Epilogue.
「……っていう感じで俺は、無事にこの国に入国したんだ」
「長い! イントロ部分が長すぎる! 見なさい外を! ほら! 暗いよ!」
さて、そんなわけで時刻は今に戻る。
……ちなみに先ほどの尋問室では、俺は驚くほどあっさり解放された。
お偉いさんらしい美少女ことレオリア・ストラトス曰く「対外国のビップであれば保証人としては最上級」とのこと。
出るにあたっての手続きの待ち時間なども皆無であって、俺たちはあのままストレートに施設を出ることになった。
……という経緯で以って、
俺たちは今、とあるバルにお邪魔していた。
「ふう、道理で喋り疲れる訳だ」
「聞いてるこっちはもっと辛いんですケドねー……」
倦怠感漂う店内は、概ねシックなモノトーン調である。
それを飾るのは、暗くなり始めた街並みを映す窓と、各所の観葉植物だ。
椅子やテーブルなどは、薄くスマートな造りのもので、全体的に垢抜けた印象がある感じ。
「……もうコーヒーも冷えっ冷えになってますね。私が頼んだのはアイスコーヒーでしたかね」
「まあほら、区切りにはちょうどいいじゃん? それ飲んで別の頼んだら?」
「……わーそうだ。これでイントロですもんね。本題はここからなんだったぜぇ……」
本題、つまりは俺が拘留されるまでの出来事である。
彼女は、冷えたコーヒーをこくこく飲みつつ。
「ちなみに、もう少し簡潔にはならないんですか? これじゃあなたが『サクラダカイ』との関与を疑われた経緯まで、どれだけかかるか分かったもんじゃないですケド」
「うん? そりゃアレだ。悪酔いしてどっかの酒場で『俺がサクラダカイだ』っつってお店に迷惑かけて連行されたの」
「……ば、馬鹿な! 本題が一言で済んだ! マジでここまでの時間は何だったんですかしょうもねえ! お会計! お会計だ!」
「待て待てまだ店出ないから。……だってほら、一応さっきの話で『北の魔王』も出しただろ? この国の紛争間際って状況で、向こうが先に動いてきたわけだ。そっち的にはほっとくわけにもいかないんじゃねえの?」
「……まあ、確かにヤバい話ですけどね。何なら『私の仕事』ド真ん中って線も濃厚です」
「『仕事』? 何の話だ?」
「……いえ、こちらの事情は一旦後に回します。あなたに聞いてほしいことは一つあるんですけれど、少し複雑な話題になると思うので」
「? そうか? まあそしたら、一旦こっちの話だけ纏めちゃうけど」
「それでお願いします。……あー、それから」
せっかくですから、食事にでもしますか? と、彼女が俺にメニューを渡してくる。
「経費で落ちんの?」
「貴族の私に支払い待ち土下座させるレベルの成金が何言ってんですかね。まあ、ストラトス氏にツケとけばいいんじゃないですか?」
……そっちもそっちで結構なこと言ってんな。とは思っても口に出さないことにしておく。
なにはともあれタダ飯だ。俺はメニューから適当なものを二、三見繕って、
「すみませーん」
と、片手を挙げて店内を見渡す。
ぱっと見、店内は空いている方である。テーブルがいくつか埋まっていて、あとはカウンターに座る、少女らしいシルエットの小さな後ろ姿があるくらいだろうか。
……まあでも、コーヒーの味を見る限り、食事の方が大外れって展開は無いだろう。
出てきたスタッフ(妙に厳ついルックス)に、俺はオーダーを済ませて、
「じゃあ、続きの話な」
「……、……」
「飛空艇を飛び降りて、この国に入国してから、俺がお上に捕まるまでの話だ。……まあ、こっからはエピローグみたいなもんだからさ、リラックスして聞いてくれよ」
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