第61話 急襲

 それからしばらく、俺たちは五人で町の散策を続けた。

 フール飴以外にも色々な物を買い食いしたり、娯楽を楽しんだりだ。


「えへへ。楽しいね、ブラン!」


 アイリスは小さな白い犬のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると、幸せそうに笑った。

 あの犬のぬいぐるみは、ブランという名前らしい。

 アイリスにとってはすごく大切なもののようで、こうして一緒に町を歩いていることがとても嬉しいみたいだ。


 ――だが、そんな楽しい時間は呆気なく終わりを告げることとなった。


 その爆音は、突如として鳴り響いた。


 ドォォォオオオオオオオオオオン!


「きゃあっ!」

「っ、なんだ!?」


 巨大な爆発音を聞き、アイリスが悲鳴を上げる。

 その横で俺たち四人は警戒を強めていた。


「今の音、あっちから聞こえたね」

「嫌な予感がする」

「――この気配はまさか! ご主人様!」

「何か気付いたのか?」


 中でもリーシアだけの反応が違った。

 彼女は透き通るような青色の瞳を俺に向ける。

 そして、桜色の唇を開こうとした次の瞬間、その声は木霊した。


「悪魔だ! 悪魔が出たぞぉ!」


 爆発音が鳴り響いたのと同じ方向から、男性の叫び声が聞こえてきた。

 僧侶プリーストであるリーシアは一早くそのことに気付いていたのだろう。

 俺を見つめたまま、こくりと頷いた。


 直後、遠く離れた場所から何かが空に向かって飛び上がる。

 その姿を俺は見たことがあった。


「――下級悪魔レッサーデーモン! なんでまたこんなところに……!」


 どうして再び悪魔がこの町に現れたのかは分からない。

 今、分かることはただ一つ。あの脅威を退けなければならないということだけ。


 しかし、絶望はさらに続く。


「逃げろ、皆! こっちにも悪魔がいる!」

「――――ッ!?」


 出現した下級悪魔は一体ではなかった。

 今、空に浮かんでいるものとは別にもう一体、出現したらしい。

 いったい何がどうなっている……!?


 本来ならば、今すぐ対処に当たりたいところだが……

 この中で悪魔を消滅させられるのは、神聖な魔力を扱えるリーシアだけ。

 それに――


「……お兄ちゃん。どうすればいいの?」

「……アイリス」


 ここには戦闘力を持たない少女がいる。

 そして俺は、リーンからアイリスのことを任されている。

 まずは彼女の安全を確保するのが優先だ。


 ――――仕方ない。

 俺はフレア、テトラ、リーシアの三人を見る。

 三人は既に俺を見つめ、指示を待っていた。


「フレアとテトラは、それぞれ一体ずつ下級悪魔の対処に当たってくれ。倒さずに時間を稼いでくれるだけでいい。リーシアは俺と一緒に、アイリスを安全なところまで連れていく。その後、二人と合流して下級悪魔を各個撃破する。いけるか?」

「うん、任せて、アイク!」

「わかった。がんばる」

「分かりましたわ。わたくしがご主人様とアイリスをお守りいたします!」


 力強く頷いてくれる三人を見て、とても頼もしく思った。


 そして俺たちは、それぞれの目的を達成するために動き始めるのだった。

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