甘々で穢れた同棲生活~事故で記憶を失ってお見舞いに来てくれる学校一の美少女に「セフレの関係なの?」と聞いたら本当になった~

しゆの

車に轢かれそうなとこを助けたら惚れられた

「暇だ……」


 やることがなく、長瀬健斗ながせけんとはベッドの上でため息をつく。

 高校二年生に一日中ベッドの上にいないといけないのは退屈しかないだろう。

 絶対にベッドの上にいないといけないわけではないのだが。


「事故で入院しているんですからしょうがないです」


 可愛らしい白のワンピース姿の少女が呟く。

 健斗は三日前に事故に巻き込まれて右手首を骨折し、今は入院している。

 右手首はギプスに包帯でグルグル巻きされており、入院している人が着る病着姿だ。

 今がゴールデンウィークで学校が休みなのが良かった。

 事故に遭った日は学校帰りで、制服がボロボロになってしまったのだが。


「右手が不自由なだけで元気なんだけど」


 不幸中の幸いなのか一番大きな怪我は右手首の骨折だけで後はかすり傷程度のため、病院にいるのは暇すぎる。

 事故の時に軽く頭を打って気を失ってしまったのもあり、今は念のため入院しているだけにすぎない。

 検査でも頭に異常はないとのことで、後数日たてば退院出来るだろう。


「それでも、ですよ。私は助けられた身なので煩く言いたくないですけど、大人しくしといてください」


 目の前にいる少女は車に轢かれそうなところを健斗に助けられたらしい。

 だけど頭を打ったせいなのか、健斗に事故の時の記憶がなく、目の前にいる少女のことを良く知らないのだ。

 クラスメイトらしいのだが、何故か彼女のことも記憶から飛んでいる。

 肩より少し長い銀色の髪、宝石を思わせるような藍色の大きな瞳、透けるような乳白色の肌は誰が見ても美少女なので、クラスで目立たないから記憶に残っていないということはないだろう。

 もしかしたらラブコメラノベのように彼女は学校一の美少女、と呼ばれているかもしれない。

 彼女も一応病院で検査を受け、かすり傷だけだったので入院することはなかった。

 ちなみに事故と彼女以外の記憶はきちんとある。


「キミに言われなくてもわかっている」

「私には白鷺雪奈しらさぎゆきなという名前があるんですから、キミって呼び方をしないでください」


 不満なようで、雪奈は頬を膨らますが可愛いだけだ。

 一応記憶がないことは言っているのだが、話を聞いた時の雪奈はとても悲しげな表情だった。


「そうか。毎日お見舞い来なくても大丈夫だぞ。お見舞い時間ギリギリまでいたら外は暗いし」


 いくら助けてくれたお礼にお見舞いに来てくれているからといっても、毎日来られたら惚れているんじゃないか、と勘違いしそうだから止めてほしい。

 お見舞いでいられるのは十九時までで、昨日と同様にギリギリまでいる可能性は充分にある。


「いえ、私の命の恩人ですし、手が治るまでお世話するべきです」


 責任感が強いのか、治るまできちんとお世話しないと気がすまない性格のようだ。

 命の恩人、と大袈裟に言っているが、恐らく健斗が助けなくても雪奈は死ぬことがなかっただろう。

 でも、助けた甲斐はあったようで、美少女に世話されるという特権がついてきた。

 クラスメイトなのだし、退院した後も学校で色々と助けてくれるだろう。


「それとも、私にお世話されるのは嫌、ですか?」

「嫌じゃない」


 少し涙がたまっている瞳に見つめられて即答した。

 温かい雪奈の両手が右手に添えられ、まるで自分が代わりにあなたの手になります、と言っているように思えてしまう。


「白鷺?」

「え? あ、すいません。怪我してる右手に触ってしまって」

「大丈夫」


 手を添えたのは無意識だったらしく、頬を真っ赤にした雪奈は急いで手を離す。

 ギプス越しであっても凄い温かく感じたのは気のせいではないだろう。


「あ、私飲み物買って来ますね。長瀬くんの分も買ってきます」


 恥ずかしがっている顔を見られたくないのか、雪奈は席を立ち病室から出ていった。

 この部屋に健斗以外の入院患者がいなかったことが幸いであり、いたら何か言われていたかもしれない。

 カーテンで仕切られているとはいえ、どんな話をしているかは筒抜けなのだから。


☆ ☆ ☆


「はい、あーん」


 病院の一階にある売店で飲み物や食べ物を買ってきた雪奈は、健斗の口元におにぎりを持ってきた。


「おにぎりは一人で食べれるぞ」


 箸を使わないといけない物であればともかく、おにぎりは左手でも食べることが出来る。

 一部記憶がないが、今まで食べさせてもらったことがないから少し恥ずかしい。

 しかも先程より雪奈が座っている椅子とベッドまでの距離が近く、彼女の吐息まで感じられそうだ。


「だめです。私にお世話させてください」


 絶対に譲らないらしく、雪奈がおにぎりを持っている手を引っ込めることはない。

 自分で食べれるから何がダメなのかわからないが、どうしてもお世話をしたいようだ。

 何を言っても無意味だと悟ったので、健斗の口元にあるおにぎりを食べていく。

 どこにでも売っているようなシーチキンのおにぎりであるが、いつもより美味しく感じたのは美少女にあーんってしてもらったからだろう。


「もっと食べてくださいね。あーん」


 おにぎりの他にもたまごサンドがあり、全部あーんってして食べさせるつもりらしい。

 嫌な気持ちはないが、やっぱり恥ずかしくはなる。


「何で俺にここまでしてくれる? 同じクラスといっても連絡先を知らないから仲が良かったとは思えないし」


 運良くスマホが壊れることがなかったために雪奈の名前が連絡先にあるか昨日確認したのだが、案の定名前はなかった。

 だから少なくとも一緒に遊びに行くような関係ではないということだ。

 でも、あーんってして食べさせてくれるところを見ると、あることが頭に浮かぶ。

 車に轢かれそうなとこを助けられたので、雪奈は健斗を好きになってしまったのではないか、と……。

 死ぬかもしれないのに助けられれば、相手のことを好きになっても不思議ではない。


「それはその……」


 雪奈は頬を赤くして言い淀んでいる。


「あ、わかった。俺たちはセフレの関係か?」


 まず違うと思うが、適当に言ってみた。

 雪奈の性格からしてセフレなんて作るわけないだろうし、触れ合っただけで頬を赤くしているところを見ると、恐らく彼女は交際経験もないだろう。

 だからこそ聞いてみて確かめたいと思った。

 本気で好きであるならば、雪奈はどんな関係でも健斗といたいと考えるだろう。

 好きであってもセフレの関係は嫌だという人もいるだろうが、別に違うと言われても問題はない。

 可愛いと思っていても、健斗は雪奈のことが好きではないのだから。

 セフレでも連絡先を交換していないのは変であるが、深く考えないようにする。


「そう、です。私たちはセフレの関係、です」


 惚れられていることを確信した瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る