第60話 閑話:迫る者達

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数人の男達がモンスターが蔓延る危険な森の中を周囲を警戒しながら静かに進む。

人間、亜人の混ざった、全員が世間からは魔族狩りと呼ばれる者達だ。

人間の男が立ち止まり、獣人である俺に向かって苛立ちを表す。



「おいっ、本当にこっちの方向にその双子の魔族がいるんだろうな!!?」

「あぁ、それは間違いねぇ。あの双子の魔族の臭いが嫌ってほど、こちらの方から強くするからな。」



獣人の男が臭いを確認する様に鼻をひくつかせる。

香る、憎い魔族の臭い。

間違いなく、この先に汚らわしい魔族の双子がいると獣人の男は確信する。



「この森の先に、必ずあの汚らわしい双子の魔族がいやがる。そこは絶対に間違いねぇぜ。」



獣人の男は嫌悪感を滲ませて吐き捨てる



「絶対に俺が汚らわしい魔族の双子を仕留めて血祭りにしてやるぜ!」



獰猛に獣人の男は笑った。

魔族に対しての仄暗い増悪を瞳に宿して。



『ーーー・・ジェイル、貴方は私から高貴なる王家の血を受け継いだ子です。』



獣人の男は、ある滅びた王家の血を引いていた。

が、男の母親の血の元となる祖国の小さな獣人の国の王家は、100年前の魔族との争いで滅亡する。

ーーー己と、母親を除いて。



『あの時は、私と爺の2人であの地獄のような場所から逃げるのでやっとでした。』



まだ幼かった母。

魔族の侵攻で炎に焼かれた自国を逃げ出すのが精一杯で、自分の身を守る事だけが幼かった彼女が出来た唯一の抵抗だった。

他の誰も助けられず。



『魔族から逃げながら爺に連れられ、あてもなく国中を彷徨い、ようやくたどり着いた街で私は惨めな暮らしをしたものです。』



幼い少女の庇護者である爺が数年で亡くなり、それからは春を売り必至に生きてきた母。

ーーそして、しばらくして母は俺を身ごもった。

自分の血を継いだ、俺を。



『この魔族への憎しみは、我が国の全ての民のもの。』



男の母親は魔族を憎んだ。

自分がこうして苦労するのは、全てがあの時攻めてきた魔族の所為だと。



『ジェイル、貴方が私の最後の希望です。』



魔族が憎い。

自分から、母から祖国を奪った魔族が。

ある獣人の国の王族の血を引いて生まれた男と母親は、魔族によって奪われた栄光を未だに捨てられずにいた。

だって、そうだろう?

自分達は高貴の血筋で、祖国が滅びなければこんな暮らしをする必要などなかったのだから。



『決して、我らが祖国を滅ぼした憎き魔族を許してはなりません。この母の苦労をジェイル、お前は絶対に忘れてはいけませんよ?分かりましたね?』



まるで洗脳のように、母から繰り返される魔族への憎しみと増悪の怨嗟の声。

強い肉体をもつ獣人は、最高で140年も生きる。

母は祖国を滅ぼした魔族への復讐心だけで、120年の人生を送った。



『私の可愛いジェイル。高貴な我が祖国の血を受け継ぐ貴方が、全ての魔族を討ち亡ぼすのです。私から高貴な血を受け継いだ、ジェイル、貴方が。』



獣人の男の心に、幼い頃から母から植えられた魔族への敵意の種が育っていく。



『ーー・・貴方が、必ず次代の新たな獣人の王となるのです。』



暗く淀んだ瞳で母は笑った。

その先に、自分の栄光の未来だけを映して。



『っっ、なぜ、私がこんな惨めで、こんなにも苦労をしないといけないの!!?』



目の前の現実から目を逸らし。



『この私は、高貴な王族の末裔だと言うなのにっっ、!!』



遠い昔に消え去った過去に縋った。

死ぬ、その日まで。



『・・なぁ、良い仕事になる話があるんだが、お前も、どうだ?』



母を失った俺に、転機が訪れる。

知り合った魔族狩り。

憎い魔族を狩り、奴隷の身に落として金を得る。



『・・あぁ、俺も乗るぜ、その話に。』



俺は魔族狩りの一員になった。

何が悪い?

この世の害虫である魔族を金儲けにして。



「なぁ、ルーベルン国で開催されるオークションで魔族が出品されるみたいだぞ!」



魔族狩りの一員になって数年。

新しい魔族の情報に俺達は沸き立つ。



「くくっ、魔族のお陰で新しい金が手に入るぜ。」



気に食わなければ、殺せば良い。

魔族は俺達の金儲けの商品であり、ストレス発散の道具なのだから。

俺達はルーベルン国へ向かった。



「ある女が魔族の奴隷を購入したらしい。」

「しかも、双子だ。」



ルーベルン国のオークション会場を見張っていた魔族狩りの仲間から続々と集まる情報。

魔族の、しかも双子を買った女。

ディアレンシア・ソウル。



「それにしても、魔族を連れた良い女だったな。」



舌舐めずりする。

魔族の双子といた最高の女。

どうやら、あの女が双子の魔族の主人らしい。

獣人族である俺は、自分の自慢の嗅覚を使って遠方から女達の臭いを目印に後を追い、こうして、この森にまで迫って来た。



「くくっ、魔族の餓鬼は当然奴隷として売り払うとして、あの銀髪の女は俺のものにするか。」



あの女も、泣いて喜ぶ事だろう。

高貴なる血を受け継いだ自分の側室の1人になれるのだから。



「飽きるまで、この俺の側に置いてやる。」



感謝して暮らせば良い。

この俺が飽きる、その時まで。



「ーーー・・それは、一体、誰の事を言っているんですか?」



獣人の男の邪な思考は、底冷えするほどの冷たい声に遮られる事になる。

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