第17話 混浴

「はー、生き返るー」


 夕食後、お湯に体を沈めながら俺はそう呟いた。


 湯舟は木で出てきており、10人は入れそうなほど大きかった。

 紫音の説明を聞くに、檜風呂というらしい。

 ほっと一息つける、心地よい空間だった。


 そんな檜風呂で幸せな時間を過ごしていた、その時だった。


「ん? なんだ?」


 風呂の入り口が開く音がしたのでそちらに視線を向ける。


「って、なっ!」


 そして俺は驚愕に目を見開いた。

 だってそこにいたのは――


「ア、アルスくん。私がお背中をお流しいたします!」


 ――白色の布一枚で体を隠した、紫音だったのだから。


「な、何をしているんだ。年頃の女の子が、男に裸を見せるなんて!」

「は、裸ではありません。バスタオルで隠しています!」

「だとしてもだ! いきなりどうしたんだ!?」


 焦りながらもそう問いかけると、紫音は顔を真っ赤にして返す。


「こ、この国では一緒に暮らすようになった殿方に対して、お背中をお流し、し歓迎するという習わしがあるんです!」

「なに?」


 そんな習わしがあるだなんて、心からびっくりだ。


「でででですから、アルスくんさえ良ければ、なのですが……お背中を流させていただけませんか?」

「――――ッ」


 少しだけ恥ずかしそうに告げる紫音を見て、不思議な感覚を覚えた。

 ……抵抗感がないわけではないが、それがこの国の習わしなら、受け入れるべきだろう。


「わ、分かった」


 熟考の末、俺は小さく頷くのだった。



 その後、俺は腰にタオルを巻いた状態で椅子に腰かけ、後ろには紫音がいた。

 なんとも言えない空気のまま、紫音は手に持つタオルで俺の背中を拭く。


 き、気まずい。

 心なしか、紫音の動きもぎこちないような気がする。

 男女ともに羞恥を与える慣習があるとは、恐るべき国だ、ここは。


「……ア、アルスくん、痛くはありませんか」

「へ、平気だ。続けてくれ」


 正直に言うと、なかなか心地よくはあった。

 だけどそれを言葉にするのは気恥ずかしかったため、そう答えることしかできなかった。


 すると、途中で紫音の動きが止まる。

 どうしたのかと尋ねようとすると、彼女は「ほうっ」っと息をもらした。


「極限まで鍛え上げられた肉体……どれほどの研鑽があれば、この領域に辿り着くことができるのでしょう」


 どうやら俺の体に見惚れているみたいだった。


「紫音?」

「はっ! も、申し訳ありませんアルスくん! ち、違うのです、決して見惚れるあまり動きが止まっていたわけでは――」


 姿は見えないが、あたふたとしていることは分かる。

 落ち着くまで待とうかと思った次の瞬間――


「きゃっ」

「えっ?」


 ずるりという音の後に、紫音の声が響く。

 何が起きたのかと、反射的に俺は振り向く。


 するとそこには、足を滑らせてこちらに倒れてくる紫音の姿があり――



 ここから先は、あえて言うのをやめておこう。

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