文学理論その8. リドルストーリー


 リドル・ストーリー (riddle story) とは、謎の答えを書かないで終わらせた無責任な物語のこと。三谷幸喜の「赤い洗面器の男」が有名。

 いったいこれ、何がテーマなの?…のようなハンパな物語もリドル・ストーリーの一種とする説もあるようなないような。

 

Mercury and the Woodmanその1

 正直者の貧しいきこりが仕事の帰り道、大切にしていた斧を池に落としてしまった。

 途方に暮れていると、池の中から金の斧と銀の斧と鉄の斧を抱えた神様(ヘルメス)が現れ、樵に訊いた。

「おまえの斧はどれ?」

「鉄の斧です」

 と、正直な樵は答えた。

「ぶっちゃけ、お前が一番欲しい斧はどの斧?」

 正直だが貧乏がそれほど好きではない樵は、正直に答えた。(おわり)


Mercury and the Woodmanその2

 樵が泉に大切な斧を落としてしまった。困っていると、泉から頭から血を流した神様が現れ…

「これって、お前が落とした斧か」

 と、御自分の頭を指さしてキレ顔で仰った。(おわり)


Mercury and the Woodmanその3

 樵が泉に大切な斧を落としてしまった。名匠といわれた刀鍛冶が作った世界に二本しかないという名斧めいきだった。困っていると泉から電卓をもった神様が現れ…

「お前が落とした鉄の斧とこの斧を交換してくれ」と、先ず銀の斧を出して、交渉をし始めた。「御冗談でしょ」と、樵が首を横に振ると、神様は次に金の斧を出した。                              (おわり)


Mercury and the Woodmanその4

 樵が泉に大切な斧を落としてしまった。困っていると、泉から神様が現れた。

「お前いまかねいくら持っている?」

 と、神様は値札のついた様々な斧を並べた。(おわり)


Mercury and the Woodmanその5

「これ落としたのお前?」

 と、銀の斧をもった神様が訊いた

「違います」

 と、正直な樵は答えた

「でもこれしか無かったけど・・・」

 と、首を傾げながら神様は鉄の斧を探しに泉に戻った。(おわり)


Mercury and the Woodmanその6

 樵が泉に斧を落としてしまった。

「まあいいや。どうせドン・キホーテで買った安物の斧だ」

 泉の中から金の斧と銀の斧と鉄の斧を抱えた神様が現れた時には、樵はどこにも居なかった。(おわり)

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