+2

 



「まず、お前に言っておくことがある」


 ――彼、楠ミツキが言う。



 英雄たちの凱旋が夜空を照らしていた。

 輪切りにされた山頂の向こうには満月がある。そして彼らの周囲には未だ微かに赤熱するドローン群の亡骸たち。だけれど、それよりもなお眩く彼らはそこにあった。



 静かに、静かに。


 周囲ドローンの融解体が熱を失うとともに、広大な空間に夜が満ちて、月の帳が降りて、



 ――彼らの『光』が、浮き彫りになる。






「言っておくことってのはこれだ。――起動:スターゲイザー」





 言うと共に、世界の停止・・・・・


 何もかもが「動くという概念を失った世界」にて、彼はゆったりとパーソナリティに接近し、



。……俺はこっちで観戦しておくが、俺には手を出すなよ? 手を出したらお前のゲームオーバーだ」



 言いながら彼は、どこかからシェーカーとカクテルグラスを取り出し、手ごろな瓦礫の一つに腰かけてから酒をグラスに注いだ。



「俺にとってもお前は仇だが、その辺は鹿住たちと話が付いてるんだ。そもそも敵討ちなんて馬鹿らしい、……なんてことはこの場じゃ・・・・・口が裂けても言えないな。……言い変えておくぞ。俺もお前をぶん殴りたいが、もっとお前をぶん殴りたい奴がいるらしい。――解除。もう動けるな?」


『……、……』



 返答はないが、パーソナリティの挙動が雄弁に答えを返していた。


 行動権の復帰・・・・・・を確かめるようにパーソナリティが震える。鉄の四肢で地面を踏み鳴らし、胴体を挙げて、下げて、――そして前傾を取る。恐らくはあれが、パーソナリティの戦闘姿勢なのだろう。



『発言。当機ハ個体、クスノキミツキ ヘノ 干渉行為ヲ一度放棄シマス』


「素直だな、いい子じゃないか。どう思う、ウォルガン?」




「……それを俺に聞くのか。相変わらずお前は毒気の無い顔で毒を吐くよな」




 楠が問い、ウォルガンが応え、

 ――一歩、この戦場という舞台のド真ん中へと躍り出た。



「流れは、分かってくれたかな? 一度殺した相手ではつまらないかもしれないが、付き合ってもらうぞパーソナリティ」



『……、……』



「多勢に無勢というなら、あの夥しい数のドローンを出してき給え。それでも君はあくまで一機・・なんだろうが、頭数でも手足の数でも戦力が増える点で区別はあるまい?」



『……破壊済ミ個体ヲ確認。――提唱。既存ノ殲滅プランデ再度ノ殲滅ガ可能デアルト予測シマス』



「そうか、好きにしろ」


『……、……』









『使用:スキル:威圧〈対支配種-EX〉。

 …………――――――――ッ!!!!!!!!』








 ――それは、過日ウォルガン・アキンソン部隊を、そしてバスコ公国全ての人民の気を狂わせた悲鳴である。


 鎖を幾千こすり合わせたような絶叫。パーソナリティに声帯はあるまいが、それでもその『声』には、身を裂き焦がすような感情が満ちている。ヒトの、ありとあらゆる悪感情を逆なでにするような悲鳴だ。それに相対し、雄姿は――





五月蠅い・・・・――――――ッ!!!!!」





 更なる咆哮で、これを掻き消した。




『……。……状況不明。状況不明。状況不明』


知るか・・・。それより、ルール説明だ。よく聞け。




 ――今から俺たち一人一人がお前に再戦を申し込む。貴様は、それを受けろ。まずは、誰からにしようか?」














 /break.











