第82話 追跡者
順調に進む迷宮攻略。
迷宮10階層を探索する事、数時間。
「ディア様!」
「ボス部屋です!」
フィリアとフィリオの2人が10階層の奥にそびえ立つ大きな扉へと走り寄る。
確かに扉の中から放たれるプレッシャーは今までの敵より数段上だ。
ここがボス部屋に間違いはないだろう。
「ご苦労様、2人共。ふふ、この扉の奥に10階層のボス、ミノタウロスがいるんだね。」
「ディア様、さっそく挑まれますか?」
ディオンが聞く。
「その前に、少し休憩しよう。アディライト、お茶を用意してくれる?」
「かしこまりました、ディア様。」
一礼したアディライトは、ウエストポーチからポットとカップを取り出す。
その間に私は自分のウエストポーチからと見せかけて空間収納から大きな絨毯を取り出し、その上にテーブルと椅子を設置する。
即席の休憩の出来る空間の完成である。
「ディア様、お茶です。」
「ありがとう、アディライト。んー、今日も良い香りね。」
迷宮の中でもアディライトが淹れてくれる美味しいお茶を飲めるなんて、なんて贅沢なんだろうか。
お茶の良い香りを楽しみながら、ゆっくりと味も堪能する。
「ーーー・・まだ、いますね。」
私の隣で同じようにアディライトが淹れたお茶のカップに口を付けたコクヨウが小さく呟く。
ちらりとコクヨウが一瞬だけ視線を何気なく向ける先は、私達が通って来た道。
「コソコソとディア様の後をつけるなど、彼等は何を考えているのでしょうか?とても不愉快です。」
「あら、コクヨウ、良いんじゃない?あちらにはリリスとアスラの2人を見張りに付けてるし、まだ私のマップ上では敵意を感じないし、ね。こうして私達が休憩していても、彼方さんは何もしてこないし、捨て置きましょう?」
10階層のボス戦を前にこうして休憩を入れたのは、私達の後をずっとつける彼等の真意を知りたかったから。
私達が休憩していても彼等も立ち止まるだけで、こちらに何かを仕掛ける訳でもないのだし、害意がなければ目くじらをたてるような事はしない。
不機嫌になるコクヨウに微笑み、カップを置く。
「ーーー・・まぁ、私達に何か攻撃を仕掛けてくるようなら、その時は全力で相手をしてあげれば良いのよ。」
何1つ残さぬように。
私達にとって大事なのは自分達だけ。
他のどうでも良い人間など、私達が気にする価値もないのだ。
「目的は、私みたいだし。」
ねっとりと、私に向けられるストーカーと言う名の追跡者だからこそ、見逃している。
私の大切な皆んなの事を狙っているなら、直ぐにでも相手になるんだけどね。
「・・ディア様を狙うから不満なんです。」
不貞腐れるコクヨウ。
あら、可愛い。
「ふふ、コクヨウ、不貞腐れないで?ただ私を見る分なら可愛いものじゃない?」
見ているだけで害意はないし。
少し気持ち悪いが、皆んなに何もしてこないなら相手にする気はない。
「そんな見ているだけで満足する相手に時間を費やして、考えてあげる必要がある?」
私の全ては、皆んなのもの。
こちらを見ている相手に心も、気持ちも、皆んな以外に向ける必要性を感じない。
「ねぇ、皆んな?そうでしょう?」
こてん、と私が首を傾げれば全員が微笑んで頷く。
それからも、こちらの様子を窺うだけの彼等は完全にスルーして休憩の時間を取り続ける。
お茶と一緒に出されたアディライト特製スコーンは、美味しくいただきました。
「さて、いよいよ、この10階層のボス攻略を始めますか。」
疲れも取れた事だし、ね。
全ての荷物を片付けて、ボス部屋へと私達は向かう。
「皆んな、後ろの彼等が余計な横槍をするようなら容赦しなくて良いからね?」
小さく全員に呟く。
「ディア様、かしこまりました。」
「はい、そんな愚か者には一切の遠慮はいりませんね。」
「心得ました、ディア様。」
「邪魔者は駆除、です。」
「ディア様の邪魔者はさせません。」
コクヨウ、ディオン、アディライト、フィリアとフィリオの順で同意を示す。
彼等の中で私の邪魔になる存在は絶対に許せないらしい。
頼もしい事だ。
「「開けます、ディア様。」」
満足げに笑った私は、フィリアとフィリオの2人によって開かれる扉の先に待ち受けるボスへと意識を向ける。
その扉の先は広い広間だった。
「ぶもぉ!」
部屋の中の中央にいるのは、この10階層のボスであるミノタウロス。
さすがはボスと言う所。
ミノタウロスが醸し出す存在感はこれまでのモンスターの比ではない。
が。
「うん、私達の敵ではないね。てか、戦うのは私1人でも良いかも?」
ひっそりと笑う。
レベルが低く、ボスであるミノタウロスを脅威と感じない。
名前:ミノタウロス
LV18
HP:1480/1480
MP:890/890
スキル
気配察知、突進、噛みつき
ね?
ボスであるミノタウロスのスキルも少ないし、直撃さえ受けなければ何の心配はない。
「さて、さっさと倒しますか。」
私は不敵に笑った。
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