覚醒せし者
『……素質を覚醒せし者よ。よくぞ、参られました』
心を震わす女性の声が頭の中に直接響いた。
――?
素質を覚醒せし者……?
ここはどこだ?
周囲を確認しようとするが……何も認識出来ない。
俺の身に何が起きた?
視覚、聴覚、嗅覚、触覚――全ての感覚が正常に作用していない。唯一認識出来るのは、頭の中に直接響く声のみ。
『ここは理の外にある空間。貴方は不慮の事故に巻き込まれました。しかし、貴方は素質を覚醒せし者と示しました』
頭の中に直接響く声の主が、俺の疑問に答えた……?
『理の外にある空間』、『不慮の事故に巻き込まれた』、『素質を覚醒せし者』――重要と思われる言葉を抜き出して整理しようとするが、情報量が圧倒的に不足している。
声の主は疑問に何でも答えてくれるのか?
俺は一番気になる言葉を問いかけることにした。
『不慮の事故に巻き込まれた』とは、どういう――
『素質を覚醒せし者よ。この空間を維持する時間は残り僅かです。素質を覚醒せし者と示した貴方に、使命に立ち向かう力を授けます』
声の主は俺の思考を遮り、新たな言葉を頭に直接響かせる。
『素質を覚醒せし者――春人よ! 使命に立ち向かう為の【適性】と【特性】を選びなさい――』
【適性】と【特性】……?
――!?
頭の中に鮮明なイメージ――二枚の巨大な石版が表示される。
左の石版には――
『戦士、剣士、騎士、魔法使い、僧侶、盗賊……槍術士……魔法剣士……侍……海賊……山賊……学者……賢者……錬金術士……忍者……踊り子……農民……料理人……鍛冶職人……建築士……暗黒騎士……竜騎士……勇者』
その数は軽く100を超えており、中には【農民】や【建築士】と言う奇抜な適性もあれば、【竜騎士】や【暗黒騎士】と言う上級職だろ? と思われる名称までもがごっちゃ混ぜに表示されていた。
右の石版には――
『力の才、耐久の才、速さの才、魔力の才、強運、炎属性の才、水属性の才……時の才……剣の才……斧の才……糸の才……鉄の才……鑑定の才……鍛冶の才……建築の才……農耕の才……運搬の才……創造の才……隠密の才……』
こちらもやはり100を軽く超えており、全てが○○の才で統一されていた。
左の職業っぽいのが【適性】で、右の才能っぽいのが【特性】なのか……?
選びなさい、と言われても……選択肢が多すぎないか?
今、俺の置かれている状況が馬渕の言うクラス転移なら……この選択肢はこれからの未来を大きく左右するだろう。
さらに、気になる要素も一つある。
左の石版、右の石版共に3つの【適性】と【特性】がグレーアウトしていた。
グレーアウトしている【適性】と【特性】は選べないとか?
『素質を覚醒せし者――春人よ。貴方に残された時間は60秒です。試練に立ち向かう為の【適性】と【特性】を強く念じて下さい』
――!?
は? 60秒とかあり得ないだろ! 時間制限があるなら先に言えよ! しかも、60秒とか短か過ぎるだろ!!
どうする? どうする? どうする?
60秒では100を超える全ての【適性】と【特性】を確認するのも不可能な時間だ。
だぁぁああ! クソっ!
――【勇者】!
俺は石版に表示されていた中から気になった【適性】――グレーアウトしていた【適性】を念じた。
『その【適性】は、すでに他の覚醒せし者に授けられております。別の【適性】を選択して下さい』
――!?
グレーアウトはすでに他の者が選択した【適性】なのか?
選べないなら、石版から削り取れよ! 損した気分になるだろうが!
考えろ……イメージしろ……。
事実其の一。
朝礼の最中に謎の光に包まれた。
仮説其の一。
俺はクラスメイトと共に異世界に転移した。
事実其の二。
クラスメイトと見知らぬ森の中で倒れていた。
事実其の三。
ゴブリン(仮)に襲われた。
仮説其の二。
ゴブリン(仮)を倒したから、ここに移動した。
つまり、ゴブリン(仮)を倒したことで素質を覚醒せし者と示したことに……って、今は時間がない。考察は後回しだ!
これらの事実と仮説から……今後、自分の身に降りかかる状況を予測する。
王道のパターンで行けば……敵との戦闘だよな? 今のところ味方となるのはクラスメイト?
そうなると……
『残り時間は5秒です』
――!?
だぁぁああ! クソっ!!
――【魔法剣士】、【鑑定の才】!
熟考する時間も与えられぬまま、俺は【適性】と【特性】を選択したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます