第59話 みんなでお出かけ①
「お兄ちゃん!
こっちだよ、はやくはやく!」
「わかったから、そう急ぐなって」
手を引っ張られるまま、俺はつまづかないように気を付けて駆け出した。
目の前にいる少女は、とても嬉しそうに笑っている。
「ちょっと、私たちを置いていかないで~!」
「追いかける」
「まあ、楽しそうで何よりですわ」
そんな俺たちを見て、フレア、テトラ、リーシアが各々の反応をする。
トリア迷宮を攻略してから、三日後。
俺たち4人は、グレイス家の一人娘アイリス・グレイスとともに町を散策しているのだった。
――――
きっかけはそこまで大したことじゃない。
冒険者の町フィードに帰ってきた二日後、俺たちはグレイス宅にお邪魔し、トリア迷宮であった出来事をアイリスに話したのだ。
アイリスは目を輝かせながら俺たちの話を聞いてくれた。
そしてその話が終わった後、おもむろに呟いた。
『いいな……わたしも自由に外を冒険してみたい』
アイリスは貴族の子女であるため、自由に出歩くことは許されていない。
それを差し引いても、リーンが眠ってからのここ数年は家に引きこもり気味だったので、あまり外に出たことがないみたいだ。
『行っても構いませんよ』
リーンは、いとも容易くそう答えた。
『いいの、お母様!?』
『ええ、もちろんです。
親として子供の意思を尊重するのは当然です。
しかし、そうなると護衛が必要ですね。仕方ありません、ここは私が――』
『お母様! お父様からまだ出歩かないようにって言われてるでしょ! めっ!』
『……むぅ、アイリスに便乗して外に出かけるつもりが、うまくいきませんでしたか』
自分の狙いを見抜かれたかのように、リーンは肩を落とす。
『まったく、お母様ったら……
でも、護衛が必要なら、やっぱり出かけられないかも……』
『いえ、そんなことはありませんよ。
信頼できる実力者なら、すぐ近くにいるじゃありませんか』
『え? どこに――!』
そこで、アイリスとリーンは同じテーブルにいた俺たちに視線を向けた。
話の流れ的にこうなるんじゃないかと予測できていた俺は、小さく笑ってから尋ねる。
『アイリス、俺たちが護衛を申し出ても大丈夫か?』
『うん! ありがと、お兄ちゃん! えへへ』
その笑顔が見れることが、俺たちにとって何よりの報酬だった。
――――
とまあそんな経緯で、俺たちは5人で町を散策しているわけだ。
アイリスは窃盗などを受けないよう、平民に寄せた格好をしている。
しかし丁寧に手入れされた髪を含めて、正直あまり隠せている気はしない。
ちなみに、今日もいつものように白い犬のぬいぐるみを抱き締めている。
それがアイリスをより子供っぽく見せ、とても可愛らしい。
なんにせよ、ひとまずはアイリスが行きたがっているところに向かいたいんだが……
「わあっ、すごいねお兄ちゃん! 見て見て!」
こうして出歩いたことのないアイリスには全てが新鮮に映るのか、ことあるごとに立ち止まって目を輝かせている。
よし、こうなったら仕方ない。
「よし、アイリス。今日は楽しそうなところ、全部に行くぞ!」
「うんっ!」
アイリスは元気いっぱいに頷くのだった。
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