第6話 紫音と千代
魔獣から少女を救った翌日。
俺は森の中に現れたイノシシと戦っていた。
「ふんっ!」
「ぎゃうっ」
結果は圧勝。
素早く血抜きを行い、担いで家に持って帰る。
「山菜もうまいけど、やっぱり肉が最高なんだよな。今日はこれを焼いて食おうっと……って、あれ?」
小屋の前には、二人の少女が立っていた。
一人は金髪のポニーテールが特徴的な、凛とした雰囲気の少女。
もう一人は艶のある黒色の長髪が特徴的な、可愛らしい――昨日、俺が助けた少女だった。
まずい、まさかこんなにも早く住処がバレるとは。
この拠点は放置して、別の場所に移った方がいいか?
一瞬そう思ったが……よくよく考えたら、そこまで必死に人と関わらずにいようとする必要はないのかもしれない。
ひとまず何をしに来たか話を聞くだけなら大丈夫だろう。
そう思い、俺は二人に話しかけた。
「えっと、うちに何か用か?」
「――――ッ!」
尋ねると、黒髪の少女がびくりと肩を震わせて振り返った。
緊張の面持ちを浮かべたかと思えば、ゆっくりと深呼吸したのちに告げる。
「わたくしは
「ああ。で、そっちは?」
「紫音お嬢様の従者である、
軽く会話をしてみたところ、二人から敵意は感じない。
ひとまず、警戒は緩めてもいいだろう。
「俺の名前はアルスだ。何もない家だが、とりあえず中に入ってくれ」
「は、はい!」
「ありがとうございます」
そう言って、俺は二人を小屋の中に招待した。
小屋に入ると、二人は両膝を床に付けるという不思議な体勢で座る。
かなり窮屈そうだが、あれがこの世界の基本的な座り方だったりするのだろうか?
試しに俺もその座り方をしてみたが、やっぱり馴染めなかったので、すぐに膝を崩した。
「それで、用件はお礼だったっけ?」
「はい、その通りです。昨日は貴方のおかげで、わたくしは命を救われました。心より感謝いたします」
言って、紫音は両手を床につけて頭を下げる。
隣にいる千代も、それに続いた。
「そんな大層な礼はいらないぞ。目の前で人が死にそうになってたんだ、誰だって助けようとはするだろ」
「……立派な心をお持ちの方なのですね、アルス様は」
顔を上げた紫音は、にっこりと柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
その可愛らしい表情に、俺は思わず見とれてしまった。
……艶のある髪といい、整えられた服装といい、向こうの世界ではいないタイプの女の子なのも、大いに影響しているのだとは思う。
不思議な空気の中、俺と紫音が見つめ合っていると、千代がわざとらしく咳をした。
「ごほん。アルス様、こちらはお礼の一つとなります。つまらないものですが、よかったらお受け取り下さい」
そう言って、千代は大きな袋を差し出してくる。
つまらないものを渡してくるって、もしかして俺、嫌われていたりするのかな?
俺はちょっと涙が出そうになるのだった。
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