「僕が行こう」



 まず、部隊の中では頭一つ小柄な人物が名乗りを上げた。



「こういうのは、早く済ませるに限る」


『……、……』



 名乗りを上げた彼は、名をウルフ・ハッジュという。

 為した英雄譚物語は下剋上。彼は出身国にて、亜人の地位を目覚ましく発展させ人権を獲得させた。



「名乗りはいらないな? お前、あの日も品のない奇襲で名乗りもしなかったもんな?」


『再使用:スキル:威圧〈対支配種-EX〉――!』



「――さっそくの悪手をありがとう。

 起動:特殊召喚魔術第二層ひとをしてけものとす



 ――ゆらり・・・、と、

 彼の身体にもやが灯る。それは無色透明の炎のように質量を得て、彼の立つコンクリの地面が音を立てて陥没する。



『情報更新。威圧スキルヲ 殲滅プランカラ デリート。……プラン ノ 再構築ヲ開始シマス。全ドローンニ通達。対象ノ観察ヲ開始シテクダサイ』


それ・・で、間に合うと思ってるわけだ。腹が立つ。……ああ、腹が立つな。お前、?」



『……、……』


「回避に徹してオレを分析するんだろ? だったら全力で避けてくれ。当たっても、……血飛沫がないん、――!!!!!!」



 突如としての狂笑、――が置き去りとなる。

 残像さえない。殆ど瞬間移動じみた接近で以って彼はパーソナリティに肉薄する。それを、「移動である」と把握できたのは、彼の一撃がその圧倒的速度の慣性を残すものであったからだ。


 いや、あれはもはや攻撃ではない。なにせ彼は、その超加速をわざわざ殺してでも足を止めて、そしてパーソナリティの前足の一本を掴み上げただけなのだから。





「挑戦しようぜお前の限界に! まずは一問目! お前とコンクリッ、どっちが固い!?」





 彼がした行動自体は、俺が先の部屋で犬のドローンにしたのと同様だ。

 掴み、持ち上げ、振り回して叩きつける。しかし、その桁が違う。


 俺があの犬を棒のように振り回したのだとすれば、彼は、パーソナリティを紐のように・・・・・振り回している。一度彼がパーソナリティを地面に叩きつければ、その衝撃は大気を揺らし風を起こす。それでも止まらずパーソナリティの身体は、玩具にもならぬ貧弱な何かのように虚空に残像でサークルを作る。



「ぶはははは! ぶはは! ぶっはははははははははははははははははは!!!」



 本気でそれが愉快だとでも言うように、彼はただすら奔放に笑う。小さな体躯もあって、その姿は殆ど童子のそれだ。――或いは、童子オニの。


 しかし、




「はははッ、

 ………………。今、ばきっ・・・て言ったな」




 唐突に笑い声が止まり、その代わりにそんな、小さな呟きが聞こえた。そして彼は、




「仕方ない。――俺は今、お前を壊した。これで決着だ。お前、使。鍛錬が足りていないんじゃないのか。……まあ。じゃあ気張れよな、後が待ってるんだ」




 ぽい、と擬音が聞こえてきそうなほど適当に彼はパーソナリティの身体を放り投げて、そしてそちらに背を向けた。




『……ジジ、……ジ』


「――では、次は私です。ウルフは名乗りをしませんでしたが、これは神聖な試合・・と考えておりますので私は名乗りを。カルネス・メイバーです。これは試合ですので、降参は両手を挙げての降伏でどうぞ。しかし、……あなたには、そういえば斬首で以って殺さたのでしたね」




 あの日の屈辱は、熨斗のしを付けて差し上げます。と、彼は、……過日その知略で以って全知全能とのゲームに打ち勝った男は哂い、



 ――そしてたった42秒でパーソナリティに両手を挙げて跪かせて、そして更に89秒の爆音を経て後、彼は次の有志にバトンタッチした。










……………………

………………

…………











 ……という光景を眺めているのが、はてさて俺こと鹿住ハルであった。



「いやあひっさしぶりだなエイル。それにリベットも。元気してた?」


「私は死んでたよ。元気ではないかな」


「い、いやこの状況は何なんですか!? あれリベット生きてる? ちょ、触ってもいいですか実体はありますか!?」


「もうさわってるじゃんか……(頬を引っ張られて喋りずらそうにしながら)」



 場所は地下空間の戦線一歩後ろ。

 俺は観戦に手ごろな凹凸を適当に見繕い、そちらに彼女らを誘って、



「これ、いいトコのカクテルなんだけど。良かったらどう?」


「カ、カクテルですって……?」



 ミツキと同じようにして、二人にカクテルを用意した。



「あなた私が必死こいてアンタの事探してる時に呑気に酒盛りしてたんですか!? 恥を知りなさい!」


「いや、飲み始めたのは今さっきだよ。リベットは?」


「もらおう(エイルに身体を触られながら)」


「いや、いいえ待ってくださいあなたには説明責任があります! ウォルガン・アキンソン部隊もクスノキミツキもリベットも、どうしてここにいるんですか!? というかウォルガンさんたち! !?」



