相合い傘

 七月始めは梅雨により湿度が高く、外に出たいと思えない。

 だからって学校をサボるわけには行かず、雨が降っている中、健斗は雪奈と一緒に学校へと向かう。


「相合い傘」

「はい」


 ずっとくっついていたいと思っている健斗は、マンション出て雪奈と共に一緒の傘に入る。

 カップルがやる、いわゆる相合い傘というやつだ。

 黒い大きめの傘を健斗が持ち、隣にいる雪奈がギュっと抱きついてくっつきながら歩く。

 柔らかい感触が伝わってきて幸せな気持ちになるが、ただ一つ欠点があり……。


「お姉ちゃん、歩きにくくないの?」


 玄関を開けたとこで待ち構えていた夏奈に、唯一の欠点を言われた。

 肩が濡れないように雪奈にはくっついてもらっているのだが、こんな体勢ではもちろん歩きにくい。


「健斗くんが望んでいることは何でもしてあげたいの」


 歩きにくいというのは否定しないのは事実だからなのだろうが、本当に雪奈は健斗のためなら何でもしてくれる。

 以前に従順な雪奈がいい、と言ってしまったし、絶対に何があろうとも彼女は断らないだろう。

 本当に嫌で嫌でしょうがないお願いだったら断るだろうが、これくらいは雪奈にとって断るまでもないということだ。

 もちろん健斗限定ではあるだろう。


「お姉ちゃんは本当にお兄さんラブだね」


 そろそろ慣れてきたのか、夏奈は白い目を向けるのを止めてくれた。

 イチャイチャしているとこを毎日のように見せられては慣れてくるだろう。

 何故かここ最近は毎朝、玄関の前で待ち構えているので、夏奈とも一緒に登校している。

 しかもたまにひよりも混ざってくるという複数の女子と一緒にいるため、事故前の自分からは創造もつかなかったことだ。

 雪奈についての記憶は未だに戻っていないが、確実に事故以前は一緒にいなっかったはず。

 過去に異性と仲良くなった記憶はないので、今の自分にはビックリすることが沢山だ。


「あう……」


 妹にラブと言われたからか、雪奈の頬が赤く染まる。

 誰から見ても雪奈の気持ちは駄々分かりであり、恐らくは彼女も周りに想いがバレているのは承知しているだろう。


「雪奈」

「健斗く……んん……」


 恥ずかしがっている雪奈にキスをする。

 相合い傘しながらキスするのは初めてだが、傘がいい感じに目隠しになってくれるかもしれない。

 キスしながらも雨で濡れてしまわないように傘をしっかりと持つ。


「またキス……」


 正面に来られてはキスしていると丸分かりだった。

 でも、雪奈が可愛すぎてキスしたくなってしまうし、外であっても止めることが出来ない。

 本当は家に籠って一日中していたいくらいだ。

 夏休みはずっと引きこもっていそうだな、と思いつつも、健斗は雪奈の唇の感触を味わう。

 ゴールデンウィークから何度も味わっているが、毎日何度しても飽きがこない。

 永遠にしていられると思えるほどだ。


「本当に凄いね……」


 夏奈はただ見ているだけしか出来ないらしい。

 もし、雪奈が嫌がっていたなら止めるだろうが、幸せそうにキスをしている彼女を見ては止められないだろう。

 ただ、キスするなら二人きりの時に、くらいは思っているかもしれない。

 流石にことろ構わずイチャイチャされても嫌だろう。


「あまりキスしていると遅刻しちゃうよー」


 夏奈の一言により健斗はキスを止める。

 出来ることならもっとしていたいが、雪奈を遅刻させるわけにはいかない。

 キスはこれからも沢山出来るが、遅刻という汚点は消し去ることが出来ないのだから。


「雪奈、キスは教室に着いたらで」

「はい」

「教室でキスする気なのこのバカップル……」


 何故か鋭いツッコミが入ったが、気にせずに学校に向かった、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る