第5話 highway star
『ああ~乱れ髪。愛しい女心の未練髪ー』
歌い終わるや否や、リトルはマイクを床に投げ捨てた。
ステージの周りには誰もいない。
しかし、たこ焼き屋と焼き鳥屋の周りには行列が出来ている。
リトルはそんな光景を見ながら歌うのが馬鹿らしくなっていた。
他のメンバー達も同様に、項垂れたり座り込んだりと、もはや閑古鳥ステージと化した空間にはカラスの糞が至る所に落ちていた。
葛城は慌ててリトルに駆け寄って言った。
「ちょっと、ファンの皆さんに申し訳ないでしょ!」
リトルは葛城に顔を近づけ。
「ああん!? 何処にファンがいるんだよ! いるのはゾンビばっかじゃねえか!」
と悪態をついた。
その時、アルタ前に真っ白なリムジンが停車するのが見えて、葛城はリトルに早口で伝えた。
「わかったわよ。とにかく、社長がお見えだから何でもいいから歌ってちょうだい!サファイアーズのチャンスなのよ!」
「なんでもいいのかよ!」
「好きにして!」
そう言い残して去って行く葛城の背中を見ながら、リトルはニヤリと笑みを浮かべて、ドラムのケントに目配せをして見せた。
ケントのドラムスティックが、スネアとトムを撫でるかのように優しく踊り始める。
ダイのベースの第4弦が、遥か遠くの雷鳴の如く木霊する。
YUKIの控え目なカッティング。スリーコードと戯れながらはにかんでいる。
Kの1弦と2弦の12フレットは滝の様に揺れ始めた。
アスカの指先がしなやかに鍵盤を滑り踊る。
バスドラが一定のリズムを刻み始める。
スリーコードのサイドギターにベースのテンポが絡み始める。
リードギターはリズミカルにしなやかに遊ぶ。
キーボード。そのコズミックノイズ。幾何学的に弾け飛ぶ。
ハイファットシンバル。
リトルのハイトーンシャウト。
ステージ周りの空気が止まる。
まるで異次元。
無関心だった野次馬達の目がステージへと注がれる。その瞳は観客の眼差しと変化する。
リトルが叫ぶ。
『AH~! 』
ハードロックバンド、サファイアーズのステージが今幕を開けた。
『highway star! yeah!』
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