 彼女の言う通り、戦況はあまりにもウォルガン部隊に一方的に傾いていた。


 十余名の部隊員に見守られながらの戦闘タイマン。ドローンの群れを呼ばれていないのもあるのかもしれないが、はっきり言ってパーソナリティに勝ち目があるとは思えない光景である。



「……今戦ってるのは、エストールさんか?」


「あ、ご、ご存じでしたか……。エストール・ハビット、我が国の騎士でありながら他国の前王でもある御仁です。使う剣術はハビット王流。古くは御留とされた剛剣です。彼が英雄として人民の前で戦うことを決めた時に、その秘匿は広く解かれることになった」


「あ、勝った」


「決まり手は『雲鷹』ですね。剣術なんてもんじゃない、ただの一手必殺のバク転斬りです。しかしあの人もよく寸止めなんかできるな、空中で一回止まりましたよね刃を止めるために。……じゃなくて!」



 リベットとくんずほぐれつしながら、エイルは俺に剣幕を向ける。



「いやっ……/// ちょ、ちょっとどこ触ってんのっ!(エイルに太もものきわどいところをまさぐられながら)」


「やわらかい。あたたかい。感じてて可愛い。(局部だけまだ幽霊かもしれないじゃないですか触って確かめて差し上げますね!)」


「せめてまともな建前を用意してから本音と逆にしろォ!」



 すぱこーんと快音が響いてエイルが5メートルほど吹っ飛ぶ。マジか。



「……リベットさん、エイル死んじゃうんじゃね?」


「私の局部にはそれだけの価値があると知れッ! 人の命一つ分だ!」


「残念でしたねリベット私の奥歯にはまだ世界樹の葉っぱが残されているのです一度死んだところで私の毒牙から逃れることは出来ませんからね!」


「安心して殺せるんだね殺すね!!」


「やめろやめろやめろォ!! 分かったよエイルこの状況を説明してやるから一旦まともになれ馬鹿!」


「いやだ私が今一番欲しいのは情報じゃなくてリベットの絶頂ですッ!!」


「うわこいつ……っ! いったん死にかけてわけわからん状況に放り込まれてハイになってやがる! リベット! いったん殺せ!」


「分かったわ!」


「ぐっへへへへェ!!!(写真撮って後で見せてあげたい顔をしながら)」



 ってことで閑話休題。



「わたしは しょうきに もどった!」


「全く信用なんない」



 エイルにはその辺にいたクモをけしかけて賢者タイムになってもらってのち、改めて状況説明のターンである。



「……それでハル、それにリベットも。この状況はどういう……?」


「その前にエイル。そこ、肩にまだ蜘蛛いるぞ」


「えっひゃァアアアアアアアアアアア!!? 取って取って取って!!!!」


「うっそでーすwwwww」


「殺すゥ!!!!!!!!!!」



 ……マジで閑話休題。



「説明するか本当に死ぬかの二択だ。選べボケ」


「エ、エイルさん? 敬語抜けてますよー……?」


「二択だと言ったよな? 本当に殺すね」


「いや待て! あの! この状況は俺のスキルによるものだ!! エイルも知ってる俺の三つ目のスキル! アレがなんかしてこうなったんだよ!!」



 そう。この状況は全て、どうやら俺の三つ目のスキルによってもたらされたものであるらしい。


『結界〈酒‐EX〉』改め、

 ――『マスター・オブ・ザ・バー・ヴァルハラ〈EX〉』。


 これによって俺は、いつでも好きな時に、最高のロケーションで酒を飲むことが出来るのだとか。



「当然、誰かと酒が飲みたいと思ったらそいつを誘うこともできる。来るかはそいつ次第だが、そいつの生き死には関係がないらしい。……と言っても制約はあるみたいなんだが」


