勇者召喚に巻き込まれたクラスメイトたちは異世界をきままに生き抜くみたいです

ガチャ空

クラス転移

「ったく……ダルいな……」

 

 俺はいつもと変わらぬ景色のいつもの道――通学路を歩いて学校へと向かっていた。


 ――チリン♪ チリン♪


 脳を刺激する不快な金属音に反応し、俺は横へとズレて歩道を譲る。


「ハル! おはよう!」


 その直後、幼い頃から何度も聞いた少女の声が俺の耳に届く。


「……無闇にベルを鳴らすな」


 俺は不快な金属音を鳴らした少女へ気怠い声で返事をした。


「まぁまぁ……そんなこと言わないの」


 少女は自転車から降りると、俺の隣で自転車を押しながら同じペースで歩みを進める。


「いやいや……降りなくていいから。先に学校に行けよ」

「またまたぁ……そんな寂しいこと言わないの」


 俺の隣でトレードマークであるポニーテールを揺らしながら笑みを見せるのは――辻野つじの秋絵あきえ。辻野と俺の関係は腐れ縁……所謂、幼馴染だ。


「辻野さん、部活は?」

「わっ!? 出た……ザ、他人行儀! 何でハルは学校が近くなると、こんな寂しい話し方になるかなぁ」


 その答えは、余計な敵を作らない為の護身術だ。


 出る杭は打たれる。


 学校と言う閉鎖された社会で目立つことは、よほどのコミュニケーション能力がない限りは、嫉妬の対象となる。


 俺のモットーは平穏無事な人生を歩むこと。


 辻野は分け隔てなく誰にでも明るく接するし、容姿も……可愛い部類に入るだろう。


 中学時代は何度……辻野を紹介してくれと周囲の人に頼まれたか……。紹介するのはいい……いや、面倒だし、良くないけど。問題なのは紹介した奴を辻野がことごとくお断りすることだった。結果として、紹介した奴らからの俺への当たりが異常に厳しくなった。


 理不尽な世の中だ。


 まぁ、そんな過去を辻野にバカ正直に説明する気はないが……。


「で、部活は?」

「わぁ……ハルのツンモードが止まらない!」

「辻野さん、部活の朝練は大丈夫なのですか?」

「――! 悪化した!? 昔みたいにアキって呼んでもいいんだよ?」

「つ・じ・の・さ・ん……部活は?」

「ぐぬぬ……部活は期末試験の一週間前だから休みだよー」


 辻野は陸上部に所属しており、実力は全国大会常連。学校からの期待も高く、普段であればこの時間は朝練に参加しているはずだった。


「期末試験か……」


 俺は憂鬱な気持ちを抱えながら通学するのであった。


 いつもと変わらぬ日常に、辻野と一緒に登校したというほんの少しの変化。


 俺の記憶にある最後の日常はそんな朝だった。


 そして朝礼の最中、あれは先生が出欠の確認をしているときだった……


「早川」

「はい」

「藤野」

「はーい」


 早川……藤野……古瀬……そして、俺――松山の名前が呼ばれるまであと少しと言うタイミングで――


――!?


 教室全体が眩い光に包まれ――俺は意識を失ったのであった。



  ◇



「ここはどこだ……?」


 聞こえるのは、風で揺らぐ草木の掠れる音。空気を吸い込めば、自然特有の香りが鼻孔に広がった。


 周囲を見渡せば視界に映るのは――


「……森?」


 そして、地面に倒れている見知った顔――クラスメイトと散らばった学校指定のリュックサック。


「どうなっているんだ……?」


 理解不能な現状に放心状態に陥っていると、


「う、うぅぅ……」

「……どこだ?」

「……えっ?」

「な、何が起きたの……」


 次々とクラスメイトたちが起き上がり、先程の俺と同様に周囲を見渡し、困惑していた。


 10分後。

 周囲に倒れていたクラスメイト全員が意識を取り戻した。


「え、えっと……私たちの置かれている状況を説明出来る人はいますか?」


 三つ編みにしたおさげを下げた生真面目なクラスメイト――学級委員長の古瀬ふるせ里帆りほが周囲のクラスメイトに問いかける。


……


 しかし、古瀬さんの問いかけに対する答えは静寂――答えられるクラスメイトは誰一人居なかった。


「おい! 誰かいねーのかよ! 答えろよ!! ここはどこだよ!!」


 静寂した空気の中、普段から短気なクラスメイトの怒鳴り声が響き渡る。


 あんなのに声をかけるのは面倒だ。どんな八つ当たりが飛んでくるか分からない。俺は視線が合わないように、顔を下に向ける。 


「落ち着け」


 そんな厄災に顔の整ったクラスメイトが臆することなく声をかける。


 彼の名は獅童しどう夏彦なつひこ――容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能……そして、何の因果か俺の幼馴染だった。


 獅童はサッカー部のエースで、クラスカーストの上位。怒り狂うクラスメイトも獅童の声は無視できない。


「夏彦!……落ち着けって言われても無理だろ!」

「不安なのは、俺も……皆も同じだ」

「で、でもよぉ……こんな森の中で――」

「落ち着け!」


 獅童の有無を言わせぬ力強い一言に相手は押し黙る。


「今の状況を説明出来る人は誰もいない、ってことでいいかな?」


 場が落ち着いたところで、獅童は周囲を安心させるような落ち着いた笑みを浮かべて周囲のクラスメイトを見回し、声をかける。


 俺は周囲のクラスメイトと同調するように何度も首を縦に振った。


「まずは、現状の把握からしようか。まずは大きな疑問点は2つ――」


 獅童はまるで教壇に立つ先生のように指を2本立てて、言葉を続ける。


「一つは――ここはどこか? 森の中、と言うことは分かる。しかし、ここはどこの森だろう? 金沢市内の森? 石川県内の森? 日本国内の森? 修学旅行にはまだ早い。流石に、国外では無いと信じたいけどね……」


 獅童は肩を竦めて苦笑する。


「二つ目は――俺たちは何故ここにいるのか? 皆の顔を見る限り……ここにいるのは二年三組のクラスメイト。俺たちはいつの間にかクラスメイト全員で、見知らぬ森の中で倒れていた」


 獅童が俺たちの置かれた現状を冷静に言葉にした。


「あ、あの……」

「ん? 古瀬さん、何かな?」

「ここにいるのは二年三組のみんなで間違いないと思うけど……本当に全員いるのか、確認をしませんか?」


 周囲にいる人たちの顔を見回せば全員顔見知り――クラスメイトだ。しかし、全員の顔を確認したのか? と言われれば、してなかった。


「古瀬さんの言うとおりだな。これから二年三組の出欠を取ろうか」


 獅童と古瀬さんが主導し、俺たちは互いの存在を確認した。


 結論から言えば……二年三組の生徒27人が全員この場にいた。


 そして、互いの存在を確認し合った俺たちは、知らない場所にいながらも、見知った顔の存在に……安堵を覚えるのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


お読み頂きありがとうございますm(_ _)m


評価、感想を甘口から辛口まで大募集です。面白い、つまらないなど、一言でもいいのでご感想お待ちしております。


お付き合いの程、宜しくお願い致します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る