、欲し、いッ・・。』



求められる幸せを知る。

私だけを見て、私だけを感じ、私だけの名前を呼ぶ。

例え貴方を独占できるのが今だけの事だとしても、私は幸せだった。



「私の何よりも愛おしい人。」



もっと求めて下さい。

お互いの心を満たせるぐらい強く。

柔らかくて細いディア様の身体を抱き締めて、快楽の底へ落ちていった。



「・・このまま、貴方の事を何処かに閉じ込めてしまいたい。」



誰の目にも触れさせず、私達だけを見つめる。

頼れるのも私達だけ。

笑い掛けるのも、触れ合うのも私達だけなら、ディア様は他の誰かを見ない?



「ふふ、簡単には奪わせません。」



何度も、ディア様の身体に自分のモノだと言う証を散らしていく。

この人の全ては、私達だけのモノ。

奪われてなるものか。



「大丈夫、貴方の事を私達から奪おうとする者は許しませんから。」



必要無いですよね?

貴方の望む者以外、きちんと私達が排除しますから、安心してください。



「貴方が粗末な存在にお心を向ける必要など無いのですから。」



うっそと微笑んだ。

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