「制約?」


「強制は出来ない。それから、そいつと本当に酒を飲みたいと思ってないと呼べない。……バーは仕事をしに来る場所じゃないからな、仕事の用事・・・・・で人は呼べないらしい」



 というのはあくまでも俺の偏見で、バーで商談をする人間もいるのかもしれないが、ひとまず。


 俺が友愛を感じた相手でなければ呼べない、というのがこのスキルの数少ない制約の一つらしい。確かに俺は、前世から見てもバーを聖域と捉えて、仕事と敵は持ち込まないことを固く決めていた。



「なんですかそれは……。つまりあなたは、……友人であればいくらでもが出来るということですか?」


「そうなるな。老衰は分からんが」




「……馬鹿げてる。異邦者の悪ふざけチートっていうのは、そんなことまで……」


「…………。」




 エイルの表情に浮かんだのは、焦燥に近い感情であるように見えた。

 しかし、それが妥当だろう。「友人のみを蘇生できる能力」など、持っている俺でも手放したいほどに分かりやすく厄介・・・・・・・・だ。しかし……、





「……、」



「やることはこれまでも変わらないだろ? 死んではいけない。そのままだ。この奇跡は、一回こっきりってことにしよう」


「で、でも……」


「俺は、……まあ、こういうのは一回しか言わないけど。――リベットとか他の連中と、再会できてよかったと思ってる。まだ乾杯がし足りなかったんだ。出来ないよりは、心行くまで出来た方が良いだろ?」


「……、……」



 呆然としたようすのエイルを、リベットが心配そうに肩に触れた。


 ……そうだよな、そういえばこうだった。

 こいつらはこんな感じだったんだよな。少しだけ、短い間だけ変になっちまってただけで。


 きっと彼女らはこのあと、――面白いことを言うはずである。

 二人のそういうユーモアに、俺は惚れ込んだんだから。



「エ、エイル……」


「リベット。あの、私は……。あなたと再会できたのが、嫌だったなんて言うつもりは無くて……」


「――おっぱい触る?」


「触ります。――復☆活! ラッキーはラッキー! 受け入れていきましょう!」


「すげえんだなぁおっぱいって!」



 いや知ってたけどね。おっぱいは偉大。

 ……あとリベットはそういうやり方でエイルを制御したら多分絶対だめだと思う。なんというかこうリリカルな意味で。



「……いいえ、良いのよハル。なんだか私、エイルならいいかなって思えたの、それに……」


「(続きがすごく聞きたくない)」


「なんだか昔を吹っ切れたら、……私の身体でヒトがダメになるのを見ると、ちょっとだけ――」


「オーケー話を変えようか。まぁそんなわけで俺の出会ってきた英雄が総復活でおめでたい訳だ乾杯」



 ――こちん、と良い音が三つ鳴る。

 なんだかんだどんな状況でも酒は飲む、たくましい奴らである。



「そんでもって、――この長かったダンジョン攻略も佳境の佳境だ。エイルもリベットも積もる話はあるだろうが……」





「――ああ。今終わったところだ、ハル。……どうだ? 我々は、名誉の挽回を出来ただろうか?」





 十分だ、と俺は、歩み寄るウォルガンに答える。


 ――更に向こうを見れば、

 隊員の一人がパーソナリティに切っ先を向け見下ろす様と、それに首を垂れるようにしているパーソナリティが見えた。



「全隊員、再挑戦の花を無事飾り終えた。きっかり人数分、ヤツに敗北を刻み込んだ」


「あ、ウォルガンさん! あの本当に私も積もる話ばかりなんですがっ、ど、どうして皆さんはパーソナリティを圧倒出来たんでしょう……、それが、どうしても気になってっ」



 聞いたのはエイルである。思えば彼女も、パーソナリティの「威圧」によって一度は意思を挫いた身だ。あのスキルの威力は身を持って知っているのだろう。しかしながら、その返答は、



