intercept.



 ――バスコ共和国東端の、とある海岸線にて。



「……、……」



『彼女』は、

 その遠話スクロールから垂れ流される音声に、溜息を一つ打つ。




『やあやあ我こそは「北の魔王」が参謀の一人、名を「苛烈のベリオ」と言う! 控えおろう矮小なる人間諸君ッ!』


『……あっ、えーっと。そして私が『理性のフォッサ』だぜ! 誰も生きては返さないぜ!』




、しかしそう名乗る。


 彼女はそれを聞き、再三の溜息を吐き出す。



「(なにが、どうなっているのかは分からないけど……)」




 海岸線を、

 ――雨が打っていた。

 


 灰色の空が、地平まで続いている。

 彼女の被る「歪な形」のフードを、生ぬるい風が時折撫ぜる。



 ――それは、なつあめであった。

 肌の輪郭を曖昧にする空気。湿気が不可視のまま肌に張り付き、しかし克明に、不快感へと形を変える。



「(――何がどうなっているのかは分からないけれど)」

『彼女』は思う。








「(でも、きっと。)


 ……そろそろ、出番かもね」







『彼女』、――「理性のフォッサ」はそう呟く。


 フードを脱ぐと、亜麻色の髪と黒曜の巻き角が露わとなる。

 彼女の「名」を表すような、静謐の月の色をした瞳が、鈍色の空を射抜く。


 標的は、




 ――今はまだ、あの雲の上にいる。




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