第89話 惚れた弱み

呆然と言葉を失う。



「ーーーさぁ、ディア様。納得できた所で、そろそろお風呂場に行きましょう。」



お風呂場の方へディオンが歩き出す。



「っっ、ディオン、だから私1人でお風呂に入れるんだってば!!」



まだ私、納得できてませんから!

必死の抗議である。



「いけません、ディア様。アディライトにもくれぐれもディア様のお世話は何1つ粗相のないようにと、きつく言われてますから諦めて下さい。」

「っっ、!?」



ちょ、アディライト!?

何、私の知らない内にディオンに変な事を言ってくれちゃってるのよ!?

心の中で私は声にならない絶叫を盛大に上げる。



「それに、」



いつの間にかディオンに運ばれて、たどり着いていたお風呂場。



「!!?」



・・い、いつの間に!?

愕然としていれば、ディオンの腕の中からそっとお風呂の椅子に降ろされる。

椅子に座る私の前に屈むディオン。



「ディオン・・?」



お互いの視線が絡み合う。



「コクヨウだけ、とは、狡いと思いませんか?」

「狡い?」

「ーーー私だって、ディア様に触れたいのです。」

「それ、はっ、」

「好きですよ、ディア様。」

「っっ、!!」



どきりと切なげのディオンの表情に心音が跳ねた。

頬が赤く染まる。



「っっ、うう、コクヨウと言い、ディオンも本当に狡い。」



切なげな表情はダメだよ。

そんな顔で言われたら、なんでも無条件に受け入れたくなってしまうじゃないか。

これが惚れた弱みなの!?



「ふふ、狡くても、それでディア様に触れるなら構いませんよ。」

「ふぇ、っっ、」



一房ディオンが私の髪を掬う。



「ディア様に私だけのものになって欲しいとは言いません。」

「・・うん。」

「ですが、私もディア様に触れたい。ディア様の髪の毛一本だって、私は貴方の事が欲しい。」



ディオンが私の髪の毛に口付けた。



「例え、ディア様が私だけのものでなくても構いません。」

「・・・。」

「ディア様のお心に何人の想い人がいようとも、ずっと私のこの気持ちは変わらない。」

「・・・。」

「ただ許す、と、言って下さい、ディア様。私に貴方に触れる許可を。」

「っっ、」



私がくらくらするのは、このお風呂の熱気のせいなのか。



「ーーーー許す。」



それとも。



「ありがとうございます、ディア様。」



嬉しそうに笑う、ディオンが愛おしいせいなのでしょうか?

この関係を誰に非難されようとも構わない。

ディオンの事も私は欲するの。



「まずは、ディア様の身体を洗いましょう。」



生き生きしたディオンの顔。

嬉々としている。

初めは背中から洗ってもらう事にする。



「っっ、」

「あっ、くすぐったかったですか?」



私の身体に触れたディオンの手。

ピクリと身体を跳ねさせた私に、ディオンの手も止まる。



「っっ、っっ、ディオン・・?」



胡乱げな目を向けた。



「はい?」

「ちょっと、私の身体を洗う手付きが不埒すぎない?」

「・・・何の事でしょう?」



なぜ、目を逸らす?

それって、疚しい事をしたって言ってるようなものだよね!?



「・・・ディオン、正直に言わないと今後一切私に触らせないよ?」

「はい、ディア様の言う通りです!申し訳ありません!!」



早っ!

あっさりと認めたよ。

コクヨウといい、ディオンも何でそんなにも私に触れられない事が嫌なの!!?

おかしいでしょ!?



「認めます、だから、一切ディア様に触れされないなんて罰はやめて下さい!」

「・・何で、そんな必死なのよ?」



大げさな。



「必死にもなりますよ!?ディア様に触れたい、抱き締めたいって思いは自分の中に常にある常識です!」

「はい・・?」



常識?

私に触れるのと、抱き締める事が?



「他にもディア様の、その温もりをもっと知りたい。」

「・・・。」

「ディア様を愛したい。そして、ディア様に愛されたいと言うこの思いは捨てられないし、止める事が出来ないんです。」

「ふーん?良いよ?」



身体の前を隠していたたシーンを剥がす。

露わになる私の身体。



「ーーーコクヨウに抱かれた私ごと、全てを愛してくれるなら。」



ディオンは愛してくれる?

こんな私の事を。



「欲しい?ディオン、私の事が。」

「・・・はい、欲しい、です。ディア様の全てが欲しい。」



ディオンの瞳に火が灯った。

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