「考えれば分かることだ。何せアイツは、自分の作戦を何でもかんでも口に出すだろう?」


「え、……ええっと?」


「さあ、答えは何だろうな? ?」



 と、彼は俺とリベットに向かって笑いかける。


 そういえばウォルガンって、騎士学校ではエイルの先生(師匠?)をしていたことがあるなんて聞ってたっけ。

 ……教師・・として威風堂々としている彼の姿には、俺はほんの少しだけの嫉妬を思いつつ、



「いたわ、そんな先コー」



 その嫉妬もまた心地よく、俺は彼にそのように返した。



「では、さてと。そういうわけで私たちの手番は終わりで良いが、君はどうする?」


「?」



 ジョークを言う表情はしまい込んで、ウォルガンが俺にそのように問う。



「どう、とは?」


「君だってアレに負けた口だろう? それにエイルもだ。……再戦を、しておくべきではないか」


「……、……」



 少し、言葉に迷う。


 はっきり言えば、俺にとって敗北は屈辱ではない。更に加えて言うなら、再戦したって勝ちの目があるとも思えない。


 しかし、そこでエイルが言う。



「私は、是非とも。……この局面はヤツの業が作ったものでこそありますが、弱い者いじめのようでもあって気持ちが良くない。どうでしょう、ハル――」


「……、」



「私たちに勝利できたなら、アレは敢えて取り逃がす。などというのは?」



「……馬鹿な。何言ってんだ」


「今この場は、あなたの宿命の清算のためにあるが、それだけではない。アレもまた、この場で宿命を清算しているんです」



 言って彼女は、視線でパーソナリティを指した。


 そこに見えたのは、あの強大な黒い繭が平伏する姿。確かにアレを、過去のツケが回った結果と言わずにどうする。


 ああ、――本当に、情けない姿である。


 あんなものが俺の旅路の帰結であり、求めたものか?

 そんなはずはあるまい。俺はこの清算を終えた果てに、もっと爽快たる感情を得なければならないはずだ。



「……、」


「あなたは何度も言ったはずだ。これが宿命の清算・・・・・だと。復讐でも、何かの尻ぬぐいでもなく。それなら、ハル。あなたはこの決戦を経て、抱え込んだやぼったい荷物を空にするべきだ。全ての縁はこれにて一区切り。過去はおしまいで、ここからは未来のお話です。……その先にアレが再び人類に仇為すなら、その時は私、冒険者エイルにご用命を。あなたが願うなら私は、必ず、今日のこの決断を後悔させることはない。アレが平和の一片にでも触れる前に、私が今度こそアレを討伐してみせる」




「……変わったな、エイルは」


「ええ。良い騎士になったものでしょう?」




 彼女の、ソラのような笑顔に、俺も口端をあげて応える。



「良いよ、やろう。俺も手を貸す。……殺しまくってきたアイツに最大限の譲歩を用意するんだ、二対一くらい飲み込んでもらわないとな」


「では」


「ああ。――これで、この物語ハナシは今度こそおしまいにしようか。いい加減、あんな小物をラスボスにしたままじゃ飽きが来る。今ここで、全部終わらせよう」



 俺は彼女にそう言って、

 ――そして立ち上がり、グラスは置いて、パーソナリティへの一歩をまずは踏み出した。
















 ../break.

















「よう」


『……、』




 再び、相対峙す。


 状況も、うわべだけ見ればほとんど変わらない。先ほどのウォルガンらによる再戦は徹底的な寸止めで行われたものであり、アレが失ったのは、目には見えない尊厳ただ一つ。


 対する俺も、このダンジョンを攻略する中で蓄積された汚れに服を埃っぽくしたままで、立つ場所も、なんの合縁か先ほどの通りの位置。



 違うのは、

 ――俺の後ろにエイルがいること。ただそれだけであった。




「こっちの話は聞いてたか?」


『……、』



「じゃあ、そう言うことだ。お互い、勝っても負けても縁はこれっきり。明日からはお互いまっさらで、生まれ変わったつもりでさ、この異世界を楽しんで行こうぜ。――なあ?」



 ――強襲。



 俺の言葉尻を待たず、パーソナリティが跳躍一つで俺との距離をゼロまで縮める、

 ――その直前に・・・・・






「では、これを再戦の報せとしましょうか――ッ!!」






 エイルが巨大な剣を地面から隆起させて、パーソナリティの身体のド真ん中にブチ込んだ!




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