第66話 コクヨウの決断
恋愛対象として、コクヨウが私の事を好き?
こんな私を?
「っっ、う、嘘・・?」
「ディア様に、僕がそんな嘘をつくとでも?」
「ぐっ、」
言葉に詰まる。
・・確かに、コクヨウは私に嘘をつかないかも?
「っっ、で、でも!何で、私なの?わ、私が、コクヨウを買った主人だから?」
「何で?それはーーー」
コクヨウに腰を抱かれ、引き寄せられる。
近付く互いの顔。
「っっ、コ、コクヨウ!?」
何事!!?
吐息さえ触れてしまうほど近付く互いの距離に、私の頬が段々と熱を帯びる。
「・・・ディア様、貴方は気が付いていますか?」
「え?」
「貴方は、時々、寂しそうな目をする。」
涙の跡が残る私の目尻をなぞる、コクヨウのほっそりとした指先。
「直ぐに気が付きました。」
「・・・何、を?」
「ディア様も僕と同じで、他の誰からも愛されなかった人間なんだと。」
コクヨウの漆黒の瞳は、私の隠された本質を全て見透かしていく。
昔から、私は本心を隠すのが上手かった。
良く言われたものだ。
『弥生ちゃんは、いつも何を考えているか分からない。』
と。
それなのに、コクヨウにあっさりと見破られてしまった私の胸の内。
「っっ、」
口元が震える。
私の全てを見透かす様なコクヨウの瞳が怖かった。
暴かないで欲しい。
「誰よりも、ディア様、貴方は愛を欲している。」
でも、見つけて。
ーーー・・本当の、隠された私を。
本心を曝け出すことは怖い。
だって、自分の全てを見せるって事だから。
もしも、嫌われたら?
考えただけで吐き気がする。
「確かに、ディア様には買っていただいたご恩があります。だからと言って、自分の気持ちを偽りませんよ。」
「っっ、じゃ、じゃあ、」
「はい、心からお慕いしています。ディア様、貴方だけを。」
熱を孕むコクヨウの瞳。
その熱を怖いと感じると同時に、嬉しいと思う私がいる。
「ディア様は、僕の事を嫌いですか?」
「っっ、まさかッ!」
私がコクヨウを嫌うなんて、そんな事、絶対にありえない。
コクヨウも事は大切で、大好き。
「・・・でも、その好きがよく分からない。」
恋って何?
愛って、どんなもの?
『ーーーあいつを殺したお前を、俺は絶対に幸せにはさせない。』
私は、幸せになってはいけない人間。
きつく目を瞑る。
「・・・ディア様は、一体、何に怯えていらっしゃるのですか?」
「・・や、」
お願い、コクヨウ、今は私の心を暴かないで。
目を背け、口を噤み、耳を塞ぐ。
それが私の、心の守り方。
「・・っっ、もう、止めて、コクヨウ。」
小さい頃同様、私は蹲った。
コクヨウの告白は、私の心を酷く動揺させる。
「ディア、様?」
「っっ、や、めてッ。」
耳を塞ぎ蹲る。
もう、何もコクヨウから聞きたくなくて。
怖い。
これ以上、固く蓋をして隠している自分の心の内へ踏み込まれる事が。
逃げ出してしまいたい。
『っっ、何で、お前は生きているのに、あいつは死ななければならなかった!?』
忘れるな。
『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』
自分は、罪人だと言う事を。
「・・・幸せに、なんて、なれないよ。」
私は人殺し。
そんな私が、幸せになんかなれるはずがない。
『ディア様も僕と同じで、他の誰からも愛されなかった人間なんだと。』
図星だった。
私も皆んなと同じ、誰からも必要とされず、愛されなかった子供。
だからだと思う。
こんなにも、私が彼らに執着するのは。
「・・私、は、」
一体、何を望んでいるんだろう?
分からない。
自分の事なのに、何1つ。
「・・・僕のこの思いは、ディア様の迷惑、ですか?」
「違っ、」
思わず、顔を上げてしまう。
絡まる視線。
「でも、例えそうであったとしてもディア様へのこの思いは、捨てられそうに無いです。」
「・・・コクヨウ。」
コクヨウの指が私の髪を掬う。
「心から愛してます、ディア様。貴方の事を、誰よりも。」
私の髪に、愛おしそうにコクヨウが口付けを落とした。
かっと、羞恥に頬が朱に染まる。
「ですのでーーー」
「っっ、!?」
ベットに押し倒される私の身体。
その私の上には、コクヨウがのしかかる。
「へ・・?コク、ヨウ?」
「ちゃんと、ディア様には僕の気持ちを知ってもらいます。」
「!??」
驚愕する私の額に、頬に、落ちる口付け。
コクヨウの手によってはだける胸元。
目を剥く。
「っっ、コクーーーッ。」
私の言葉は、コクヨウのキスによって掻き消された。
身体中に落ちる口付け。
頭の中が沸騰してしまいそう。
「・・やっ、コクヨウ、まっ、待って、」
「待ちません。」
「あっ、っっ、」
私の口からは拒絶の言葉では無く、ただ甘い声だけが零れ落ちていく。
それは、なぜ?
「ディア様、本気で嫌なら、拒絶して。」
「んっ、」
・・・拒絶、したいのだろうか?
こうして、私の身体に優しく触れるコクヨウの手を。
『心から愛してます、ディア様。貴方の事を、誰よりも。』
コクヨウの気持ちを、私は拒みたいと思っているの?
「んんっ、あ、」
涙が滲む。
「っっ、コ、クヨウ、」
手を伸ばす。
私が縋り付くのは、目の前の彼。
「ーー・・怖、い。っっ、コクヨウ、怖いよ。」
怖くて堪らないの。
「ディア様、大丈夫です。」
「コクヨウ・・?」
「何があっても、貴方の事は守ります。」
「っっ、」
コクヨウの言葉に心が震えた。
目の前の存在を失う怖さと、求められる事の嬉しさ。
「・・、でも、」
私はーー
『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』
あの人に囚われたまま。
前に進めない。
「ディア様、今は何も考えないで。」
頬を撫でられる。
コクヨウによって、快楽の波に誘われる私の身体。
頭の中が掻き乱されていく。
「っっ、っっ、」
「・・・お休みなさい、ディア様。」
薄れゆく思考。
額に落ちる温もりとコクヨウの声を最後に、私の意識が闇に落ちた。
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