第2話 高血圧魔法士

部屋に吹き込む風は、彼が魔法で巻き起こしたのかと思うほど、静謐で澄み渡っていて無機質だった


いや、違う


これがマスタークラスの魔法士の加護なのだ、とテイトは感じた


心地よさに胸がいっぱいになる

懐かしく、暖かい、母の胎内にいるような、

そんな厳かな空気を台無しにしてているのが、当の魔法士である


「いやあ、もう寝てるだけってほんと大変ですね!どんな魔物討伐より骨が折れました!」


少女のような美貌の魔法士は、息つく暇もなくひたすら喋り続けている


「高血圧なんて、寝てたからって治るもんでもないですしね?遺伝病なところもあるし。わたし魔法士ですし?魔法士ならしょうがないというか?まあ、とりあえず、薬さえあれば動けるので」


睡蓮の花のような華奢な体で、文字通りベッドから跳ね起きると、詠法なしに壁に掛けてあったコートと帽子を引き寄せた


「メリーナさんから、あなたの話を聞いて居ても立ってもいられなくて、こうして来てもらいました。まあ、話を聞いたのは昨日なんですけどね。せっかち?よく言われます」


いつの間にかすべての装備を整えて、テイトに詰め寄った


「勇者テイト!長旅の間の話し相手になってください!きっと冒険も楽しくなります!」





「聞いてたんと違う…」

メリーナの宿に着くなり、テイトは食堂の机に突っ伏した


ネビルが、シーツを畳みながら相づちを打った


「とにかく耳が疲れる!たった5分で耳が疲れるなんて人生に一度だってありましたか?」


テイトがさめざめしく泣いていると、宿の案内を終えたメリーナと魔法士が帰ってきた


「へ~ここに来たときは別の勇者といたんだ?」

「はい!マーサさんが言うには、わたしを置いてそそくさといなくなってしまったと言うことですが…」



(その勇者も耳が疲れたんだよ)



「その点、うちの勇者は安心だよ!何せここから離れないから!」

メリーナがテイトを見てニヤッと笑った



テイト【たばかったな】

メリーナ【バカめ】



瞬時に目と目で交わされた会話である


メリーナとしては、魔法士がここに泊まってくれれば売上があがるし、何より大きな戦力となる


逆に魔法士に音を上げてテイトがいなくなれば、魔物に襲われることはなくなり、客が増える

どちらにしろ得しかないというわけだ



「ところで、名前を聞いてなかったね」


ネビルの横にメリーナが、テイトの横に魔法士が座る


「はい、わたしの名前はガーリエ・エクリプス。歳は15です」

「エクリプスって、あの魔法士連盟筆頭の名門…」


ネビルが唖然として呟いた


「入院するほどの高血圧、どんな魔法士かと思ったら、とんでもない魔法士引き寄せたな、テイト!」


メリーナが興奮してネビルの背中をドンドン叩いた

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