第35話 3人目の候補

魔族の双子。

普通の人が買ったら、魔族の奴隷であるフィリアとフィリオの2人の処遇は最低なものとなるだろう。

未だ魔族に対して憎しみを抱く者は多いと聞くし。

だからこそ、ハビスさんは私に今回のオークションの招待状を渡したのかもしれない。

魔族である2人の為に。



「ハビスさん、でも、その前に少し2人と話しても構いませんか?」

「もちろんですとも。フィリア、フィリオ、2人とも失礼のないように。」

「「・・・・。」」



ハビスさんに促され、互いに顔を見合わせたフィリアとフィリオの2人は、ただこくりと頷くだけ。

うーん、2人とも無口だなぁ。

警戒されてる?



「こんにちは、私の名前はディアレンシア・ソウルって言うの。貴方達のお名前はフィリアとフィリオなのね?」

「・・フィリア。」

「・・フィリオ」

「そう、よろしくね、フィリア、フィリオ。私は冒険者をしているんだけど、もし貴方達の事を買ったら、一緒に旅に出ても大丈夫かしら?きちんと2人の事は守るけど、当然、危険な事もあると思うの。」



奴隷だから、魔族だからと言って、私は彼らに無理強いはしたくない。

2人の出した答えが私と一緒に冒険者は無理だと言うなら、彼らを買う事は諦めるしかないだろう。



「無理なら、遠慮なく言って?」

「「・・・・。」」

「どう、かな?」

「「・・・。」」



顔を見合わせた2人は、私を見上げてから、またこくりとだけ頷く。

・・・これは、良いよって2人からの返事なのかな?



「それは、了承と取って良いの?」

「「・・・。」」



またコクリと頷く2人。



「そう、分かった。私が必ず2人の事を買うわ。2人とも、そのつもりで待っていてね?」



ーーーーこの瞬間、私の中で2人を買う事が決まった。



「ソウル様、彼らの落札の値段は跳ね上がる事でしょう。ソウル様と違い、2人を購入しようと思うものはたくさんおります。」

「やはり、魔族である2人は注目されていますか?」

「えぇ、2人は色々と使がありますので。どうぞ、そのつもりでオークションにお望みください。」

「えぇ、忠告ありがとう。」



ハビスさんの忠告に私は笑って頷く。

フィリアとフィリオの2人に対して、そう言った思惑で品定めしたお客様がいたのだろう。

にこやかに微笑むハビスさんの瞳の奥に、怒りと嫌悪感が見えた。



「ふふ、ハビスさんは奴隷にお優しいのですね?」

「大事な商品ですので大事にしますよ。」

「・・奴隷商人として本心は言えませんよね。」



肩をすくませる。

奴隷を売る側のハビスさんが、商品である奴隷の心配をしてるなんて声に出して言えないだろう。

せめて、いい主人に買われる様に尽力する事しか、ハビスさんにはできないのだ。



「ですが、ハビスさん、必ず私が2人の事を落札しますのでご安心を。」

「はい、2人のご入札をお待ちしております、ソウル様。」



私に一礼するハビスさん。

もう一度ハビスさんと双子の2人に微笑み、私はその場から立ち去る。

フィリアとフィリオを買う事を、改めて決めた。

それから双子やハビスさん達とは別れ、次の奴隷がいるベースへ。

名残惜しいが、他にも見たい子がいるから仕方がない。

一つ一つ、ブース内を見て行く。

歩き回る事数分。



「ーーーーっっ、いた。」



ようやく見付けたのは、私の今日の3人目のお目当の子。

思わず、声を上げる。

・・・へえ、本当にーーーー

まじまじと、その子の瞳を見つめた。



「あぁ、ようこそ、お客様。おや、黒い瞳を持つとは、変わった奴隷をお持ちで。どうぞ、うちの商品も見て行って下さい。」



入り口で足を止めた私に気が付いた、ヨーデルと名乗った商人がブース内へ招き入れてくれる。

私の側にいるコクヨウの黒い瞳を見て一瞬だけ驚いたようだけど、奴隷だと分かったからか、それ以上特に何かを言う事は無かった。


 

「お客様、ご紹介いたします。世にも珍しく左右の目の色が違う少女、名はアディライトでございます。」



ヨーデルは得意げな表情で、アディライトと紹介した少女の肩に手を置く。



「どうですか?お客様がお持ちの、黒い瞳同様に珍しい奴隷でしょう?」



そのアディライトの瞳は、左右で違く、右は青、左は緑色で、日本でオッドアイと呼ばれる神秘的で綺麗な色だった。



「さぁ、アディライト、お客様にきちんとご挨拶さない。粗相の内容にな?」

「・・・はい、お客様、アディライトと申します。」



オッドアイの瞳を伏せ、口元に寂しげな微笑みをアディライトが浮かべる。

ーーーその瞳の奥に、諦めを宿して。

アディライトの表情は、まるで昔の私のようだった。



「とても綺麗な瞳ですね?」

「っっ、えぇ、えぇ、そうでしょうとも、それが彼女の自慢ですから!どうです?アディライトはお客様にお気に召していただけそうですか?」

「・・はい、まぁ。ですが、ちゃんと私や他のお客さんに言わなくてはいけない事があるのでは?」

「・・・え?」

「この子は、ーーーーアディライトはんですよね?」

「「・・っっ、!?」」



笑って首を傾げた私に、ヨーデルとアディライトの2人が揃って息を飲む。

ダメじゃない。

ちゃんと、大事な事は言わなくては、ね?

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