第5話浄化ってどうやるんだろう。
私たちは王宮の中でとりわけ広い、賓客の間というところに通された。
高貴さと豪華さを醸し出された黄金の壁面や装飾に呆気に囚われた。右や左、上や下を見ても金金金。目がチカチカする。すごいな、美術館みたい。
私はパシャパシャと写真を撮った。
いつもならもっとテンション上げながら撮るところだが、どうにも気分が乗らない。やっぱり、どんなにいい写真を撮ってもSNSにアップできないという事実は思いのほかダメージが効いているんだろうな。私は自分のスマホをじっと見つめる。
「やっぱり、圏外。ネットに繋がらない」
私はベッドに倒れ込んだ。
ベッドもすごい。すっごいふかふか。それに広い。私ら双子で大の字で寝てもまだ余るくらい大きなベッド。こんなベッド、高級ホテルのスイートルームでだってお目に掛かれていない。
「ほんとに異世界に来たんだね。しかも私ら聖女だってさ。まさかこんなファンタジックな目に遭うなんて信じらんないわ。ねぇ夏芽?」
私は同じベッドにいる夏芽に目をやった。
「ありゃりゃ」
夏芽は眠そうに瞼を閉じながら体をゆらゆらと揺らしていた。
少し押したらそのまま、倒れそうなほど。
無理もないか。こっちの世界では深夜十時過ぎらしいかなねぇ。
ほんと不思議な話だよなぁ。こっちに召喚させられた時あっちでは朝だったのに、こっちでは夜なんだから。
おかしな点はもう一つある。スマホの表示画面の時計がトリップさせられる直前で止まっていることだ。再起動してもやっぱり動かない。そしてなぜか、ずっと写真を何十枚を撮っているにもかかわらず、バッテリーがまったく減らない。
たぶん、異世界独特の次元の力とか魔法の力が働いているんだろうな。
そこらへんは深くは考えないほうがいいかも。頭こんがらがるから。
私にとってはスマホが使えるか使えないかがすべて。
「さてと、私らどうなんだろうね」
今、王座の間では緊急会議が開かれている。私ら双子聖女の処遇ついて。
王命と言えど、国の定めを簡単には覆すことはできないらしい。
瘴気が国中に蔓延すれば、
いやはや、聞けば聞くほど不愉快な定めだな。私らの迷惑とか一切考慮に入れていない定めなんだから。数百年続いてきた国の風習だか何だか知らないけど、私らからすればそんな瘴気とかの話を聞かされても「知らねーよ」って感じ。それにあいつら、勝手に呼び出して悪いと言っている割には、心の底からは悪いとは思ってなさそうだし。
夏芽がブチ切れて王子のアレを蹴り上げんのもわかるわ。夏芽が蹴り上げてなかったら、私が蹴り上げていたかも。
ここに通されてけっこう経つ。たぶん、王座の間では激しい論争が繰り広げられてるんだろうな。
前代未聞らしいからね。召喚した聖女が大司教をぶっ飛ばし、王子のアレを蹴り上げるなんて。
そんな聖女が浄化も何もさせずに還すか否かの話し合いも前代未聞だろうから、時間もけっこうかかるんだろうな。私の予想だと明日の朝までかかるはず。
目に浮かぶなぁ、どんな会議をしているのか。
『あんな聖女一刻も早く還すべきだ。帰還させて違う聖女を召喚しよう』
『あんな性悪な双子、聖女であるはずがない』
『何かの間違いだ』
『だが、神官達の魔力をふんだんに使い果たしてようやく召喚した双子だ。聖女であることは間違いないはずだ』
『聖女を浄化も何もさせずに帰還させるなんて、神の逆鱗に触れるのではないか』
『なんとかして双子を言いくるめて、利用できないか』
だいたいこんな感じでしょ。
でも、よかったよ。こういう話し合いがあるということはちゃんと元の世界に還る方法もあるということだから。もし、ないなんて言われたら私も夏芽と一緒にぷっつんとなっていたと思う。
「それにしても私ら双子が聖女ねぇ。ははっ、似合わないし」
喧嘩三昧の私らが聖女なんて笑えるネタだわ。
聖女ってあれでしょ?誰にでも優しくて誰にでも平等に接する、言うなれば偽善者のことでしょ?
私らは偽善なんてクソ喰らえって毎日思いながら生きてる。はっきり言って聖女なんて大層なもの務まらないと思うし、務めたいなんて思えない。
そういえば、私たちを呼び寄せた理由は瘴気を浄化させるためだって言ってたな。
浄化ってどうやるんだろう。
手から何か出すの?出せるの?手からビームとか?
私は寝っ転がりながら手を掲げる。
「むむむ、何か出ろ何か出ろ何か出ろ」
予想はしていたが何も出ない。何かが沸き上がるような特別な感覚も一切ない。
マジでそういう魔法的な何かができるのかな。
実際にそういう瘴気とかを目の当たりにすれば、わかるのかな?
この国がどうなろうが別に知ったこっちゃないが、魔法には興味があるかも。
日本に還る前に一回くらいは魔法を使ってみたいかな。
私はぐいっと体を伸ばす。
今日はもう寝よっかな。なんだか、眠くなってきた。
いつのまにか夏芽もベッドに倒れているし。明日のことは明日考えよう。
私は寝に就こうと目を瞑った。
その時だった。
「聖女さま!大変です!!来ていただけませんか!?」
ドアを勢いよく開けたメイドが開口一番に叫んだ
「は?何?」
「瘴気が!モンスターが!」
「さっそくかい」
今さっき、魔法とかを使える機会があればと思ったばかりだった。
異世界ってマジでご都合主義のオンパレードなんだね。
「モンスターねぇ………」
「お願いします!」
「いいよ」
「お願い………え?」
「だからいいって言ったの」
メイドはてっきり私が浄化を渋ると思ったんだろう。
ぽかんと口を開けている
「私だけでいいかな?夏芽はもう寝ちゃったからさ」
私は起き上がりながら夏芽の様子を窺った。騒ぎが一切に耳に入っていないようで、寝息まで立てている。この状態の夏芽を起こすのはちょっとおすすめしない。起こした相手の顔がつぶれる未来が予想できる。
「と、とりあえず来てください」
「場所は?」
「王座の間です」
「ああ、さっきの」
私はスマホを握り締めながら部屋を出た。
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